もっとチートでヒャハーとかでいい。

 帰り道。


 帰りも買い出しした物資載せた荷車引き引きだけど、色々嬉しくてテンション上がってた為か、なんか疲れっていう疲れ感じなかった。

 帰って来て、グッズを家や納屋に運び込んで簡単な食事を済ませたらすっかり夜だ。

 明日も狩りかな?

 ってか剣、思い切り振ってみたいなぁ……。

 剣を振る……自在に使いこなす筋力付けたい。アベさんに認められるくらい使える奴になりたい。


 ……あれ?


 気が付けば俺……この世界に適応する方向に全力を傾けてるな。

 まあ初期コンセプト①の生活基盤確保からブレてはないが、気持ちが過剰適応な気がする。もう今後アベさんと暮らして行くぞってな勢いだ。両親の事がなければそれでも……いや、帰るべき? 


 帰りたい? 帰りたいのか? 俺。


 例えば今、目の前に穴が空いてその先にナンコシの街並みが見えたとして。

 迷わず飛び込めるか?

 帰ったとして何がある?

 面倒なレポート、先行き不安な就職活動、四十年のリーマン生活、冷遇間違いなしの長い老後……それが人間らしい人生なのかなぁ……?


 例えば。例えばだよ?

 ここでアベさんと狩猟生活してアベさん年取ったら面倒みて、自然と一体の暮らしして、老いたらひっそり死ぬ、とか。

 ……悪くない。てか今のアベさんと師弟みたいな関係、簡単に捨てられない!


 けど両親が……手前味噌だが苦労人のいい両親だからな……長男としてはほうっておけん。


 テクノロジーには強いがどっか前時代的な正義感の強い父ちゃん、4人も子供産んでるのに更に託児所でパートするザ・子煩悩の母ちゃん、俺が行方不明になったら悲しむだろうな。

 今はまだ元気だが、年取ったら、ちゃらんぽらんな弟達は面倒みてくれるだろうか?


 ……帰るべきだ。やっぱり。

 元々ここは俺の世界じゃない。何かの間違いで紛れこんだんだ。チャンスがあれば迷わず帰る覚悟、決めとかないと。その時、尻込みしないように。アベさんにその辺の事情も説明しとかないとだな。でないと、不本意な不義理をかますことになりかねない。


 正直自分がこんなことになるまで、世にあまたある異世界トリップものってストレートに逃避願望、ちょっと捻った「努力なしに特別扱いされたり賞賛されたりしたい」って安易な承認欲求が見え隠れする気がしてなんとなく斜めに見ていたが、実際自分が経験するともっと複雑な体験なのな。

 気楽にアイテムやチートな能力貰えて勇者様になれるわけでなく、サバイバルに始まり、人の優しさに触れ、異文化に驚き、その中で自分を見つめ直し、新しい自分を見つけ……って書くと、よく書きすぎな気もするが、なんかイメージしてたより複雑で、人間関係とかできちゃうと……ジレンマ。


 もう……寝よう。


 なんか街行ったり剣買って貰ったりして浮かれてたが、微妙で複雑な立場なんだった俺。

 早起きして剣の素振りをしよう。

 装備品を買って貰った以上、戦力としてアベさんの役に立てるようにならないと。一日も早く。

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