初めに言葉あり。マジで。
道具の手入れを手伝う。
ボウガンとイボみたいな棘付きの棍棒、それと短い剣。短いっつったけど実際こんなもんなんかな。携帯することを考えると、アニメやゲームに出てくる剣は長すぎるような気もする。
ってか言葉な。
どうもアベさん、俺に対してゆっくり喋ってくれてるらしくて、頻出する単語とかがなんとか聴き取れるようになって来た。
こっちの言葉の発音は、すーっ、と息を吐くような空気の発音? みたいなのが多くて、声を音で出す日本語に慣れた俺には聴き取りも発声も難しい。
えーと、さっきメモったのは
・クゥディッ(スー) → 机、作業台
・ェリミィ → 食事
・ツゥーヌ → 狩り
で、単語が分かってくるとおぼろげながら文法も見えてくる。
どうも平文の場合は目的語、動詞、主語、みたいな順序で喋るっぽい。
けど100パーそうってわけじゃないし、主語はバンバン省略されるみたいなんだけどその辺の細かいルールや場合分けがよう分からん。
まあできるとこからコツコツと。こっちの言いたいことを伝えたいも勿論あるんだが、もっとアベさんが話しかけてくれてることを理解したい。で、もっと役に立ちたい。こんな気持ちは初めてかもしんない。向学心、と言っていいんだろうか。
手入れがてら、簡単にそれぞれの道具の使い方も教わる。
ボウガンって手でツルを引くんじゃないのな。刻みがついた金属棒と手回しハンドルでできた専用のツル引きマシンみたいのがあって、それを引っ掛けてハンドルを回すとグリグリとツルが引かれてく。面倒だな。連射できねーじゃん。
剣。アベさんが納屋から木で出来た練習用の剣を出してきてくれて、軽く稽古付けてもらった。
なんかあれだな。
すごい勢いでこの世界の住人になりつつあるな俺。
南越谷に帰れたとして、スムーズに社会復帰できるだろうか。
風呂とトイレの不便に目をつむれば、この世界の暮らし、意外と悪くない。
事務的な雑務や人間関係の義理人情に縛られず、時間に追われることもない今の生活に、どこか癒されている自覚がある。帰ればまたそういうのに雁字搦めの毎日が待ってるんだよな。うーん……。
やめよう。考えるのは。
当座、ここでの生活を確かにしなけりゃ、帰る方法も何もあったもんじゃない。
それに兄弟や、心配性な両親の為にも、いつまでもこのままってわけにもいかないよな。明日は早起きしてツゥーヌ、「狩り」だ。寝よ寝よ。
・グモルナ(ィ)ルスタ → 棍棒
・タバリィッ(スー) → ボウガン
・ドッスゥオルゥ → 剣
発音しづらい。覚えづらい。むずい。
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