2ページ

「夏休みなのに勉強ばっかりして、寂しくないわけ? 遊んでくれる友達いないの?」

 ちょっと意地悪して聞いてみるとムッとした様子もなくサラリと「寂しくないし」と返された。

「勉強漬けだからって勝手に寂しい奴にしないでくれる? 僕だって友達くらいいるしちゃんと遊んでいるんだから」

 あっそーでございましたか。ここで参考書開いているのは別に寂しいとかじゃなくて、ただ都合が良いからですか。冷房完備だし絶品のコーヒーも飲めるしな。

 俺としては勉強をしていたとしても弟が遊びに来てくれたみたいで嬉しかったりしたのに。なんて絶対に言わないけれど。

「それに勉強をしているのは自分が希望したからだから、嫌々している訳じゃないし楽しいから良いんだよ」

 勉強が楽しいだって? さすが俺の弟だな、なんて。

「変わらず勉強家だな、孝宏は。そんなに面白い勉強を習っているのわけ?」

「まぁね、知らない事を知ってくのは楽しいよ。それに」

 それに?

 孝宏は答えながらまた参考書に視線を落とす。

「これを勉強したらあの人と一緒に居られる時間も増えるし」

「え?」

 訊き返したのに孝宏は黙って黙々とペンを動かしている。確かに独り言のように呟いてはいたけど・・・その言い方、気になるじゃんか。

 その後何度か話しかけてみたけれど俺が「買い出しに出かけるから留守番を頼む」と言うまで顔を上げる事すらしなかった。 

 お兄ちゃん、ちょっと寂しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る