砂時計を反して
カゲトモ
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「どうしたんだよ、家を追い出されでもしたのか?」
黙々と参考書を眺めている孝宏に声を掛けても黙ったまま顔を上げようとしない。どうやら随分と参考書にお熱な様だ。孝宏は昔から何かに集中すると周りの音が耳に入らない性格で、それが彼の短所であり長所だ。
出合った頃も孝宏の両親が揃って出掛ける時は必ず本を持って祖父であるマスターを訊ねて来ていたし、俺はそのバーで修業させてもらっていたから孝宏が小学生になる前から知っている。夕飯を持って行ってもジュースのお替りを持って行っても孝宏はほとんど喋らないし、気付かないしで困ったものだった。ジャズの流れるバックルームでひたすらに本を読み耽っていた小さなつむじが懐かしい。
今もあの頃とあまり変わらない可愛らしいつむじだけど。
「何か今しょうもない事を考えていたでしょ?」
しょうもないって、そんなことないし。昔を思い出していただけだし。
「なんで歳を取ると思い出話ばかりしたがるんだろうね」
「なっ」
やめろ、そんな目で見るな。なんでかは知らねぇよ、お前より長く生きているからだろ。
「ふーん」
なんだよそのリアクションは。若いってだけですました顔しちゃってさ!
「俺だって若い頃はちゃんとあったんだからな」
「知ってるって」
付き合っていられないとばかりに孝宏は長く息を吐く。
「だって想太さんが十八の頃から知っているじゃない」
まぁそうだよな。俺だってまだ孝宏がこーんなに小さな時から知っている訳だし。そう思えばあれから長い月日が経ったんだなぁなんて「あの不良がねぇ」
「るっせぇっ。お前だって毛も生えていないような子供だっただろーが」
「当たり前でしょ。まだ小学生とかそこらだったんだからさ。逆に生えていたら怖いし」
ちっ。
全く孝宏の将来が心配だぜ、お兄ちゃんは。何て言ったら勝手に兄貴面するなって言われそうだ。孝宏は俺と同じで一人っ子だし。
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