第3話 約束
次の日、僕は朝食を済ませた後、
僕は川内さんに連れられて、近くの喫茶店に行った。
まだ開店間もない時間なのか、
お客は僕と川内さんのふたりだけだった。
川内さんが店員を呼び、アイスミルクティーをふたつ注文した。
「よかったよね」
「・・・うん・・・」
僕は、コーヒーもココアも炭酸も飲めない。
おまけに猫舌。
なので喫茶店での注文は、アイスミルクティーと決めている。
川内さんは、それを覚えていてくれたのか・・・
少し嬉しかった・・・
店に入ってから、川内さんはこちらに越してきてからの事を、
いろいろとお話をしてくれた。
その情景は思い浮かぶようだった。
空白の時間が埋められていく・・・
でも、なぜか川内さんは、僕の事を訊いてこなかった。
僕が話したくないのを悟ってくれたのか、
その心遣いが嬉しくもあったが、怖くもあった。
「あの・・・」
「どうしたの?藤本くん」
「昨日の話だけど・・・」
川内さんは、少しあきれた表情を浮かべた。
「まだ、わからない」
「うん・・・」
「相変わらず鈍いね。藤本くんは・・・まあ、そういうところが好きなんだけどね・・・」
「えっ」
僕は理解ができないでいた。
ここまで鈍いと、一種の才能だな・・・
川内さんは、続けた。
「横の壁を見て」
その一言に、壁に目をやる。
そこには、見た事のあるイルカの絵が、額縁に入れて飾られていた。
「この絵は・・・」
川内さんが、昨日のハガキを僕に見せる。
「そう、藤本くんが描いてくれた絵を、拡大したものよ」
僕には、わけがわからなかった。
「藤本くん、言ってたよね。自分の絵を大勢の人に見てもらいたいって・・・
だから、この絵を飾ってもらったの」
「この絵は、とても人気があるの。なので、この絵を見たくて店に来る人もいるの」
川内さんの発言に、僕は驚きを隠せなかった。
「どうして?」
川内さんが、続けた。
「君が今も、絵を描き続けているのは、その手を見ればわかるわ。
だから昨日会った時、私はとても嬉しかったの」
「川内さん・・・」
川内さんは、いきなり僕の手を握ってきた・・・
「だからお願い。これからも、描き続けて。」
川内さんの嘆願に、僕はうなずくしかなかった。
「約束するよ。描き続ける」
「ありがとう」
川内さんは、満面の笑みを浮かべた。
でも、ひとつ疑問が残った。
「でも、よく飾ってくれたね。無名の僕の絵なんか・・・」
川内さんは、一呼吸置いて答えた。
「ああ、それわね・・・」
その瞬間、まばゆい光につつまれ、意識が遠のいていった・・・
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