第458話 最終回・ギルマスからルーへの手紙

拝啓


 やあ、ルー。

 元気にしているかい。


 神様業、ずいぶん頑張っているらしいね。

『エリカノーマ・ネクストジェネレーション』の世界を片っ端から回収しているんだって ?

 東西南北から聞いたよ。

 それはもう情け容赦なく潰して、女神たちの神力も貰ってるってね。

 いや、非難しているわけじゃないんだ。

 確かに初めはどうかと思ったんだけどね。

 私とアルが恋仲になった世界があるなんて聞いたら、思う存分にやってくれという気持ちになったよ。

 それにこちらにはない世界樹ユグドラシルなんてものを作って、捕虫灯よろしく大御親おおみおや様の世界から魂を呼び寄せる女神もいたなんてね。

 よくぞ燃やしつくしてくれたと大御親おおみおや様もお喜びだったよ。

 それに奪われた魂をルーの物にすることで元の世界に戻してくれたと、それはそれは感謝されていた。

 あの方もルーたちの活躍で少しゆとりが出来たらしくて、たまにはざまの世界に呼ばれてお話を聞くことがあるんだ。

 マールは「神様と茶飲み友達かぁ」なんて言っているけれど、君たちの活躍を教えてもらえるから私としては有り難いと思っているよ。


 末姫すえひめのこと、聞きたくないかい ?


『丞相の前に丞相なく、丞相の後に丞相なし』


 彼女の後に続く女性文官を期待されていたけれど、結局のところ同じような成果を出せる人物はいなくて、未だに女性文官は採用されていない。

 それくらい末姫すえひめは凄かったってことだね。

 まあエイヴァンたちに育てられたのだから当然だ。

 逆にあのレベルを求めるのは無理なことだと思うのだがね。

 彼女の育てた次世代の後は当たり前の人材しかいなかったしね。

『大崩壊』から末姫すえひめまでは、歴史上『黄金の時代』と呼ばれているよ。


 そう言えばアンシアが亡くなってから末姫すえひめが何をしていたと思う ?

 なんと彼女、小説を書いていたんだよ。

 作家名は『ワルド・ワズィール』。

 正体不明の謎の人気作家。

 一体誰だろうと話題になったけれど、正体がバレたのは北の大陸にまで作品が広まってから。

 あちらの古語で薔薇と宰相を意味しているって歴史学者が気付いたからなんだ。

 末姫すえひめはあの鮮やかな髪の色から『薔薇の丞相』と呼ばれていたからね。

 彼女は作品は自分の死後五年は発表しないようにと遺言を残していた。

 道理で気付かなかったわけだ。

 知った時には後の祭り。

 帝国どころか西の大陸にも広がっていて、当時東の諸島群にいた私達には止めようがなかったんだ。

 そう、末姫すえひめが書いたのは『ルチア姫の物語』。

 以前の美麗な文章を簡潔にして、男性にも読みやすくなっていた。

 ストーリーとしてはゲームをベースにしていている。

 スピンオフでアンシアのラブストーリーも書いていたよ。

 もちろんオリジナルの『エリカノーマ』もね。

 それと私としては納得していないが、ほら、あの、北の王国の城の場所。

 あれも絵本にした。

 当時の王が報酬を出し渋ったって事までしっかりと書かれていたよ。

 もちろん「王様は反省して良い王様になったので、ずっと後になってから英雄はお城を元の場所に戻してくれたのです」って一応フォローはしてあったけれどね。

 以前シジル地区にあった絵本も復刊して、『英雄マルウィン』シリーズで売り出している。

 紙芝居にもなっていて、恥ずかしいことこの上ない。

 でもきっと末姫すえひめは私たちに何か仕返しをしたかったんじゃないかな。

 彼女の進路を狭めてしまったんだから、多少のしっぺ返しには目をつぶろうじゃないか。

 生まれ変わってルーの約束した『薔薇色の人生』を送れただろうことを祈っているよ。


 シジル地区と言えばあそこがスラムだったと知っている人もいない。

 徹底的に破壊されたからね。

 あの門の跡が『大崩壊の門』と呼ばれて歴史遺産として残っているくらい。

 末姫すえひめがアンシアの物語を書いたことでそんな歴史があったんだと初めて知った人ばかりだ。

 今ではシジルと言えば『ヅカ・ド・シジル王立少女歌劇団』のことを指すからね。

 お方様とエリカノーマ陛下が盛り上がって作ったあの歌劇団。

 あれの設立にはルーも随分と手伝わされたね。

 あの後もベナンダンティの仲間が演技指導とか色々手伝っていて、システムはかなり正確に再現されている。

 楽器はピアノとギターと笛、それと打楽器しかないけれどね。

 でも工夫していい音を出しているそうだよ。

 今ではあれを見たさに王都に来る他国人も増えているんだ。

 こちらでも男役は大人気だよ。

 今はアンシアのミュージカルを上演している。

 身分の違いを乗り越えて結ばれるのはいいんだが、何故か『大崩壊』でバルドリック殿が死にかけて、アンシアが愛の力で治癒魔法を使って助ける話になっている。

 友人枠でエイヴァンは出て来るけれど、他の皆は影も形もない。

 まあ、ルーは扱いが難しいからね。出さなくて正解だよ。

 そんなわけでこの世界独自の文化を花開かせたいと言うルーの夢は、ベナンダンティたちによってしっかり阻まれている。

 もう諦めなさい。

 ここは世界だよ。


 ところでこの前「神力が強くなったから仲間をふやせます。ギルマスも眷族神になりません ? 」って言ってたろう ?

 あれ、まだ有効かな。

 ルーと出会ったときには九十を超えてたから、私の時はすぐに終わるだろうって思っていた。

 でもルーの対番、つまりマールだね。

 マールが輪廻の輪に入るのを見届けたら私も続こうと決めていた。

 でも、マールときたらまだ生きるのに飽きていないんだ。

 『彷徨さまよえる冒険者』なんて呼ばれて、世界中を旅してまわっている。

 もちろん『天地あめつちの王』の伝道者の仕事もしてはいるけれどね。

 でも彼と違って私は末姫すえひめのせいで名前も顔も売れすぎてしまった。

 気ままな冒険者生活はもう無理なんだ。

 ここのところ『ダルヴィマールの隠れ里』から出られていないし。

 だから別の世界でルーの手伝いをするのもいいかなと思うんだ。

 どうだろう。

 みんなの意見も聞いてみてくれるかな。

 それじゃあ、また。

 いい返事を待っているよ。


                敬具


追伸


 それにしてもマール、五百年はいくらなんでも長すぎるんじゃないかね。

 ルーもそう思うだろう ?

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