第457話 だから僕は待っている
僕の名前は、えっと・・・なんだったっけな。
あ、そうそう。
僕の名前は
白いのか黒いのか迷うよね。
なんでも最初に会った時に逆光で黒く見えたんだって。
後から真っ白なことに気が付いて、慌てて
でももう誰も僕を本当の名前で呼ばない。
お屋敷の人も街の人も『シロ様』って呼ぶ。
ただのシロって呼んでくれるのはもう二人しかいない。
それも時々、本当に時々しか来てくれない。
お屋敷の人達が何人か入れ替わってからのことが多い。
少し寂しいけど「シロ、ひさぶりだね」って鼻面を撫でてもらうのが楽しみで我慢している。
僕は広いお屋敷の敷地の中で好きなように過ごしている。
小さい頃はお屋敷の中にも入れたのだけれど、今は大きくなりすぎて外に僕専用の家を建ててもらってそこで寝てる。
騎士さんたちとの鬼ごっこは大好きだ。
逃げる僕を捕まえようとするけれど、騎士さんたち遅いんだよね。
大抵「参りました」って頭を下げられて終わる。
そして美味しいおやつをもらうのが僕の仕事。
僕の仕事はまだある。
街の見回りだ。
悪い奴らが街に入って来ないように目を光らせている。
迷子を見つけて冒険者ギルドに届けるのも僕の役目だ。
泣いてる子も僕のフワフワの尻尾でくるんであげると、すぐに泣き止んでかわいい寝息をたてる。
そして親に抱っこされて帰るんだ。
そんな時はちゃんと仕事ができたと誇らしく思う。
みんなは僕をフェンリルだと思っているけれど、本当は魔物じゃなくて神獣なんだよ。
ママたちが東西南北って呼んでるじーちゃんたちは世界の四つの方向を守っている。
パパが空の王様でママが地面の女王様だから、僕は空と地面を繋いで二人の力が世界中に広がるようお手伝いをしている。
だけど僕は街から出ることができない。
僕はまだまだ子供で、世界を守る力が弱いんだって。
しっかり大人になるまで同じ場所にいないといけない。
だからこの街の中で大きくなるのを待っている。
もう少ししたら人間とお喋りできるようになるから、そうしたら世界中のどこへでも行っていいんだ。
その日が来るのを楽しみにしている。
ここのところ僕はソワソワして落ち着かない。
だって、久しぶりにあの二人が来るんだもの。
前に来たのは冬だった。
珍しく大雪が降って、街中が真っ白になった。
あの二人が近くに来ているのはわかるのに、一体どこにいるのだろうと探し回ったら、いつの間にかお屋敷に来ていた。
髪も服も真っ白だから、雪に紛れてわからなかったんだ。
今は春。
並木道の花が風に舞って、僕の自慢の毛並みを桃色にする。
あ、二人が街の門をくぐった。
来るかな、もう来るかな。
でも二人とも街の中をウロウロしてお屋敷に来るそぶりがない。
久しぶりだからあちこち見て回ってるのかな。
このまま待っていてもいいけど、やっぱり早く会いたいな。
「あ、シロ様、どちらへ ? 」
門の騎士さんが声をかけるけど、それを無視してピョンと門を飛び越える。
そして、二人のいる方へとゆっくり走った。
会いたかった。
会いたかった。
迎えに行くよ。
背中に乗ってくれる ?
一緒にお屋敷に行こう。
もうすぐ会える。
もうすぐ会える。
嬉しくて、嬉しくて、パパとママにはダメって言われてるけど、僕は力いっぱい走ってもう一つの門を飛び越える。
あ、ちゃんと人や馬車は跳ね飛ばさないよう気をつけたよ。
今日は許してくれるよね、ママ。
だって久しぶりに二人に会えるんだもの。
ほら、見えた !
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次回が最終回になります。
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