第454話 末姫さまの思い出語り・その58
二つの光球が寄り添うように渦に飲み込まれていく。
寝室の天井はいつの間にか元に戻っている。
ダルヴィマール親子は何か悟ったのか静かに部屋を出て行った。
「最後まで・・・決着をつけられませんでした」
見慣れた姿のマール。
義母の手を丁寧に組み合わせ、寝具を整える。
「ついに私一人になってしまいました」
「まだ私がいるだろう ? お互いもう少し長生きしよう」
ギルおじ様がマールの肩を抱き寄せる。
不思議なことに私は悲しくはなかった。
ただただ義母の人生が鮮やかで、この家に嫁ぎ導いてもらえたことを有り難く誇りに思えたからだ。
「
「元気そうだな、
「やあ、頑張っているね、
義母の遺体に手をあわせる私に、両親とおじ様方が笑顔で声をかけて来る。
死者を弔う時であると言うのに、その明るさになんとなくムッとしてしまう。
ここで会ったが 百年目。
言いたいことは言わせてもらおう。
「お久しぶりです。皆様、
「え、えーと、それは・・・」
自分で選んだ道だけれど、そもそもその道しか選びようがなかったのはおじ様方のせいなので、その件については一言謝罪をいただきたいと思う。
「私はお茶会にも夜会にも出られず、殿方から誘われることもなく、夜会で踊ったのはエリアデルのおじ様との一度だけ。貴族婦人の嗜みの楽器演奏も刺繍も出来ない頭でっかちの優雅とは真逆のもしかしたら両親とは血が繋がっていないのかもしれない冷徹でミスリル鋼より固い女宰相と蔑まれていたのは、一体どなた様方のせいでしょう」
おじ様方は気まずそうな顔で目を逸らせる。
神様になったと言うのに、なんだか全然変わっていないような気もする。
もっともどんな振舞いが神様らしいのか知らないけれど。
「まあ、もう失ってしまった私の青春を今更どうしろとは申しませんけれど、次の世はそれこそ神様権限で薔薇色の人生を送らせて下さいね」
「も、もちろんよ、
「お母様はいいです。おじ様方の悪だくみをご存知なかったんですもの。私はおじ様方に申し上げているんです」
「すまなかった ! 」
おじ様方が一斉に九十度の礼をする。
九十度って神様への礼だと思うのだけれど、その神様から頭を下げられる私はどんな存在なのだろう。
もう、いいかな。
今更失くした時間は戻らない。
これで手打ちとしよう。
ヒルデブランド流土下座をしてもらえなかったのは残念だけれど、神様にそこまで求めても、ねえ ?
「ところでお母様、今までどちらへ ? どこかの世界を救いに行くとかおっしっていましたけれど」
「ああ、そうなのよ。本当に大変だったの。私たちが増殖してしまっていて」
ここは祖父母の若い頃の物語の世界だ。
そして両親の世代の物語もある。
けれどそれは作られたものではなく、母たちの人生を雛型にしたものだと聞いている。
それが増殖 ?
「かなり人気が出たせいか、同じ設定の世界を作る神々が多くてね。異世界転生、異世界転移、潰さなくてはいけないのがたくさんあったのよ」
たくさんの神がたくさんの母の物語の世界を作る。
あの『普通』でない母が山のように ?
それってどんな恐怖の世界だろう。
「安心しろ、
「異世界転移はなかったけれど、異世界憑依はあったのよ。自分の世界で生きているのに、何故か物語のキャラになってしまうっていうのがね」
ベナンダンティと似ているけれど少し違う。
二つの世界を分けて生きているのがベナンダンティ。
憑依は別の人に成り代わってしまうこと。
けれど元の魂はしっかりあるわけで、それとの兼ね合いが難しいらしい。
「
「たまに同化しすぎて魂がその世界に取り込まれてしまう子もいて、そうすると元の世界の身体は生きているだけ、死ぬまで眠ったままになってしまうんだ」
そうなる前に引っぺがして元の世界にお帰りいただくそうだ。
そして物語の終焉を待ってその世界を『神力』に戻していただいてしまう。
「・・・まるで畑の収穫が済んだ時期を狙って山から下りてきて根こそぎ奪う山賊のようですね」
「ま、まあそれはそうだけど、元はと言えばあちらが
右の頬を叩かれたら、往復ビンタと回し蹴りで返せ。
別の世界の祖母の教えだそうだ。
ルーはその辺り情け容赦ないからな、とおじ様方が笑う。
神様の世界って、もしかして人間世界より弱肉強食 ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます