第427話 末姫さまの思い出語り・その31

 近況ノートにも書きましたが、本作品のタイトルを募集いたしております。

 近況ノートの方にどうぞご提案ください。

 よろしくお願いいたします。


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 近衛の食堂でお茶をしていたフィッツパトリック様は副団長。

 団員の日々の様子から健康や精神状態を推し量り、同じテーブルを囲むことでさらにその問題点を探り出す。

 とても細やかな気配りが出来る方なのだ。

 こういう方が宰相になってくれたら良いのだが、近衛騎士団の団長職は代々グレイス家が務めると決まっている。

 現当主のバルドリック様がご高齢なので、近々フィッツパトリック様が継がれると聞いている。

 そして宰相職は公正を期すために他の部署との兼任は出来ない。

 そうでなければフィッツパトリック様に宰相になっていただき、私は普通の平凡な貴族令嬢として幸せな結婚が出来たはずだ。


 責任は取ってもらおう。


「それで ? 宰相府のダイミョー行列とは、近衛騎士団は何か燃やされるような不手際を起こしただろうか」

「・・・それは副団長殿のお答え如何ということで」


 特に隠すようなこともないから何でも聞いて欲しい。

 そう言って椅子を勧められるが、ここは立ったままで。

 だって私は母に似て小柄なほう。

 長身が多い貴族男性と並ぶと『上から目線の上目遣い』というおかしな状況になってしまって、貫禄とか威圧感とかが消えてしまうのだ。

 職員からは日頃から「舐められない為にお嬢は必ず一段高いところに立っていてください」と言われている。

 なので、とっても偉そうな態度を取らせてもらう。


「副団長殿には、貴族婦人の就業についてどうお考えでしょうか」

「そのことについて否定的な言行をした者がいたかな」

「私はそれについての副団長殿のお考えをお伺いしております」

「・・・これはいい加減に答えてはいけないようだね」

 

フィッツパトリック様は組んでいた足を戻し背筋を伸ばす。


「あくまで私個人としての意見だが、貴族婦人、特に高位貴族が働いてはいけないなどとは考えていない。平民の女性は働く続けている者も多いし、実際王城で侍女や女官として出仕しているご婦人方がいるのだから」


 よっし、つかみはおっけー !


「そのようなご婦人方もご結婚と同時に退職することが慣例となっていますが、結婚後も働き続けることについては ? 」

「乳母として取り上げられるご婦人もいるのだから、特に問題はないように思う。ただやはり夫婦でよく話し合った上でではないだろうか」


 

 夫婦共働きは構わないと。

 よし、続いて一番の問題点について聞かなくちゃ。


「それでは出産後も働き続けることに関してはどうお考えでしょうか」

「それは少し難しいな」


 おや、否定的な意見が出るのかな ?

 私は羽扇子を開いてムッとした口元を隠す。


「妹が生まれた時、母は悪阻つわりが酷くてね。水すら飲めずに衰弱していった。君のお父上のカジマヤー卿が助けて下さらなかったら、きっと母娘ともども儚くなっていた思う」

「・・・」

「その状態が終わってからもどんどん大きくなる腹であちこち不調が出たし、生まれたら生まれたで、体調が戻るのに数か月かかった」


 フィッツパトリック様はその頃のことを思い出したのか、眉間にしわを寄せ厳しい顔をなさる。


「そんな母を見ているから、生まれるまで働け、生み終わったんだから働けとは言えない。もちろん本人の意思を尊重するべきだとは思うが、一番に考えなければいけないのは健康と命ではないだろうか」

「つまり、家族や職場の理解と手助けがあれば、出産後でも同じ職場で働き続けることも可能だと ? 」


 どのような補助が必要か、出産前後でどの程度の休みを取るべきか。

 そういうことを決めておけばご婦人も働きやすいのではないか。

 フィッツパトリック様は続ける。


「だから、まずは沢山のご婦人からの情報収集が必要だと思う。道筋をつけておけば、才能あるご婦人方が活躍する場もあるだろう」

「なるほど。では副団長殿はご自身の伴侶がそのように働き続けることに抵抗はないと」

「君のお母上の ダルヴィマール侯爵閣下も、魔法の才を人々のために使っているじゃないか。私は社交や援助だけが貴族婦人の仕事とは思っていないよ」

 

 はい、言質いただきました !


「それで、私は燃やされずにすむのかな ? 」

「ええ、ご立派なお考えですこと。でも、それを実行するには足りないものがございますわね」


 行け、行っちゃえ、私 !

 ここで引っ込んだら乙女がすたるというものだ。

 私は羽扇子を閉じて後ろに控えたマールに渡す。

 そして左の指につけた指輪を引き抜くと、フィッツパトリック様の前に跪いた。


「私と結婚してください、フィッツパトリック様」

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