第426話 末姫さまの思い出語り・その30
私はダルヴィマール侯爵家の末っ子で、だから
従兄弟たちとも同じ。
二の姫と呼ばれる姉とは五つ。
で、御三家の従兄弟たちは全員既婚者だ。
女帝陛下の御子は一人は当家に婿入りしているし、別の皇子のところに私が嫁入りすると権力が偏るのでナシだ。
じゃあ他のお家はと言えば、将来的に私の立場がどうなるかわからない以上、安易に嫁にもらったら後が怖いと近づいてこない。
嫁の権力を利用しようにも、次期宰相の最有力候補として有名だ。
私の名前を使って嫁ぎ先が何かしようとしたら、絶縁からの離婚と没落一直線とみんな理解している。
私、どれだけ恐れられているんだろう。
そんな感じで消去法の末に残ったのはただ一人。
思い立ったが吉日。
私は猛然と今日の書類を片付け、荷物を鞄に詰めて帰宅準備をする。
「
私が
「ちょうどよかったわ、マール。少し付き合って」
「おや、姫様。どちらまで ? 」
「ちょっとそこまでお婿様を捕まえに」
「「ええぇぇぇっ ?! 」」
後ろでなんか悲鳴が聞こえる。
「男は愛嬌、女は度胸。今日こそお父様を安心させる ! 」
「正しくは『女は愛嬌、男は度胸』ですが、
目的地は王城の端、騎士団棟の集まる場所。
その中でも本棟に一番近い近衛騎士団だ。
私は今まで二十歳前後の殿方を相手に探していた。
だが父の死が近い今、年齢で縛っては見つかるはずがない。
そこで範囲を広げてみたら、一人だけこれはという人物を見つけた。
フィッツパトリック様だ。
彼はグレイス公爵家の嫡男で、私よりも一回り上だ。
貴族の子女は二十歳前に婚姻するのが普通だが、彼は未だに婚約者がいない。
お役目大事とお仕事に専念されたため、この年になっても出会いがないらしい。
それと母君の出自が平民の中でもほぼ底辺中の底辺なのも、年頃のご令嬢方が敬遠する理由らしい。
もちろんそう思っているのは子供世代で、親世代はあの公爵家に嫁げるのは名誉であると考えている。
身分を超えた愛とかで有名だし、何より夫人は平民出身ながら伯爵位をお持ちだ。
未曾有の大災害での貢献を認められ、公爵家に嫁いだ時に
母を姉と慕う夫人は私たちもご自分の子供のように可愛がって下さっている。
私も以前は月に何度かお屋敷に伺って、フィッツパトリック様とも仲良くしていただいていた。
もちろんかなり年上のお兄様と言う感覚で、彼にしても私の赤ちゃん時代を知っているのだから婚約可能な相手と見てくれてはいないだろう。
良くてせいぜい親戚の妹だ。
価値観が合わなければ仕方がない。
引けない条件もあるだろう。
それでも、万に一つの望みをかけて私は向かう。
カツカツと音を立てて王城の廊下を進む。
マールが鞄を持ってついてくる。
その後ろからゾロゾロと何かがついてくるけれど、私には関係ないからどうでもいい。
「宰相府のダイミョー行列・・・」
「今度はどこの部署がやらかしたんだ」
どこもやらかしていません。
これから
近衛騎士団隊舎。
副団長を務めるフィッツパトリック様は終業後のこの時間、食堂で団員とお茶を飲んでいるはずだ。
彼はその短い時間で部下たちが何か困っていないか、悩み事はないかを察するのだと言う。
近衛騎士団の一家団欒を邪魔するのは気が引けるけど、今日はそういう気づかいは出来ない。
「ごきげんよう、フィッツパトリック様」
「やあ、久しぶりだね、
「どうぞ、お気になさらずに」
彼の周りにいた部下の方々は、私達の姿を見ると何故かザっと壁際に移動する。
そして「ダルヴィマールの悪夢が・・・」とか「氷の貴婦人のダイミョー行列・・・」「誰か燃やされるようなことをしたのか」とか囁きあっている。
燃やしませんよ。
逆に私が真っ白に燃え尽きる可能性のほうが高いんだから。
さあ、交渉開始 !
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