第377話 マール君の大、大、大冒険 ! ・その5
王都への道は酷かった。
あちこちに穴が開いてたり、周囲の木がなぎ倒されたり。
そして途中の村や街も塀に穴が開いていたり建物が壊れていたりした。
それは王都に近づくほど多くなって、中には廃村になっているところもあった。
「『大崩壊』っていうのが去年の夏にあったのよ」
そう言って姫は道に開いた穴を魔法で埋めていく。
そのままにしておくと馬車を走らせ難く、往来が途絶えて物流が滞ってしまうんだそうだ。
王都から領都までの帰り道でも直していたけれど、その時は雪が積もっていて細かいところまで手が届かなかった。
だけど姫の魔法の
もちろん人目のない時に限る。
ディー兄さんに「アスファルト舗装はするなよ」って言われて、口を尖らせて「もうしません ! 」って拗ねる姫、かわいい。
で、したんだ、アスファルト舗装。
『大崩壊』。
なんでも世界中の魔物が王都目指して押し寄せてきたんだって。
他の大陸でも海際に魔物が集まって大変だったらしい。
それって『スタンピード』とか『湧き』とか言うやつかなって聞いたら、そんな可愛らしい物じゃなかったって言われた。
「正直もう思い出したくないわ。二度とごめんよ」
アンシア姉さんの言葉に兄さんたちも姫も黙って頷く。
みんな侯爵家の一員として討伐に参加していたそうだけど、あれだけ強い兄さんたちが顔をしかめるって、『大崩壊』はどれだけすごかったんだろう。
王都の一つ前の村に貴族一行として入る。
いつもならここで一泊するけれど、この村もひどく壊れされていて生活するだけで手一杯。
八百屋とかの商店は開いているけれど、宿屋は再開の目途がたっていない。
だから通ってきた街や村と同じに、村長に復興の足しにといくらかのお金を渡してそのまま王都に向かう。
「本当はルチア姫は王都に残っているはずだったのに」
そう愚痴るアンシア姉さん。
領都に行ったのは遠縁の冒険者パーティーのはずだった。
だがその中に姫の専属侍女の姉さんがいる。
大貴族と婚約したばかりの姉さんが、淑女教育と仕えるルチア姫を放り出して領都に行くなんてあり得るだろうか。
そして王都にいるはずのルチア姫は一向に姿を現さない。
今までは一日おきに避難所に顔を出されていたのに。
つまりこれは領都を心配したルチア姫がお忍びでご帰郷されたからではないか。
そしてヒルデブランドを訪れていた商人は、ルチア姫によく似た女冒険者が『姫』と呼ばれているのを目にする。
確定である。
そんなわけで俺たちは『ルチア姫御一行』として王都に入った。
「ルチア姫のお馬車だ ! 」
「我らの姫のお戻りだ ! 」
「お帰りなさいませ、姫様 ! 」
「お帰りをお待ちしておりました ! 」
王都の目抜き通りを行くと、沿道で人々が俺たちを迎えてくれる。
時々沸き起こる歓声は、姫が馬車の中から手を振っているからだろう。
俺はアル兄さんと二人で御者台に座って、ずっと向こうまで続く人垣を見ている。
たまに「スケルシュ様 ! 」とか「カークス卿 ! 」とか聞こえてくる。
それに交じって「英雄様 ! 」「英雄マルウィン様 ! 」なんてのも。
じーちゃん、英雄かよ。
知らなかったよ。
ただの冒険者ギルドのギルマスだと思ってた。
あ、俺はじーちゃんのひ孫で、『大崩壊』で親族一同と死別して、じーちゃん頼って領都にやって来たって設定になってる。
冒険者にはなったけど、活動の幅を広げるために侍従仕事も覚えておいたほうがいい。
お優しいルチア姫の勧めで、慣れない礼儀作法に四苦八苦しながら頑張っている。
そう王都の別邸には説明の手紙が出されている。
兄さんたちからは大っぴらにはしないけど、もしバレても利用されないように気をつけろと言われている。
でも冬前にはいなかった俺は、やはり少しは注目されている。
「おい、なんか一人増えてるぞ」
「ちっこくて可愛い子だねえ。新しい侍従かも」
「アンシアが結婚退職するから、その後釜か ? 」
「ルチア姫のお傍にいるんだから、あの子もきっと凄い子なんだよ」
お願い、やめて。
俺、全然凄くないから。
兄さんたちの足元にも及ばないから。
「マール、しっかり前を向いて。見習いとは言え侍従なのですから、お嬢様に恥をかかせないよう胸を張っていなさい」
「はい、アル兄さん ! 」
隣で手綱を取るアル兄さんに言われて、俯きかけた顔をしゃんと上げる。
楽しい時間はもう終わり。
ここから本当の俺の異世界生活が始まる。
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