第375話 マール君の大、大、大冒険 ! ・その3

 配達のチュートリアルは二日で終わった。

 アンシア姉さんがあまりにあちこち走り回るから、渡された地図に寝る前に書き込みして、領都の有名なお店や建物の場所は頭に入っていた。

 最初のラスさんのところでもらった大量の棒付きキャンデーは、なんでくれたのかわからないので後で取りに来ると言って預かってもらった。

 ラスさんもアル兄さんも姫も変な顔してたけど、あんな大量の飴を持ち歩くのもなんだかなあって思って。


 護衛はご老公様のお出ましについていくってことだったんだけど、寒いから領館から出たくないってごねられた。

 まあ年寄りを雪の中を出歩かせたら命にかかわるかもしれないしな。

 代わりにじーちゃん、ギルマスを護衛することになった。

 でもじーちゃんご老公様より年上なんだぜ ?


 で、そのミッションだけど、冒険者ギルドから毎年恒例『ヒルデブランド雪合戦大会』の会場まで付き添うってやつ。

 飛び交う雪玉からじーちゃんかばってエスコートするんだけど、冒険者の先輩たちがノリノリでじーちゃんに雪玉をぶつけてくるんだ。

 俺はその雪玉を受けまくるって、なにそれ罰ゲーム状態だった。

 じーちゃん俺より三十センチも高くて、なのに絶対避けてくれなくて、だから俺は飛んだり跳ねたりカエルかカンガルーになったみたい。

 目的地に着くころには『白のマール』って二つ名がついていた。

 だってアンシア姉さんの言う通り保護色でさ、それにみんなが投げた雪玉がくっついてスノーマン状態だったから。

 それでもじーちゃんには一発だって当てさせなかったから、「お前、なかなかやるな」って褒められて屋台の食べ物をご馳走してもらった。

 ちなみにアンシア姉さんはかなり離れたところで見守ってくれてた。

 王都生まれの王都育ちは雪は苦手なんだって。

 やだね、都会っ子は。

 そんな呟きが聞き取れたのか、アンシア姉さん遥か向こうから走ってくるときれいにドロップキックかましやがった。

 畜生。


 で、薬草の採取。

 これが延期も中止も出来ないって言われて困った。

 だって領都内の群生地がこの時期は雪の下。

 そんなわけで代わりに路地裏の雪かきに変更された。


「きちんとどかせば何か見つかるかも」


 姫がそう言ってくれたから頑張った。

 大通りは衛兵隊や私設騎士団が出張ってるけど、裏通りとかは住んでる人がやるんだって。

 でもお年寄りとか小さな子とかいる家が多いところは人手が足りない。

 俺が任されたのはそんなとこ。

 侍従教育と一日交替でやってたけど、雪かきは毎日しなくちゃいけないから集中して一週間。

 朝と夕方の二回。それを三か所。

 

「ありがとねえ。安心して買い物に行けるよ」

「赤ん坊から目が離せないから、本当に助かるわ」


 そう言ってあったかいスープとかミルクとかもらった。

 で、そうやって雪と格闘してたら何故かチョコレートを発掘した。

 あと粉ココアとか。

 有り難くいただいてたら兄さんたちが、「おまっ、それゴ〇ィバだぞ ! 」とか「ゴクゴク飲んでるそれはドロ〇テだぞ ! 」とか言われたけど、俺そういうのわからないから。

 姫が「こうするともっと美味しいわ」ってバターを入れてくれて、やっぱり自販機のココアとは味が違うなあとホワホワしたあったかい気分で堪能した。


 最後の討伐は・・・かくれんぼだった。

 俺みたいに真っ白な服を着た子供たち二十名。

 決まったエリアの中を探し出してギルドに届ける。

 これが結構難しい。

 なんたって街の人たちが偽の情報を流すからだ。

 最初こそそれに従って動いてたけど、目の端っこに例の姫のペットたちが映って、嘘っこの情報には首とか手とかを振って教えてくれた。

 だから俺は街の人たちの言うことに耳を貸さずにチビッ子どもを追っかけまわした。

 保護色 ?

 こっちだって保護色だ。

 白い帽子被ってたって髪の色は誤魔化せないんだよ。

 一度捕まったら逃げたりしたらいけないから、ラスさんからもらった棒付きキャンデーを渡して大人しくしていてもらった。

 そしたら街の人たちがずるいって。

 何がずるいかわからないけど、俺のチュートリアルは三月の初めには無事に終わった。

 アンシア姉さんの半分の日数だった。

 姫の記録は未だに破られてないって、やっぱ姫は凄いよなあ。

 早く姫の役に立てるよう頑張ろうっと。

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