第374話 マール君の大、大、大冒険 ! ・その2

 異世界転移二日目、俺のチュートリアルが始まった。


 四つの依頼をきちんとこなせば、俺は冒険者の最低位階の『』になれる。

 今はその前の見習いの『不可ふか』って奴らしい。

 冒険者レベルってアルファベットだと思ってたら、こっちじゃ漢字一文字なんだって。

 それだと俺はラノベで言う『F』ランクにあたる。

 で、兄さんたちの位階は何かって聞いたら『数字持ち』だと。

 こっちは多分『S』ランクだろう。

 と言っても世界で六人しかいなくて、そのうち五人が兄さんたち。

 最後の一人がじーちゃんだった。

 それも最高位だって。

『数字持ち』になると高位貴族並みに扱われるけど、じーちゃんは王様に命令されても断れるくらい偉い。

 でも大抵のことはじーちゃんが出なくともなんとかなるし、逆にじーちゃんが出てくるってことはとんでもない大惨事だってことだ。

 じーちゃん、すげぇ ! 

 俺も『数字持ち』目指すって言ったら、訓練がやたらきつくなった。 

 ついでにとっととチュートリアル終えろって言われた。


 俺の課題は四つある。 

 街の地理を覚えるための探索と言う名の配達、薬草の採取、偉い人の護衛、それと冒険者の花形依頼の討伐だ。

 

「さあ、まずは東のラスさんちを目指すわよ ! 」


 そうやって始まった配達。

 何日経っても目的地に着かない。

 だってアンシア姉さんが使えないんだもん。

 東に行くって言ってるのに西に行くし、ランドマークの冒険者ギルドに戻るって言いながら前を素通りするし。

 本当は一人でやりたいんだけど、対番抜きのチュートリアルは無効だって言われた。

 だから一生懸命正しい方向に誘導するんだけど、どうしたって明後日の方向に突き進む。

 こういうのって指導係メンターは見守るだけで、俺の自主性に任されるもんじゃないか ?

 指導係メンターに連れていかれたら、チュートリアルにならないんじゃないか ?

 そう言ったらいきなり足を引っかけられて、雪の中に倒れこんだところを踏んづけられた。


「あーら、髪も服も真っ白で保護色だから気が付かなかったわあ。ごめんねえ」


 俺は雷鳥かよっ !

 ゲームの中の元気一杯でいつも笑顔で前向きなアンシアはどこに行った !

 ・・・ここにいたよ。

 元気一杯に街中を走り回って、いつも笑顔で俺をしばき倒して、前向きな姿勢で盛大な方向音痴しやがる。

 くっそー、クラスのアンシア信者たちにこの腹黒さを暴露してえっ !


「アンシアちゃん、その辺で勘弁してあげて」


 ペッペッと口に入った雪を吐き出してたら、頭の上から声がした。

 顔を上げたらアル兄さんと姫がいた。


「アンシアちゃん、初めての対番で嬉しいのはわかるわ。私もアンシアちゃんに会った時はとても嬉しかったもの」

「お姉さま・・・」


 アンシア姉さんが口を尖らせてる。


「大切に育てたいのよね。力をつけさせたいって言う気持ちもわかるの。でも、甘やかしてはいけないわ」


 甘やかす。

 俺、甘やかされてたのか ?


「時には突き放すことも必要よ。アンシアちゃん、マール君が可愛いのはわかるけど、ここは傍で見守ってはどうかしら」


 可愛い。

 可愛いのか、俺 ?

 全然別の意味の『可愛がり』じゃないのか ?

 いや、間違いなくそっちの意味だよな。


「力が入りすぎだよ、アンシア。ちょっと深呼吸しようよ。僕たちも一緒にまわるから」

「・・・わかった。お願いします、お姉さま」


 アル兄さんにも言われてアンシア姉さんが渋々と頷いた。

 助かった !

 俺、無事にチュートリアルを終えられそう。

 ありがとう、アル兄さん。

 そしてやっぱ姫は天使だった。

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