第373話 マール君の大、大、大冒険 ! ・その1
俺の名前はマール。
平民なんで家名はない。
ベナンダンティってやつになって、最初は異世界転移ブラボーって思ってた。
数分間だけだけど。
だってさ、せっかくじーちゃんに会えたのに別の名前で呼ばなくちゃいけないし、アンシア姉さんはゲームと違って乱暴で口が悪いし。
ついでに礼儀作法ってのが出来てないと頭痛のする魔法道具つけられたし。
で、何故か冒険者と侍従の兼業することになって、連れてこられたお屋敷。
やたらでっかくて道に迷いそうだって言ったら、王都にある別邸はもっとでかいって言われた。
着替えさせられた執事服は全然似合ってなくて、兄さんたちと比べると穴があったら入りたいくらいだ。
兄さんたちって冒険者の時もカッコよかったけど、着替えて髪をきっちり整えたら、もうすげぇ出来る男って感じで、俺これから一緒に働くのが不安になった。
つか、俺って中学生だぞ ?
新聞配達とか芸能活動とかでなけりゃ児童福祉法違反だそ ?
「まあ、マール君。よくお似合いよ」
振り向くとそこにはゲーム画面で見たルチア姫がいた。
かわいいっ ! きれい ! すげぇ、本物っ !
声に出てたみたいで即座に痛みがやってきたけど後悔はない。
だって、本当に可愛いんだから。
初めて会った時のお茶目な感じは消えて、お嬢様、マジお嬢様。
ガン見してたらアル兄さんに「ご婦人をジロジロ見ないように」と注意された。
ルチア姫は少し顔を赤くして「嬉しいわ」って恥ずかしそうに微笑んでくれた。
俺、この人に一生ついていく。
絶対この人の役に立ちたい。
そう言ったら兄さんたちは「やっぱりルーは人たらしだな」ってため息をついていた。
なんで ?
その後ご老公様と呼ばれる前侯爵に挨拶して、指導役のセシリア様とモーリス様に紹介してもらった。
それが地獄の始まりだった。
◎
冒険者見習いのチュートリアル。
夕方は剣の稽古。
夕食後は勉強。
冒険者としてのじゃない。
主要五教科だ。
初日になぜかテストを受けさせられ、その結果に満足してもらえなかったからだ。
「試験範囲だけ詰め込んで点を取ってたな。基礎がまったく出来ていない。このままだと早晩ついていけなくなるぞ」
侍従研修、剣の稽古、勉強。
その前に毎日の早朝の二時間のバレエのレッスン。
これって冒険者としても侍従としても必要か ?
おかしいよな。
異世界転移とかしたら、まず冒険者ギルドで絡まれて実力を見せて、あっと言う間に成り上がるんだよな。
なのに、何やってんだ、俺。
「そんな都合の良い話があるか。みんな地道に励んでるんだぞ。お前も秘密兵器だの必殺技だの考えずに真面目に生きろ」
エイ兄さんに言われてガムシャラにやって、疲れてしゃがみこんでたら何かが差し出された。
それはコンビニでよく見かける『漆黒の稲妻』。
くれたのは、ピンク色した小さなウサギだった。
次の日も同じものをもらった。
ちみっこいヒヨコが
三日目はパンダだ。
チョコを受け取ったら、ガンバレみたいに肩を叩いて去っていった。
四日目。
空からチョコが降ってきた。
顔を上げると白い毛皮の竜がフワフワと浮いていた。
うん、異世界ファンタジーだ。
励ましてくれてんだろうなあ。
けどさ、なんでみんな『漆黒の稲妻』なんだ ?
他にも色々あるんじゃね ?
なんて呟いたのが聞かれたのか、五日目に俺の前に差し出されたのは二種類のパッケージ。合計四箱。
これはどうしたもんかと戸惑っていたら、目の前で『きのこ・たけのこ戦争』が始まった。
いつまでも終わらないそれを待っていたら兄さんたちに叱られるので、放り出されたそれらを有り難く受け取って持ち場に戻った。
後であの四匹は姫の友達で、毎日のおやつを俺にくれていたのがわかった。
いいやつらだなあ。
ちっこいくせに俺なんか気遣ってくれて。
だから姫にもうチョコはいらないから、今度モフモフさせてくれって伝えてもらった。
俺、頑張る。
応援してくれるやつがいるんだから。
姫には「名前で呼んであげたら喜ぶわ」って言われたけど、立派な名前があるのに姫は『東西南北』って呼んでる。
アル兄さんからは「もう少しして落ち着いたら教えてあげるよ」って。
あ、アル兄さんはゲームにはいなかったと思ってたら、実は侍従一番人気のカジマヤーだった。
兄さん今は十八で、ゲームの時より二十センチ以上伸びたんだって。
言われてみれば面影あるな。
俺、今は姫と同じくらいしかないけど、頑張ったら兄さんたちくらいの身長になるのかな。
好き嫌いしないでカルシウム取れって言われたから、牛乳とか鰹節とかシラス干しとか食べるようにしてる。
あと閉じこもってないで陽にあたれって。
俺、インドア派なんだけど。
でも兄さんたちがやれって言うんだから、やるしかないよな。
小さなことからコツコツと。
俺も兄さんたちみたいにカッコよくなれるかな。
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