第372話 閑話・『脱走中・その裏で起きていた衝撃の事実』・後編

 CMあけ。

 四人が配信終了したネットゲームを通じて数年前からの知り合いであり、呼び名はゲーム内のPC名であることが説明される。

 ただし直接会うようになったのは年明けからだということも併せて紹介された。


『ナ』 : 「一瞬にして消えた姫。一体どこへ。またキャプターに紛れて散っていった三兄弟の行方は。各担当撮影スタッフはエリア内を急ぎ探しに走った。だが、後日驚愕の事実が判明する」


 当日のビデオ。

 スタッフに挨拶した姫。

 なぜか息をのむスタッフたち。 


「姫が消えた ! 」

「え、さっきまでそこにいたのに ! 」


『ナ』 : 「姫を探して慌てるスタッフ。しかしビデオには椅子に座って艶然と微笑む姫が映っている。にも拘わらずスタッフ一同誰もその存在に気が付かなかった。美しいバレリーナは悠々とその場を後にした。もちろん大勢のキャプターの間をぬって」


 とある有名実力派俳優のコメント。

「いやあ、驚きました。存在感を示すのが役者と言うものですが、目立たず主役を盛り上げるのもまた役者。しかしここまで己の存在、気配を完全に消すことができるとは。それに役に一瞬でなり切る演技力。彼女は女優としても十分やっていけるのではないですか。一度ぜひお会いしたい」


『ナ』 : 「ゲーム開始から二時間。ここで番組スタッフはあることに気付く。通常この時間までに数名が捕獲されている。が、今回は今だに逃げ続けられている。やっと確認した次男、三男、姫は他の参加者をさりげなく安全な場所に誘導している。そして、ついに見つけた長男は」


「いたっ ! あんなところに ! 」

「どうやって登ったんだ。ドローン出せ ! 」


『ナ』 : 「長男は避雷針の上に立っていた。そう、あのゲームのシーンそのままに」


 ゲームのスチルと長男が並べて映される。

 ドローンがゆっくりと長男に近づく。よく見ると連絡用に渡したスマホに向かって何か言っているようだ。

 ドローン班はアプリを起動してその音声を拾う。


長 : 「ディー、キャプ三名誘導、アル、チビッ子参加者を救出。ルー、西のキャプを北まで引き付けろ」


『ナ』 : 「なんと長男、高みの見物よろしく弟たちに指示を出していた。だが、一体どうやってこの場所に登ったのか。またあの細い避雷針の上になぜ安定して立っているのか」


「すみません、安蒜あんびるさん。そこから降りていただけますか」

長 : 「なぜ。ルール違反ではないはずだが」

「小さいお子さんも見ていますので、危険な行為は控えてください」


 長男、決して真似の出来ないことなら構わないと思ったんだがとスマホに「しばらく自由行動」と告げる。

 避雷針から建物につながるロープの上を、まるで滑車に乗っているかのように直立不動で滑り降りていく。

 そして建物の壁を蹴ると二階の高さから地面に着地。

 何事もなかったかのように歩き去っていく。


 とある日本芸能史研究者のコメント

「綱渡りで同じようなものがあります。斜めに張った綱を上り、そこから一気に滑り降りてくるのです。水平に張った綱よりもバランス感覚が必要で、なおかつ綱はピンと張っていなければなりません。あのように緩い綱の上を滑り降りるにはかなりの技量が必要ではないでしょうか」


『ナ』 : 「鍛え抜かれた自衛官だからこそ可能な技。決して真似をしないでいただきたい」


 各エリアのミッション。

 時に上から、時に陰から。神出鬼没で芸能人枠が活躍できるよう陰でフォローする四人。

 エリアは次々と閉鎖されていく。

 ところどころで『良い子は決して真似をしないでください』『ルール違反ではありません』というテロップが大きく出現する。

 そして阿鼻叫喚のスタッフの姿も。


『ナ』 : 「ついに最後のエリア。『江戸の街』にやってきた。ここでのミッションはただ『脱走するだけ』」


 街中で集団で襲ってくる与力や同心、侍などの手を逃れスタート地点である中央エリアへと向かう。


『ナ』 : 「唯一反撃しても良いエリアだが、そんなことをしていれば「御用だっ ! 」と囲まれて確保される。

 なので見つからないように隠れてこそこそとゴールを目指すのが一番の安全策だ。

 なのに、なぜこの四人は立ち向かうという道を選んだのか」


 同心から木刀を奪い叩きのめす長男。

 風圧で与力の剣を叩き切る次男。

 武道経験のないはずの三男も破落戸ごろつき共を軽く倒す。

 クローズアップされた三男のプロフィールには『趣味・チャンバラごっこ』と書かれている。


「チャンバラごっこの枠を超えてるじゃないかぁぁぁっ ! 」

「ちゃんと剣道経験有りって書いてくれよおっ ! 」

 

 スタッフの叫びが本部に響き渡る。

 テロップに『本当に剣道経験はありません』と出る。


『ナ』 : 「数十人の追手のうち残っているのはわずか十名ほど。そして彼らは今や追われる側になっていた」


「ちょっと、ちゃんと戦って。脱走者捕まえて」

「いや、だって、怖いし、切られるし ! 」


『ナ』 : 「完全に攻守交替し、逃げる彼らを追う三兄弟。そして追い詰められた先に待っていたのは ! 」


姫 : 「お待ちしておりました。犯罪者の皆様」

「え・・・俺たち町与力」

「脱獄したのを捕らえる正義の味方で・・・」


姫 : 「正義が力ではありません。力が正義です ! 江戸の街の平和はわたくしたちが守る。お覚悟を ! 」

「それ絶対違うからっ ! 」


『ナ』 : 「姫は優雅に鉄扇で彼らを打ち取っていく。かくして悪は滅び、脱走者たちは安全に自由の地へと去っていくのだった」


「兄様、兄様。あんな感じでよかったですか ? 私、ちゃんとなりきれてました ? 」

「楽しかったですね、ディー兄さん。こんな番組ならもう一回くらい出てもいいかもしれません」

「ああ、ルールの隙を突くのは面白いな」

「次回はもっと戦略的戦術的により洗練された作戦を立ててみたいぞ」


『ナ』 : 「やめろ。そんな日は来ない。

 脱落者ゼロ。その結果を受けて上層部は彼らの出禁を決定した。これを続けられたらスポンサーがいなくなるという判断だ。

 喜ぶべきは参加者全員が獲得賞金の半分の寄付を申し出てくれたことだ。

 そして最後に大きな声で言いたい。

 それだけの才能と技術を持っているなら、


 なんで出ぇへんねん、オリンピック !


 以上が『脱走中・春の三時間スペシャル』の真実である。

 我々は完敗した。

 たが他局の番組でもいい。

 我らの仇を取ってくれ。

『ルーと無敵な仲間たち』に正義の鉄槌を ! 」

 

 スタッフロールが流れる中、番組スタッフの狼狽する姿がフラッシュで映る。

 合わせて傍若無人な四人の活躍も。

 最後に椅子で優雅にポーズを決める姫。

 周りを囲む三人の侍従。

 ゲームのポスターそのものの姿が徐々に小さくなっていく。

 ブラックアウトしたところに大きく『完』のマーク。

 

 番組は無事 ( ? ) 終了した。

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