第368話 アホとコブシは使いよう
アンシアちゃんの首締めは数分続いたけど、私の必死のお願いでマール君が気絶する前に終わった。
「お姉さまはお甘い。ここまで罵倒されたら顔だけ出して一晩畑に埋めておくくらいしても許されます」
「・・・私の精神衛生上よろしくないのでやめてあげてね ? 」
昔のフグ中毒の毒抜きじゃあるまいし。
ゲホゲホと酸欠寸前の肺に空気を送り込むマール君。
ディードリッヒ兄様が背中をさすってあげてる。
そういうのってアルの役目なんだけどな、いつもなら。
ヒロインの扱いでよほど気分を害したみたいでそっぽむいてる。
「いいかい、マール。君にとってはゲームのキャラでしかないかもしれないが、現実にそのモデルになった人物がいるんだ。もう少し言い方に気を付けなさい。自分のことじゃないとわかっていても傷つくんだよ」
「わかったよ、じーちゃ・・・イテテテテテッ ! 」
うん、あまりわかっていないな。
「うー、痛いし苦しいし、異世界優しくない。アンシア乱暴だし、イテッ ! 」
「なぁに呼び捨てにしてんのよ。あたしのことはアンシア姉さんと呼びなさい」
今のは物理的な痛みです。
アンシアちゃんの一撃が入りました。
「あたしたちはあんたの兄で姉。タメ口きくんじゃないわよ。ちゃんと敬意を表しなさい。もちろん兄弟の
「アンシアちゃん、盃の意味が違うわよ」
死に分かれ覚悟してどうするの。
なんて私の声は無視されて、アンシアちゃんによる係累についてのレクチャーが続く。
まず呼び方と立ち位置。
チュートリアルについて。
マール君、正座でご傾聴する。
このメンツで正座って、ここしばらく私とアンシアちゃんしかいなかったから、なんか新鮮。
アンシアちゃんの教育の間に私はマール君の長い髪を後ろで三つ編みにしてあげる。
邪魔くさそうに何度もかき上げているから。
最後にリボンで止めようかと思ったけど、それはマール君の愛らしさを引き立てるだけなので、代わりに組紐。
青がメインだから、マール君の瞳の色と同じ。
アルは髪が伸びてから冒険者姿の時はハーフアップにしている。
纏める為に何か丁度いいのはないかなって探してたら、フロラシーさんが組紐を教えてくれた。
道具とかテキストとか『お取り寄せ』してチャレンジしたら、これが結構ハマってしまって。
アルの為に始めた髪紐だったけど、ディードリッヒ兄様にもお願いされて侍従仕事でつかえるようなのを何本か作った。
二人とも髪の色が赤だから、お揃いっぽくして楽しむそうだ。
そして受験が終わった今は時間も出来たので、飾り結びで私の髪飾りを作っている。
春の大夜会でお披露目しようっと。
そういえばヒルデブランドで始めたパッチワークは、令嬢ではなく庶民の家庭で受け入れられてる。
だって、端切れなんて貴族の屋敷には存在しないんだもん。
貴族の服は基本オートクチュールで、既成のプレタポルテはないことになっている。
でも実際はちゃんと存在していて、基本のドレスにいろいろデザイン足していくイージーオーダーのお店がいくつかある。
低位貴族はそちらを利用している。
お店同士で情報を共有して、間違ってもデザインが被らないようになっているそうだ。
蛇足だが、そのシステムを提案して服飾ギルドで特許登録しているのはお母さまと皇后陛下だとか。
異世界知識生活を満喫してますね、お母さまたち。
「じゃあ、あたしたちの呼び方から ! 」
「はいっ ! 上から順にギルマス、エイ兄さん、ディー兄さん、アル兄さん、アンシア姉さん ! 」
「よしっ、ではお姉さまはっ ?! 」
「ルー姉さん・・・タタタタタッ ! 」
「お姉さまのお名前をそんな軽々しく呼ぶんじゃありませんっ ! 」
アンシアちゃんの鉄拳制裁がまたまた炸裂した。
「お姉さまは侯爵令嬢なのよ ! 侍従仕事の時にポロっと呼び間違えたらどうするの ! どちらでも使える無難な呼び名を考えなさい ! 」
「そんな無茶なっ ! 」
アンシアちゃんはマール君にさっさと考えろ、ホラホラホラと迫る。
ギルマスも兄様たちもアルも、誰も助けてあげないのね ?
「あの、危ない呼び方しないよう、サークレットに追加機能をつけてあげましょうか ? 」
「ヒロイン、鬼畜過ぎるっ ! 」
「もう一回言ってみろっ ! 」
あー、アンシアちゃん、ちょっと
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