第366話 乙女ゲームの報告と反響
「アンシアは俺の嫁っ ! 」
「ふざけんな ! 」
マール君が地面に沈んだ。
「あたしの婚約者はバルドリック様よ ! 初対面のあんたになーんで嫁扱いされなきゃいけないのよっ ! 」
「ちーがーうーっ ! 同じクラスの奴がそう叫んでんだって ! 」
脳天に盛大なげんこつをお見舞いされたマール君は、かわいい顔を歪ませてなんとか立ち上がる。
「てか、なんだよ、ここ。『エリカノーマ・ネクスト』のキャラが一杯じゃん。やっぱ乙女ゲーの異世界転生じゃねーのって、イタタタタタタッ ! 」
「言葉遣いに気をつけなさいよ。あたしたちはあんたより格上なんだからね」
たんこぶの痛みと『パブロフ』の痛み。
二つの痛みに耐えるマール君に、アンシアちゃんが詳しく説明しろと迫る。
「だからさ、『ネクスト』ってRPG要素もあって、今すごい人気なんだ、ですよ。中でもアンシアが一推しってやつが多くて、同担拒否から歓迎までウヨウヨいんだ、です」
休み時間になるとアンシア賛美の声があちこち聞こえるんだと、マール君は時折「イテテっ」と合いの手を入れながら話してくれた。
「あのゲームそんなに人気なのか。知ってたか、アル」
「受験直前のこの時期に学校でそんなの話題にするのはいないですよ。それにもう自由登校になってますしね。例の写真集のこともテレビで初めて知りましたし。ディー兄さんこそ職場で話題にはなっていないんですか ? 」
例の件でそれどころの騒ぎじゃなかったと、ディードリッヒ兄様はさらに詳しい説明を求めた。
「女子の中じゃカジマヤーが一番人気。理想の王子様だって。二番人気はスケルシュ。三番はギルマスかな。あ、攻略対象じゃん、じーちゃ・・・タタタタタッ ! 」
「・・・もう一人いたろう」
「え、えっと、その」
四人いる攻略対象者の最後の一人。
一番不人気な理由を教えてもらおうか。
マール君は恐怖しているようだ。
ディードリッヒの静かな笑みに、なんと答えたら許されるのだろうか。
「えっとですね。カークスはその、自分の女子力の低さを思い知らされるってのと、そもそもそこらの女子中学生って刺繍どころか手縫いで雑巾も縫えないって、買ってきたほうが早いし」
「ほう。それで ? 」
「イニシャル刺繍されたハンカチとかプレゼントされたら心が折れるって言うか、同じレベルを要求されそうで怖いって言うか・・・」
ゲームにはエイヴァン兄様の和裁技能は設定にはない。
手仕事男子は一人でいいらしい。
「でもっ ! カークス板じゃカルチャースクールで日本刺繍やってるとこ教えあったり、男だけどこんな綺麗なの縫ってみたいとか、ハンドメイドで盛り上がってる、ますです」
「もうネットでそんなのが出来てるのか。早いな」
「好きになったら一直線ですから ! 」
その後はマール君からゲームの詳しい話を聞いた。
「俺はまだプレイしてないんですけど」
クラスや部活の仲間が詳しく説明してくれて、そこに女子がさらに参戦して、評判とか人気とか結構詳しくなってしまった。
一番人気のアンシアちゃんはともかく、アルはヒロインと同い年で小さい頃からの幼馴染。
いつも穏やかでヒロイン一筋。
十六才という同年代というところに人気がある。
エイヴァン兄様は侍従の時はヒロインに従順に、冒険者の時はリーダーシップを発揮する頼れるアニキとして男子にも人気だとか。
ギルマスはもちろん大人の余裕。
ディードリッヒ兄様は・・・ハンクラな感じて受けてるってことでオッケー。
「後はあれかな。二次元なんかに夢中になってかわいそー、普通にカッコいい人いるんだからーって、去年出た写真集のファンの子とどっちが素敵か言い合ったりしてる、です」
「・・・あれか」
「実写版作るならあの二人にスケルシュとカークスやってもらって、残りの三人はどの俳優がいいかって盛り上がってる板もある、です」
・・・。
その写真集と『あの二人』が誰か即座にわかってしまう。
兄様たちは「勘弁してくれ・・・」とか「広報、動くな」とか呟いている。
宮仕えだから仕方ないって言ったら仕方ないんで、ご愁傷様ですとしか言えない。
で、私はここで一つ気が付いた。
「ねえ、マール君。さっきっからヒロインのお話が全然出てこないけど、どうしてかしら」
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