第365話 感動の再会 ! でも節度は必要です

次哉つぐやかい ? 」


 ギルマスの声にマール君はポカンと口を開ける。


「私が誰だかわかるかい」

「誰って・・・。なんで俺の名前、知ってるの」

「私の枕元で号泣してみんなを困らせたらしいね。いくら子供だからって、気持ちのままに振る舞って周りに迷惑をかけるのはどうかと思うよ」


 マール君の目がパッと見開かれる。

 そして小さな声で尋ねた。


「じーちゃん ? 」

「そうだよ」

「じーちゃん ?! ほんとにじーちゃん ?! 」

「ああ、久しぶりだね、次哉つぐや


 マール君はギルマスにガシッと抱き着くと、あの日のように大号泣を始めた。


「ジーちゃぁぁんっ !会いたかったよぉぉぉっ ! 」

「ああ、私も会いたかった」


 抱き着いたマール君の頭を、ギルマスは優しくなでる。


「じーちゃん、異世界転生してたんだな ! そっか、俺も死んでこっちに生まれ変わったんだ。死んじまったけど、じーちゃんにまた会えたからいいや ! 」


 いや、死んでない、死んでない。

 いつまでも泣き止まないマール君をギルマスから引きはがし、ベナンダンティについて説明し納得なせるのに午前中いっぱいかかってしまった。



「・・・理解できたかい ? 」

「・・・うん」

「解ってくれて嬉しいよ」


 マール君はおバカではないけれど、思い込みが強い上に物事を多方面から見ることができないという、いかにも中学生らしい感性を持っていた。

 一つ一つ丁寧に解きほぐして納得されるのに酷く時間がかかってしまった。

 兄様たちは息も絶え絶えだ。


「さて、もう君の事は次哉つぐやとは呼ばない。これからはマールと呼ぶし、君も私の事をじーちゃんと呼ばないようにね」

「だって、じーちゃんはじーちゃんじゃん」


 だーかーらーっ !

 たまたま血縁関係が発覚したけれど、こちら夢の世界では無関係。

 特にギルマスは英雄マルウィンだから、そのひ孫なんて下手をすると何かに利用されそうだ。

 そしてマール君は嬉々として罠にはまりに行くと思う。


「これはルー以上に厄介な。強制的に黙らせるしかないですね、ギルマス」

「かと言って何かできるわけじゃない。マールの成長に期待するしかないね」


 じゃあいつになったら成長するかって言うと、それこそずっと今のままかもしれない。

 というわけで、あれ、できないかな。

 いや、出来そう。

 出来る。

 やっちゃおう !


「おい、ルー。お前、何をしたんだ ? 」

「はい、久しぶりに新しい魔法を作ってみました。どうですか、兄様たち」


 マール君の額には細い銀色の輪っか。

 額のところに瞳と同じ小さな青い宝石が付いている。

 所謂サークレットというやつ。


「マール君、自分の名前言ってみて ? 」

「マール」

「次にあちら現実世界での名前を言って」

次哉つぐや・・・イタタタタタタタッ !!」


 はい、成功。


「ギルマスのことじーちゃんって呼んだり、血縁関係匂わせたり、人前で馴れ馴れしい態度取ったりしたら、今見たいに頭が痛くなるからね」


 マール君涙目で私を睨んでる。

 でもこうでもしないと大切なことをポロっと話しそうなんだよね。

 ベナンダンティの存在とか暴露されたらたまらない。

 だから何度も痛い思いをすれば、きっと体で覚えてくれるんじゃないかな。

 そしたらいつかはサークレットは要らなくなると思う。


「つまりパブロフの犬だな」

「お経のいらない孫悟空の頭の輪っかだね、ルー」

「はい、ギルマス。あちら現実世界でも発動可能です。ただしこちら夢の世界の話が一切できないってだけで、頭痛は起こらないです」


 私、やさしい。


「まったく、ルーの発想力と魔法の構築には頭が下がるよ」


 ギルマスは一安心という顔で執務机に戻る。

 喜んでいただけて光栄です。


「さて、ベナンダンティとしての対番はルーだが、冒険者としては順番としてアンシアの担当だ。ただしどうも不安が残るので、全員でフォローするようにしてくれるかな」

「解りました。男同士でないと教えられないこともあります。末っ子の面倒はしっかりみますよ」


 兄様たちが快く引き受けてくれたところで、アンシアちゃんがマール君に手を差し伸べた。


「アンシアよ。今日からあなたの教育係。ビシバシいくから着いてきなさい」

「アンシア・・・アンシア ?! 」


 マール君の目が見開いたのは、今日何度目になるかな。


「あ、アンシア・シルヴァン ?! 」

「そうよ。なんで知ってるの ? 」


 まだフルネームは名乗ってないわよねと首をかしげるアンシアちゃんに、マール君が大きな爆弾を落とした。


「アンシアは俺の嫁っ ! 」

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