第364話 正しい情報を下さい

「俺、男なんですけど」


 執務室の中でピシっという音がしたのは気のせいだよね ?


「女の子・・・じゃないのかい ? 」

「はい、すみません、じゃなかった。俺、間違いなく男です」


 だって長い髪と可愛い顔と。

 それに華奢だし。

 え、違うの ?

 女の子じゃないの ?

 ギルマスがオッホんと咳をする。


「すまないが左の耳を見せてくれないか。ああ、わかった」


 長い髪をかき上げて見えた左耳には、ちゃんと白いピアスがついている。

 うん、確かに男の子だ。

 女の子だったら赤いピアスだもんね。


「マール、稀に、本当に稀になんだが、こちらに来ると性別が入れ替わる例があるんだ」

「えっと、TS転生ってやつですか ? 」


 いえ、転生はしてないから。

 それとTSって何 ?


「みんなは後ろを向いていなさい。で、マールは自分の性別を確かめてごらん」

「はあ・・・」


 兄様たちも私たちと一緒に後ろを向く。

 もし女の子だったらやばいよね。

 背後でゴソゴソと音がして、ホッとしたような雰囲気がした。


「えっと、ダイジョブです。俺、男のままです」

「わかった。みんな、前を向いていいよ」


 ギルマスが小さくため息をつく。


「失礼したね。長い髪と小さな体。てっきり女の子だと思ってしまった。すまなかった」

「えっと、俺、髪、短いですよ ? 校則通りだし」

「ああ、まだ気が付いていないか。そこの大鏡を見てごらん」


 アルがマールちゃ、マール君を鏡の前に立たせる。

 すると私の時とまたまた同じ。

 目の前にいるのは誰だろうという顔をしている。

 なので手助けすることにした。


「右あげて」


 マール君の右手が上がる。

 鏡の中も上げる。


「左あげて。右下げないで、左さげる」

「おい、ルー、遊ぶな。マール、その鏡に映っているのがお前の姿だ。どうだ、女の子にしか見えないだろう」


 エイヴァン兄様の声にマール君がコクコクとうなづく。

 うん、まだ受け入れられないよね。

 私もそうだったし。


「忘れていたよ。男の子は十三、四くらいまではまだ子供寄り。性差がはっきりするのはこれからだ。エイヴァンたちもここに来た時はかわいらしかったからね」

「十年以上も昔じゃないですか」

「ディードリッヒなんておかっぱ頭で、ずいぶんとギルド職員に可愛がられたものだよ」

「ですから止めてくださいよ、ギルマス」

「あのかわいい子がなんであんなモッサな姿になったのが、今でも不思議でたまらない」


 そうそう。

 初めて会った時の兄様たちって、髪はボサボサ、髭は伸ばし放題。

 どこから見ても山賊だった。

『洗濯』魔法で体も服も清潔にしていたけど、段々面倒くさくなって色々と身綺麗にするのを止めてたって。

 たった三年前なのに、なんだか随分昔のことみたい。

 それにしてもこんなに可愛いのに男の子だなんて。

 私が最初に鑑定しておけばよかったかな。 

 そしたら誤解もなかったと思うんだけど、って。


「あら ? 」

「どうしたね、ルー」


 これって、あれ、だよね ?

 言うべきかな、言わないほうがいいのかな。

 でも、やっぱり・・・。


「ギルマス、ちょっといいですか」


 なんだいという安定の笑顔は、耳元でささやいた私の言葉に一瞬で固まる。


「・・・ルー、間違いないのかい ? 」

「はい。彼です。ただ名前は知らないので、どの方かまでは・・・」


 いや、わかるよとギルマスは額に手を当てて大きくため息をつく。

 そして立ち上がるとマール君と向き合う。


次哉つぐやかい ? 」

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