第363話 新しいおひさまがのぼる

 新しいベナンダンティがやってきた。


 兄様たちの写真集を手に入れて、三冊『お取り寄せ』した昨日。

 初めて見るあちら現実世界での兄様たちの姿に、アンシアちゃんは「これは絶対受けますね ! 」と盛り上がった。

 じゃくどー ? しゅどー ? とか何とかって言ってたけど、兄様たちがものっ凄く嫌そうに顔を歪めていた。

『太洋兄弟』というタイトルから兄弟設定なんだけど、これは艦艇は一つのファミリーという意味であって、特にこちらでの対番が知られてしまったわけではないらしい。

 それとプライベートで会う時にディードリッヒ兄様はエイヴァン兄様のことを『兄さん』と呼んでいたの聞かれていたとか。

 でも盗撮でこれだけ綺麗に撮れるって、どれだけ腕の立つカメラマンさんを手配したんだろう。

 仕事中の職場でバレずに撮るなんて、もしかしたら偵察部隊とかの凄腕を投入したのかな。

 してそうだな。

 とにかくすごい人気で、クラスの子も学校に持ってきて黄色い悲鳴をあげていた。

 もちろん速攻でシスターに取り上げられて反省文書かされていた。

 で、取り寄せた一冊はギルマスに差し上げて、後の二冊は王都のお母さまと皇后陛下にお贈りした。

 読んだ後は禁書庫行きでお願いしている。


 あ、番組ではあの後、兄様たちがチケット制のバレエスタジオに通ってるのが暴露された。

 ついでに練習風景も公開されて、「プライベートって・・・」とか「世の中には盗撮しか存在しないのか」っとか言う嘆きが流されたことで「盗撮、ダメ、絶対 ! 」なんてムーブメントが始まっている。

『盗撮』は一時トレンド一位になったりした。

 ちなみにバレエスタジオも番組スタッフも兄様たちから許可を得ていると認識していたみたいで、どうしてこんなことになったのかと審議に入っているらしい。

 

 そして今日も頑張ろうと眠った日。

 はざまの部屋で目を開けると、長い髪の子が座っていた。

 私の髪は銀色だけど、この子の髪は真っ白だ。

 瞳の色は青だけど、なんだかボーっとしていて半分寝ているみたい。

 私も初めはこんなふうだったのかしら。

 私よりいくつか年下。

 中学生くらいかな。

 そういえばアルも兄様たちも中学の時にベナンダンティになったって言ってたっけ。

 美人ではないけれど、愛嬌のある顔立ちだ。

 背は私と同じくらい。

 小柄でかわいい。

 じっと見ていたら、その子の目がぱっちり開いてパチパチと瞬きした。

 よかった。

 ちゃんとこの部屋に来れたのね。


「はじめまして。ここははざまの部屋よ」


 あ、この子、自分に何が起こってるのかわかってない。

 ただ私の顔をじっと見ている。

 見つめあっていたら、フッと目を逸らされた。

 不安そうにしているその子の手を取って立ち上がらせ、一緒に白い部屋を出た。



「ギルマス、私の対番です。やっと私も先輩です ! 」

「よかったね、ルー。仲間が増えて私も嬉しいよ」


 約三年ぶりの新しいベナンダンティ。

 ギルマス執務室にはいつものメンバーが揃っている。

 兄様たちの婚約者のナラさんとフロラシーさんは王都でお仕事。

 冬の間だけ遠距離恋愛だけど、あちら現実世界で毎日連絡を取っているので問題なし。

 ちゃんと婚約できたらしい。

 後はゴールデンウイークに結納を交わすんですって。

 新人さんは私の時と同じように書類に名前を書かされている。

 

「名前はマール。年は十四。中学生だね」

「はい」


 書類を引き出しにしまうとギルマスは、あの時と同じように優しい声で説明する。


「冒険者ギルドに登録したからと言って、無理に冒険者仕事をしなくてもいいんだ。討伐や護衛では命を奪わなければならない時もある。それが無理なら街の中の工房やお店に派遣することもできるからね。女の子なんだから無理をしなくていい」

「それ、私の時には言ってくれませんでしたよね、ギルマス」

「ルーはどう見たって冒険者一択だったからね」

「職業選択の自由ってご存じですか、ギルマス ? 」

「あのお、ちょっといいですか ? 」


 そうやってワイワイやっていたら、新人のマールちゃんがおずおずと手を挙げた。


「なんだね ? 何か質問でも ? 」

「あの、わからないことだらけで聞きたいことばっかりなんですけど、その、一つとっても大事なことが・・・」


 ものすごく言いづらいんですが、と前置きしてマールちゃんは小さな声で言った。


「俺、男なんですけど」

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