第361話 新しい日々がはじまった

 喉が痛い。

 息ができない。

 頭が痛い。

 苦しい。


 何日か前に親戚の集まりがあって、多分その時にもらってきたのかな、インフルエンザ。


 目の周りが熱い。

 咳は出るのに胸の中に空気が入ってこない。

 母が時折やってきて吸い口で栄養ドリンクを飲ませてくれる。

 喉が渇いているのに一口二口しか入らない。

 特効薬を飲むのが遅かったんだって。

 だってバタバタしていて病院に行くタイミングがなかったんだ。


 このまま死ぬのかなあ。

 インフルから脳にばい菌が入る病気もあるみたいだし。

 そう言ったら「馬鹿なこと言わないの」って母に怒られた。

 でもそれくらいきつい。


 よく眠れなくて、でも眠くて、うつらうつらしていたら、急に体が楽になった。

 熱が下がったのかな。

 ふっと目を開けると、目の前にものすごい美少女が立っていた。


「はじめまして。ここははざまの部屋よ」


 周りを見渡すとどこもかしこも真っ白い。

 これってラノベでいう異世界転生のお約束の場所 ?

 それって死んだってこと ?

 インフルで ?


「嬉しい。いつまでたっても現れないんですもの」


 キラキラ光る長い銀色の髪。

 大きな緑の目の中には星が光ってるみたいだ。

 小柄で細くって、笑顔がかわいい。

 自分とは大違い。

 じっと見つめられて恥ずかしくて、思わず目をそらしてしまう。


「ずっと信じて待っていたのよ。いつかきっと来てくれるって」


 変だな。

 この子、なんかどこかで見たことがあるような気がするんだけど。

 どこだったかな。

 思い出せないや。


「やっと会えたわね。これからどうぞよろしくね」


 その人は手を取って立たせてくれた。

 

「さあ、ついてきて。みんなに紹介するわ」


 気が付くと目の前には木の観音扉がある。

 それを開けたその先には、日本人じゃない人たちが一杯いた。


「おはよう、ルーちやん ! 」

「おはようございます、みなさん ! 」

「あれぇ、その子、もしかして新人さん ? 」

「はい。ギルマス面接に行ってきますね ! 」


 金色とか茶色とか赤とか、どう見ても欧米人みたいな人たちに見送られて、手を引かれたまま奥の階段を上がる。


「じゃあ、みんなを紹介するわね」


 ある扉をトントンと叩いて開けると、そこには美形の集団がいた。

 一つの部屋にこれだけの美形がいていいはずがない。

 いいはずがないんだけど、あれ ?

 彼女もそうだけど、この人たちも何だか見覚えがある。

 おかしいなあ。

 こんなイケメン、一度見たら忘れられないはずなんだけど。

 

「ギルマス、私の対番です。やっと私も先輩です ! 」

「よかったね、ルー。仲間が増えて私も嬉しいよ」


 偉そうな机に座っているイケオジが優し気な笑顔で言う。

 そしてみんながこちらに手を差し伸べて言った。


「「「ようこそ、夢の世界ベナンダンティヘ !!! 」」」


=====================


「四方の王」編、これにて終了です。

 お話はまだ続きます。

 もう少しだけお付き合いくださいませ。

 お読みいただきありがとうございました。

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