第359話 こっちでもルチア姫、爆誕 !
「じーちゃあぁぁん、なんで死んじゃったんだよぉぉっ ! 」
ギルマスが亡くなられた日。
病室にお別れに行くと、他の親族の方々が粛々と葬儀の打ち合わせをしている中、中学生くらいの男の子がギルマスにしがみついて大号泣していた。
「まだ早いよぉ、若すぎるよぉ、じーちゃぁぁんっ ! 」
「・・・九十超えだったわよね」
「うん、若くはないと思う」
そんな囁き声を聞きつけたのか、男の子はガっと顔を上げて私たちを睨み付ける。
「早いよっ ! じーちゃんと約束したんだ。彼女ができたら最初に紹介するって ! 結婚式にも来てもらって、子供抱いてもらって、って。一つも約束守れてないし ! 」
彼女ができないのは本人のせいだし、ひ孫の結婚式に出て
を抱くまで生きたら、ギルマス多分百二十才超えるんじゃないかしら。
「・・・なんでだよぉ。じーちゃんが死んだのに、なんで誰も泣かないんだよお。じーちゃんいなくなったのに、みんな悲しくないのかよ ! お前ら人でなしの集団かよ ! 」
「馬鹿じゃないの」
「ル、めぐみさん ! 」
「悲しいに決まってるじゃない」
あ、しまった。
心の声が駄々洩れになって、打ち合わせ中の皆さんを停止させてしまった。
ここで黙るのはダメだよね。
仕方ない。
私は深呼吸をため息のように吐き出す。
「あのね。会長が亡くなって、これから納棺やお通夜、通夜振舞いの支度。関係者の方への連絡、葬儀の準備。やることがたくさんあるのよ。泣いて立ち止まっていたら何も進まないのよ」
「だからって ! 」
「皆さん大人なの。悲しいのを我慢して、会長に相応しいご葬儀になるよう尽力されているのに、そんな方々を罵る権利なんてあなたにはないわ」
と言ってもひ孫君はまだ文句が言いたいようだ。
「あなたは子供なんだから、大声で泣いてもいいの。でも、皆さんのお邪魔はしてはだめ」
「・・・お前だって子供じゃないか。なんで泣いてないんだよ。本当は悲しくないんだろっ ! 」
「いい加減になさいませ ! 」
私は今度こそ大きな声を出してしまった。
だって、この坊やに我慢できなかったんだもん。
「申しましたでしょう。皆様悲しみをこらえておられると。涙さえ流しておけば悲しみを演出できるのは役者だけ。弔う気持ちの表現は人それぞれなのですよ」
背筋を伸ばし肩を下ろし顎を引く。
ルチア姫でいる時はいつもこの姿勢だ。
侯爵令嬢として、次期女侯爵としての気品と威厳。
アルが「うわぁ」と言い、書類を書いていたタタンさんが「姫、入りました」とヒューと小さく口笛を吹く。
「然るにあなたは故人の枕元で大声で泣きわめくだけ。それで会長が静かにお休みいただけますか」
ひ孫君はうっと黙ってギルマスに目を向ける。
「そして赤の他人の
号泣からグズグズに泣き声を変えたひ孫君を、親戚の方が少し離れた椅子に連れていく。
私たちはギルマスにお別れをし、声を荒げた失礼とお悔やみのご挨拶をして辞した。
と言うわけにはいかず、なぜ会長をギルマスと呼んだのかと問い詰められた。
・・・そりゃ聞かれるよね。
そこで以前決めていた設定通り、何年か前にもう終了したネットゲームの中で知り合ったこと、でもそれが解ったのは初めてお見舞いに来た時だったことなどを話した。
私とアルの馴れ初めを話しているうちに「あれ、もしかして ? 」って流れだったと。
「私も同じゲームをプレイしていたんですよ。ギルマスがおじい様だったなんて、やあ、全然気が付かなかったなあ」
タタンさんの棒読みの援護射撃で、そんな出会いもあるのか、さすが会長、若者文化にも手をだされていたとは、とほんわかした空気の中そそくさと退出した。
私たちが帰ったあと、「あの気品、凛とした態度。とても女子高生とは思えない」「会長が後援しようと思われただけある」「さすが会長、お目が高い」なんて会話あったらしいことを後で教えられて、穴を掘って入りたくなったのを慰めてくれたのはやはりアルだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます