第358話 カウントダウンの終了
私は進路を変更し、通っている系列校の女子大の文系の奨学生試験に合格した。
元々は某大の物理科を受験したけれど、それはその方が合格率が上がるのと、その後の進路で必ず必要になるというだけで、別に私はリケジョじゃない。
なのでどうせ将来に迷いがあるならば、今まで全然興味のなかった方向に向かってみようと思ったんだ。
もしかしたら今の狭い考えしか出来ない私だって、何か新しいものを見つけることができるんじゃないかって。
ついでに学費で家計に負担をかけないように。
ダブルインカムの我が家だから気にするなとは言われたんだけどね。
定年が一般会社より早いから、老後資金の負担にはなりたくなかったのもある。
・・・貧乏性なのかな。
「後々の領地経営とかを考えたら経済学部の方がいいんだがな」
エイヴァン兄様はそう言うけれど、
それに兄様の恋人のナラさんは経営のプロだ。
今は筆頭専属侍女の傍ら家令のセバスチャンさんの手伝いをしていて、その手腕はかなり評価が高い。
皇帝陛下も「うちの財政省にこない ? 」なんて勧誘している。
お断りしているけど。
さすが『暗闇参謀』なんて二つ名をもらうだけはある。
だからこれから少しずつ教えてもらう予定。
あ、そう言えば兄様たちは年末年始の間にご家族にご挨拶して結婚の許可を得るんだって。
そうやってクリスマスには私の焼いたフルーツナッツ一杯のケーキを食べた。
大晦日には車いすで近くの神社に二年参りに行った。
用意されたおせちに私のお煮しめをちょっと加えてもらった。
七草粥を食べて、鏡開きをして。
そしてある朝、ギルマスは二度と目を覚まさなかった。
◎
「葬式に行ってくれたんだって ? すまないね、わざわざ」
「はあ・・・」
冒険者ギルドのギルマス執務室のいつもの場所で、いつものように笑顔でギルマスが言った。
あれから数日。
引継ぎも順調だ。
「取材陣も多かったですし、テレビ中継も出てました。中々賑やかでお祭りみたいでした」
大きなお寺の祭事場はご親族や仕事関係の方で一杯だった。
私たちは特別にその隅っこの末席に入れていただいた。
なんだこいつらって顔をされたけど、私とアルが夏に有名になったバレエ関係者だと分かると、ギルマスから後援されていたんだろうと納得してくれた。
ギルマスのお家は元は小さな商店だったけど、戦前から苦学生の後押しをしていた。
大きな会社が業績アップだけを目指している中、ギルマスは援助をしながら人の輪を広げて、いつしかコングロマリット、一大複合企業グループに育て上げた。
そこに加わることで救われた会社も多いという。
だから集まった人たちは冷やかしや義務ではなく、本当にギルマスのことを慕っている人たちだった。
やっぱりギルマスはどこにいてもギルマスだ。
お焼香の末尾で頭を下げたとき、私も感謝の気持ちで一杯になって思わずポロっと涙がこぼれてしまった。
「それが写真に撮られて、朝刊に『若者にも慕われた会長』なんて載ってしまって」
「見たいねえ、それ」
『見たいか、よし、これだ』
「東西南北、余計な事しないでっ ! 」
『ニュース映像もあるぞ』
神位が上がったせいか彼らも『お取り寄せ』が使えるようになった。
ただし食べ物系はNG。
「君たちのおやつを取り寄せるのは僕の役目だからね」
アルはそう言うけれど、好きなだけお菓子を取り寄せてお腹を壊すのが目に見えているから。
四神獣は葬儀の記事が載った新聞を何部か取り出す。
これは永久保存と嬉しそうに冒険者の袋に仕舞ったギルマス。
この元気な様子を葬儀会場で号泣していたひ孫君に見せてあげたい。
「じーちゃあぁぁん、なんで死んじゃったんだよぉぉっ ! 」
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