第340話 神様のお仕事
再びベナンダンティとして戻ってくる。
『魂は何度も生まれ変わる。だからその度にこの世界を経験する。今いるベナンダンティたちもかつてはこの世界で生きていた。それだけの話だ。娘以外はな』
「私、以外 ? 」
『お前は今回が初めてのベナンダンティ。長かった。魂が生まれてから数千年かかったわ』
この世界のためにと人材のレンタルを始めてから数千年。
ピテカントロプスを送り出しても仕方がないので、近代の日本人を少しずつ混ぜながら支援してきたという。
ハル兄様もそうやって千年前に現れた。
今でも過去の世界でベナンダンティをしている人が数人いるそうだ。
『途中で気が付いたのだ。ベナンダンティであれば異世界転生も転移もされない。ここは我が世界の魂の安全地帯だと。だから優秀な魂がここへ来られるように色々と手を打ってきたのだが、お前ときたら。どう頑張ってもベナンダンティになる前に死んでしまうのだ。攫いにくる神たちの手から守るのに苦労した』
とにかくすぐ死ぬ。
病気で死ぬ。
怪我で死ぬ。
事故で死ぬ。
飢餓で死ぬ。
戦争で死ぬ。
天災で死ぬ。
なら人間以外ではと思ったら、オキアミになって鯨に食べられる。
カッコウに蹴りだされる。
モズの早贄になる。
・・・私ってどんな人生、いえ、生を送ってきたんでしょうね。
『そのくせ魂は輝いていて強い。飢餓で死んだ時はお腹一杯食べさせてやると言った神を、転生待ちの子供たちと一緒に河原の石を投げて追い返した』
河原の石 ?
死後の世界に河原とか石とかあるのかな。
「ルー、あれだ。賽の河原の石積み。親より先に死んだ子供がやるっていうやつな」
「一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為ってやつだ。頑張って積んでも鬼が壊しに来るんだったか。地蔵和讃でしたかね、兄さん」
『わざわざ積んだその塔を全員で武器代わりにして撃退したのだ。こやつは率先して完成寸前の塔から石を引き抜いて投げていた。横で見ていた鬼たちがあまりの暴挙振りにその日は塔を壊さなかった。おかげで全員すぐに輪廻の輪に入ることができたのだが』
他の神がどれだけ誘っても無理やり連れて行こうとしても、とにかく頑として受け入れず自分の世界にしがみついていた。
なので神々の間では『難攻不落の永久凍土』と呼ばれているとか。
知らないもん、そんなこと。
前の人生でも傍若無人だったな。
兄様たちが悟ったような顔で頷く。
ルーはいつでも一生懸命だったんだねとアルが笑ってくれる。
あ、死後の世界ってその人の文化や宗教観に関係していて、輪廻の輪に入るまではその影響下にあるんだって。
だから人によって見えるものが違うんだとか。
『まあ、宗教など心の拠り所。人知の及ばない存在があることを心のどこかで知っていればいい。それをどんな名前で呼ぶかは自由だ』
説明はこれで終わりだ。
神様がそう言うと山や空に見えていた景色が真っ白に戻った。
『我が娘よ。今までお前ほど心配した魂はない。だがやっと掴んだ幸せだ。存分に堪能するがいい。そして時々でいい。私の子供たちを助けてくれ』
「子供たちですか」
『異世界に攫われて行った子供たちだ。転生してしまえば魂はその世界に囚われる。だが転移であればこちらに呼び戻すことができる。どうだ。手伝ってはくれぬか』
まあ、二つの世界が終わって正式な神になってからだがな。
そういう神様に私とアルはもちろんと答えた。
ベナンダンティになってすぐ。
意識不明になっていた私は自分の世界に戻れずに不安だった。
あの時みんなが励ましてくれたから耐えられたけど、たった一人で知らない世界に放り出されたらどれだけ不安で恐ろしいか。
そういう人たちを助けられるなら、神様の一柱になった意味もあるんだと思う。
『最後に一つ贈り物をしよう。これがあればおまえたちの悩みも一気に解決するはずだ』
「あ、はい。悩みがなんだかわかりませんが、ありがとうございます。それで王都は今どんな状況ですか。まさか全滅とか・・・」
『世界が成ったところで止まっている。だが
神様になったけど当分は人間のまま。
なら今やるべきことは王都で魔物を倒すだけだ。
他のことは『大崩壊』が落ち着いてから考えればいい。
「そうなると後はこれをベナンダンティの連中にどう伝えるかだな」
「ええ、これからの生活にも関係してきますし、今年の総会でよく話し合う必要もあるでしょう」
兄様たちが今後の計画を練り始める。
そりゃあ自分たちがいきなり長命族になったって知ったらびっくりするもんね。
これも私のせいだから、後でたくさん謝ろう。
だって長生きしたい人ばかりじゃないかも知れないものね。
「それで皆への伝え方なんだが・・・」
「ベナンダンティ・ネットが確実ですか。いや、ネット環境のない仲間もいますから、そこはやはり直接会って説明を・・・」
『おーい、お前たち。私がいるのを忘れていないか』
真剣に話し合っている兄様たちに神様から声がかかった。
『そんな面倒なことをせずとも、私が全て伝えてある』
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