第339話 廻る輪廻は糸車

 ベナンダンティの一部が私とアルの眷族になった。

 えっと兄様たちも眷族神になったって言ってたけど、それとは違うのかな。


『眷族神は神の使者。眷族とは神の配下。簡単に言えばそういうことだ。そして眷族神は神の一部であるから魂のみの存在。眷族は普通に生物だから寿命がある。ただやたらと長くなった命は、見る者によっては不老不死に思えるかも知れない』


 ハル兄様が二百五十才まで生きた。

 そして帝国の守りとなった。

 それが一部のベナンダンティ達に引き継がれた。


『と言っても天地あめつちの王や眷族神のように何かする必要はない。存在するだけでいい。たまに何かを頼めばいいのではないか。まあそもそもこうなったのも娘の想いを世界が叶えたからだが』

「私、なにか願いましたっけ」

『ずっとこのままでいたい。そう思っただろう。ベナンダンティとして、仲間に囲まれた今の生活がずっと続けば良いと』

「そりゃ、思いました、けど」


 兄様やアンシアちゃん、アルと一緒の冒険者生活。

 お母様やお父様。皇帝ご夫妻に見守られた令嬢としての日々。

 いつかは別れが来ちゃうのかもしれないけれど、それでも出来るだけ長く続いてくれればって。

 で、なんでそれがベナンダンティの不老長寿に繫がるの ?

 いや、その前に、一部のって、一部のベナンダンティがって何 ?!


『お前が仲間だと思う者たちだ。要するにヒルデブランド出身者だな。他大陸のベナンダンティでそう思う者はいないだろう』

「待ってくれ。つまりそれはほぼ日本人ということになるのか ? 」


 エイヴァン兄様が慌てて口を挟む。


『うむ。私が決めたことではないからはっきりとは言えないが、一匹狼の他大陸では迫害対象になりかねん。だが、ダルヴィマール侯爵領ならばなにかしらの対策が取れると考えた、いや、多分何も考えてはいない。世界には意思はないからな。ただ新たに神となったお前を喜ばせたかっただけだ』


 世界が成った今だからなんとなく出来たことだろうが。

 そう言う神様の言葉も曖昧で、正直世界の成り立ちとか理解のできないことの方が多い。 

 仕方ないからその辺は正式な神様になった時に教えてもらおう。

 ほら、私の好きなネット小説のヒロインも言ってる。


 いーんだよ、こまけーことは !


『それともう一つ。迷子娘。残念だがお前は眷族神にも眷族にもなれない。何故ならお前の魂は一つだから』

「・・・ベナンダンティじゃないからですね」


 アンシアちゃんが悲しそうに言った。


「いいんです。あたしはこの世界の人間だから、特別な何かにはなれないってわかってます」

『だが係累としてこれから先の人生、病気はしないし怪我はすぐ治る。そしてかなり長生きする。その後でまたこの世界に生まれ変わってくるといい』


 お父様や皇帝ご夫妻もそうだと言う。

 二つの世界を生きるベナンダンティと違って、普通の魂は一つの世界で循環するのだそうだ。


『そして、英雄。お前もまた神格を持てなかった』

「・・・」

『お前の寿命は去年の暮れで尽きていた。私は人の運命や生死には関わらないことにしている。だが、大崩壊の前にお前を失ったら、この娘が普通ではいられなくなると思ってな』


 私もずいぶんと甘くなったものだ。

 照れたような声が聞こえる。


『さすがにあちらでは春まで持つまい。だがこちらでやり残したことがあるのだろう ? 納得がいくまでこちらで暮らせ』

「・・・承知しました。出来れば先に逝った妻に早く会いたかったのですが」

『それは無理だな。すでに転生しておるから』


 ギルマスの顔の口がパカンと開いたままになった。

 そんな馬鹿なと言いたげな表情をしている。


『夢を砕いて悪いが、いつまでも魂を遊ばせておくわけにはいかない。少しでも隙を見せれば攫われてしまうのだ。別の神の世界に連れて行かれれば、お前とも二度と巡り合うことが出来なくなる』

「そう、ですか・・・。残念です」


 悔しそうに俯くギルマスの唇はギュッと噛みしめられている。

 奥様のことがとても大切だったんだろう。


『巡り合うべき魂は、いつか必ず集うものだ。英雄もここでの生を終えたら私の世界で生まれ変わり、またベナンダンティとして娘の支えになってやれ。お前は十分生きた』


 人は死ぬと輪廻の輪に入り新たな人生を歩む。

 今は晩夏。

 来年の春を待たずにあちら現実世界ではギルマスは亡くなる。

 そしてこちら夢の世界で亡くなればまた、新しい生を受けてベナンダンティとして戻ってくる。

 戻ってくる。

 戻ってくる ?!

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