第336話 私たち、何かになりました

 兄様やギルマスは時々私を可哀そうな子みたいな顔で見る。

 フゥっと大きな溜息をついて、ヤレヤレって頭を振って。

 そんなときアルはよしよしって頭をなでなでしてくれるけど、なんでみんながそんなふうに私を見るのか納得がいかない。


「神よ。私の考え違いでなければその二柱の神と言うのは・・・」

『そのとおりだ、英雄よ』


 私以外のみんながそうだよねーみたいな顔をする。


「アル、もしかしてお前、アレか ? 」

「あー、はい。そうです、エイヴァン兄さん」

「そういうことは前もって言っておいてくれ。寿命が縮むわ」


 ディードリッヒ兄様が四神獣を集めてなにやら言っている。


「アルに頼まれたんだろうが、タダじゃないよな。代わりに何をもらった ? 」

『・・・漆黒の稲妻の無限供給だ』

「バカか、お前ら ! 」


 ディードリッヒ兄様の大きな声にみんながそちらを向く。

 アルは兄様に手招きされてそちらに行ってしまった。

 テーブルや椅子はいつの間にか消えていて、全員が四神獣たちとアルを囲んで口々にお小言を言っている。

 なんだか私だけのけ者にされてる気分。


『私の話はまだ終わっていないのだがな。まあ、今世は良い仲間に恵まれてよかった。なにしろお前の魂はささやかな不幸とてんこ盛りの不運ばかり集めたがるのでな。今回は出会うべき魂と巡り合えた上に、あり得ないことに神格まで授かった。私はやっと安心できる』

「今世はって、私は今までどんな人生送ってたんですか。それに神格ってなんですか」

『うむ、防空壕にタッチの差で入れずに焼死したり、科挙で答案用紙をすり替えられたり。モズに生まれるはずが卵のうちにカッコウに巣から蹴り落とされたこともあったな』


 ・・・ロクな前世ではなかったのは理解できた。

 大体モズって何。

 人間以外の転生ってあるんだ。


『私の世界では石ころ一つにも魂が込められているのでな』


 だからその魂を奪われるということは、世界崩壊の第一歩だと神様は溜息をつく。


『お前はとびぬけて不幸ではなかったが、今までの人生では報われることが少なかったのは間違いない。だから今世ではせめて少しでも良い想いが出来るよう英雄の魂の側においた。なのにチャンスはあるのにいつまでも出会わない。軽トラに轢かれた時はまた駄目かと思ったが、予定通り一発逆転ベナンダンティになってこうして新たな神となった』

「一発逆転って・・・あれ ? 」


 今何かへんな言葉が混じってた気がする。

 お約束としてもう一回言ってもらうのがいいか。

 最後のところをもう一度って。


「あの、今、神になったっておっしゃいましたけど、それって比喩表現としての神、ですよね ? 」

『いや、そのものズバリでお前たち、二人の『四方よもの王』が神となり、その絆でこの国を確固たるものにしたのだ』


 あれ、おかしいな。

 そんなものにはなってないと思うけど。


「ディー、来たぞ。例のアレ」

「ええ、安定のルー・クオリティですね、兄さん」


 もう兄様たちったら。

 またそうやって私をバカにするんだから !


『よいか。まずお前が『大地おおつちの女王』になった。続いて『雲居くもいの王』が生まれた。二人は長すぎる人生を共に過ごすことを決めただろう』 


 うん、確かにそうだけど。


「おい、ルー。お前、アルと将来を約束したのか ? 」

「はい、エイヴァン兄様。寿命が二百年以上になったから、四神獣たちと一緒に世界旅行をしようって」


 その時には兄様たちはいないけど、冥途の土産話にはなるものね。


「他には ? 他には何かアルに言われなかったか ? 」

「うーんと北の大陸にギルマスの若気の至りを見に行こうとか、そんな感じです」

「・・・止めておくれ。頼むから」


 ギルマスの顔が少し引きつっている。


「アル、ルーの言ってることで間違いないか」

「は、はい。間違いないデス・・・」

『ヘタレはあくまでヘタレだったな』


 なぜかみんながブツクサと諦めたような呆れたような失礼な態度を取ってる。

 私は困った顔をしているアルの手を取って見上げる。


「あのね、多分みんなが問題にしてるのは私のことだから、アルはそんな顔をしないで」

「いや、叱られてるのは間違いなく僕だよ。ルーこそ気にしないで」


 そんな私たちの肩を兄様たちはポンポンと叩く。


「もうお前の性格改善と進路変更は諦めた。二人でがんばれ」

「立派な神様になるんだぞ。俺と兄さんは草葉の陰から見守っているからな」

「そんな、ディードリッヒ兄様ったら縁起でもない」

 

 でもすっかり爽やかな顔になった兄様たちには、あつらの神様から大きな大きな爆弾が落とされた。


『何を勘違いしている。お前たちもだ』

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