第332話ある世界の神の慟哭

 私たちの世界の神、四神獣たちが大御親おおみおや様と呼ぶ方から大まかな説明があった。


 ここが乙女ゲーム『エリカノーマ』の世界であること。

 駄女神が映画よろしくそれをリアルで楽しむために作ったこと。

 そしてもうすぐこの世界が消滅するところだったこと。

 それがちゃんとした世界になったことで防ぐことができたこと。


「ギルマスも兄様たちもご存知だったんですよね。どうして教えてくれなかったんですか」

「だってなあ、ルーは『四方よもの王』になってから責任を感じていただろう。自分たちではどうしようもないことで悩ませたくなかったんだ」

「アルも知ってたの ? 」

「はっきりと聞いていなかったけど、話の流れでなんとなく。後は北と南に教えてもらったんだ」

「私とアンシアちゃんだけが仲間外れだったのね。酷いわ」


 ナラさんとフロラシーさんも知らなかったと言うけれど、なんだか春からこっち色々と悩んでいたのがバカみたい。


『まあ、そう不貞腐れるな。終わり良ければ総て良し、だったか。曖昧にする気はないのだが、結局のところ大団円と言うところか』

「待ってください。私、いろいろ知りたいことがあるんです」


 めでたしめでたし良かったね、で話を終わらせようとする大御親おおみおや様にストップかけて、私以外にも疑問質問はあるよねとみんなの顔を見回す。

 かねてからの疑問、四神獣と『四方よもの王』について知りたいのだ。


「俺は世界が消えるということについて知りたい。東西南北との契約であなたが世界を消すと聞いたのだが」

「そもそも女神は一体どのくらいの数の世界を作ったんだろう」

「世界が成るって、どんな条件があったんですか」


 疑問はいくらでも湧いてくる。

 時間がたっぷりあるのなら、全部答えてもらいたい。


『そうだな。まずは世界が消えることについて話そう。今まであの女神はいくつもの世界を作ってきた。それこそ数えきれないほどのいい加減な世界を』


 世界を作るのは神をしても簡単なものではないと言う。

 少しの綻びがあればそこから崩れていく。

 適当に作るわけにはいかない。

 だが生まれてまもない若い神は自分の力を過信している。

 泥団子を作るように気楽に作り続けていく。


『生まれたばかりの高揚感で、まだ未熟な力を無尽蔵に使えると勘違いをしている。違うのだ。世界を作るにはまずきっちりと方向性を定め、何度も計画を見直し、万難を排して着手せねばならん。それをあの馬鹿どもは私の子供たちが考えた架空の世界をそのまま作ろうとした。あれは創造ではない。模倣ですらない。盗作だ』


 落ち着いていたはずの声に段々苛立ちが混じってくる。


『それでも上手く世界が回れば良かったが、あやつらはさらに手抜きを始めた。それが異世界転移、異世界転生だ。そしてその概念が広まってくると、今度はあの女神のように劇場型の世界を作るようになったのだ。物語そのままの世界だ。自分が楽しむためだけのな』


 声だけなのに悔し気な声にのせる怒りが伝わってくる。


『そしてその世界に私の子供たちを攫って行く。異世界の創造主だ、転生の神だ、運命の女神だ。そんな言葉に騙されて行った先の世界。いい加減な世界は物語の終焉を見ずに消えていく。私には子供たちの断末魔の声だけが届く』


 アンシアちゃんのために作っただろう空と地面が、また真っ白に変わり、まるで稲光のように光り轟く。


『わかるか ! 助けを求める声に駆け付ければ、そこには世界の残りかすがある。あんなに優しく明るい魂が、困難を乗り越えていく逞しい魂が、あやつらのせいで消えていく。消えた魂は輪廻の輪に戻ることもできん。私が長い月日をかけて慈しみ育てた魂を、こんなにも簡単にもてあそび消されて、いつまで我慢をしろというのだ ! 』


 悲しくて、苦しくて、後悔しかないような叫び。


『返せっ ! 私の子供たちを返せ ! 私の愛し子たちはお前たちを楽しませるために生まれて来たのではないぞ ! 』


 この白い世界でなければ、空は暗雲立ち込めて雷鳴が轟き暴風が荒れ狂っていただろう。

 震えて私にしがみつくアンシアちゃんを抱きしめる。

 顔を上げればみんながお互いをかばうように寄り添っている。

 アルも私たち二人をの肩を抱いている。

 そうして稲妻が治まった頃、落ち着いた大御親おおみおや様の声が戻ってきた。


『消えていく世界を回収していたある時、私はやっと世界を作り始めた女神を見つけた。またゲームの世界を作り出したあやつは、死んだ魂ではなく大往生をするはずの魂を死に追いやって手に入れた。もう限界だった。だから世界が完成する直前に、奴に気づかれぬよう四神獣とベナンダンティを潜り込ませたのだ。そしてあれはそれに気づかず去っていった』

『お待ちください、大御親おおみおや様。我らは女神によって作られたのではないのですか ! 』


 北と南が驚きの声をあげた。


『我らを憐れんで御手をお貸し下さったのではないのですか ! 』

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