第331話 白い世界

 眩い光に包まれた私たちが目を開けたら、そこは見知ったあそこだった。

 ベナンダンティになって三度目の世界と世界のはざま

 おいでませ、白い世界。


『娘、やり遂げたな ! 』

『これで世界は安泰だ。もう何も思い悩むことはない ! 』

『ばんざーい、娘ェ ! 』

『偉いぞ、ヘタレ ! 』


 私とアルの周りを大きな光と少し小さな光が跳ね回る。


「タマに初めて褒められた・・・」

「初めてって、あんなに仲がいいのに ? 」

「僕たち二人ともルーのことが大好きだからね。ルーのことについては手厳しいんだ」


 フーン、そうなんだ。

 どのあたりで手厳しいんだろうって考えていたら、後ろの方で声がした。


「おい、ここはどこだ。いつもの部屋か ? 」

「いや、兄さん、扉がありませんよ。それにいつもの部屋より広い」

「広いっていうか、果てが無いような気がするんだがね」


 振り返るとエイヴァン兄様とディードリッヒ兄様、それにギルマスが立っていた。


「兄様っ ! ギルマスっ ! 」


 アルと二人で駆け寄ると、違う方向からまた声がする。


「魔物がいないぞ、何があった」

「陛下、なんだか白くて方向感覚がなくなりそうです」

「アンナ、これって異世界転生の定番の場所よ」

「定番って、わたくしこんな場所しらないわ、エリカ」


 両親と皇帝ご夫妻。

 いつものドレスと貴族服で立っている。

 さらにもう一つ。


「ルーちゃん、エイヴァン ! 何が起こってるのか説明して ! 」

「こーごーはーどーごーでーずかー。おねーさまー、たずげてくださいー」


 ナラさんとフロラシーさん、それに涙でグチャグチャの顔を引きつらせたアンシアちゃん。

 三人ともメイド服を着ている。

 気が付けば私たちも冒険者装束だ。


『世界は成った』

『ただのゲームの世界が真の世界になった。もう消え去ることはない』

『我らの世界』

『我らの生きる世界』


 東西南北は跳ね回っている。

 嬉しくて仕方がないと言った様子だ。

 一体何があったんだろう。

 誰か説明してくれないかな。


「ごばいー、たずげてー」


 アンシアちゃんが床に這いつくばって顔を真っ青にしている。

 私はあわてて駆け寄る。


「しっかりして、アンシアちゃん。みんないるわ。怖がらないで」

「おでーさまー、真っ白ですー。どっちが上ですかー。あたし、どこを向いてるんですかー」

「アンシアちゃん・・・」

「おちつけ、アンシア。ちょっとした空間認識阻害を起こしているだけだ。そら、ルーのいる方向が前、足がついているのが下だ」


 エイヴァン兄様がアンシアちゃんの肩を後ろから掴んで私の方を向かせる。

 

「あー、アンシアははざまの世界は初めてだったね。それでは慌ててもしょうがない」

「英雄、それを言ったら俺たちもここは初めてだぞ」

「人生経験の差ではないですか、陛下」

「む、それは俺が年寄りだと言いたいのか」

「一番の年寄りはギルマスですよ」


 兄様たちと陛下がワイワイしているのを聞いて、アンシアちゃんも少し落ち着いてきたみたいだ。

 まだしゃくりあげているけれど。

 そうしていると、一面真っ白だった世界の上の方が青く変わっていく。

 それと同時に足元が緑になる。

 遠くに茶色の凸凹が出来る。

 山に見えないこともない。


『どうだ、これで良いか ? 』


 四神獣たちとは違う深く落ち着いた声がそう言った。


『いや、すまなかった。まさかここまで怯えるとは思わなかったのだ』

大御親おおみおや様、ごらんいただけましたか ?! 』

『世界が、世界が成ったのです、これで、これでもう・・・ ! 』


 大きい光の珠、北と南が感極まった様子でその声に応えている。


『長き時をよく耐えた。北風王にしかじよ、南風王まぜよ』


 どうやら『にしかじ』が北で、『まぜ』が南のことらしい。

 なんだ、そんな素敵な名前があるなら私がつけなくても良かったじゃない。


『それは違うぞ、我が娘よ。どちらもこやつらの立場を現しているだけで、個人の名ではない。お前の付けた名前こそがこやつらにとって宝物なのだ』


 そんなものかな ?

 それであなたはどちら様でしょう、私の四人目の父を名乗るお方 ?


『これっ、なんて口をきくのだ、娘よ ! 』

大御親おおみおや様になんと失礼な ! 』

『かまわぬ。名乗りもせずに悪かった。だが、私にとって生きとし生けるもの全てが愛しき赤子せきし。そしてこの度まちがいなくお前は私の娘となったのだ』


 ・・・。

 何を言われているのかわからない。

 誰か、本当に誰か説明してくれると嬉しいのだけれど。

 ギルマスならわかるかなあと視線をやると、顔を左右に振ってお手上げポーズをされてしまう。

 

『まず私はお前たち、ベナンダンティの生まれた世界を統べる神。こやつらは私を大御親おおみおやと呼ぶが、神には名前も姿もない。好きに呼ぶように』

「・・・」

『ゆっくり説明しよう。この世界の成り立ちから』


 時間はたっぶりとあるからと、私たちの世界の神様が話し始めた。

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