第310話 貴族はやっぱり貴族だった

「まだ青が終わったばかりだというのに、大型がかなり増えている。やはり押し出されてきているのか」

「次の黄色地帯ではどれくらいの規模で集まるんでしょうか。せめてこの辺をうろついている奴らは片付けておきたいですね」


 エイヴァン兄様とディードリッヒ兄様が今日五頭目の魔物を縛り上げる。

 私たちは王城から片道一時間ほど離れたところで魔物の討伐をしている。

 と言うのは、はっきり言って飽きちゃったから。

 お上品に戦うとかないわー。

 そろそろストレスが溜まりまくってたんだよね。

 ルチア姫は倒れて寝込んでいることになっているので、ちょうどいい息抜きにってギルマスに勧められました。

『ルーと素敵な仲間たち(仮)』はここからかなり離れた黄色地帯で活動していることになっている。

 そこでお母様に教えていただいた秘密の出入り口から王都の外に出て、物資補給と報告の為に一度戻ってきたことにしている。

 寝泊りは今は使われていないギルマスの家だ。


へいクラスを遠出させるのはやめたほうがいいな。それと騎士団に同道させるのはこうだけにしよう。経験のない騎士たち相手ではおつには荷が重いだろう」

「出現状況と合わせてグランドギルドに報告しますね、エイ兄さん」


 アンシアちゃんがサッとメモする素。

 私たちのパーティーは兄様たちが作戦と指揮、アルが治癒と支援魔法、アンシアちゃんが報告などの事務、私が索敵と役割分担がはっきりしている。

 もっとも布陣が整ったら、全員揃ってボコボコにするんだけどね。


 そんなこんなで数日たったある日。

 私たちは王都の外でソロで活動することになった。

 グランドギルドからの特別指名依頼だ。

 高位冒険者のお断りできないやつ。

 かねてからの予定にあった、アレだ。


「おはようございます。第五大隊の皆さんですね」

「・・・」


 私の前には憮然とした表情の騎士様が約十名。

 そのうちお一人様は団長様だ。

 近衛を入れた六人の中で一番お若い。

 確か五十に届くか届かないかだったと思う。

 今日は冒険者による騎士様への魔物との戦い方のレクチャーの日だ。


「・・・高位の冒険者が担当と聞いているが、君は随分と若いな。冒険者になって何年目かね」

「はい、今年で二年目になります。年は十七です」


 おーい、何めっちゃ嫌そうな顔をしてるのかな ?

 冒険者の腕は年齢とは関係ないのよ ?

 長幼の序を重んじる騎士団とは違うのよ。

 やはりここはショック療法がいいのかな。

 頭固いな、騎士団。

 ザワザワと目の前に私がいるのに小声で不満を言ってる騎士様に、一瞬だけムカッときたけど笑顔に隠して続ける。


「事前に冒険者ギルド発行の『討伐の手引き』をお読みいただいたと思いますけど、読むのと見るのとでは随分と違います。そこをよく実感してくださいね。本日は私、ルーがご一緒させていただきます。一日よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるけど、あちらからは何の反応もない。

 いい大人がなんだろうね。

 仕方がない。


「全員、失格 ! 」

「「えっ ?! 」」


 先ほどまでのフレンドリーな笑顔は維持。

 けれどその裏でちょっとだけ『威圧』を使う。

 きっとこの子はもしかして機嫌が悪いのだろうか、くらいには感じているはずだ。

 

「私は魔物との戦い方を教えて欲しいという依頼で来ました。つまり先生です。なのにあなた方は挨拶もしないし目も合わせようともしない。これでは授業はできません。まして今日は魔物相手の実戦です。私の言う事を聞かないと命はありませんよ。先生の指示に従えないような生徒に教えることはありません。では、解散」

「ちょ、ちょっと待ってくれ ! 」

「待ちませーん。また明日お会いしましょう。文句があるならグランドギルドへ。あ、先生抜きで王都から出たら罰則がありますから止めてくださいねー」


 後ろから誰か追いかけてくるけれど、無視してグランドギルドに戻ってしっかり報告した。

 もちろん映像付きで。



 その日まともに訓練が出来たのは近衛騎士団だけだった。

 まあ冒険者兼業のアンシアちゃんを次期団長夫人として認めているっていうのもある。

 近衛騎士団については他の冒険者さんのグループでも真面目に訓練をしていたらしい。

 ただアンシアちゃんの班に同道したグレイス団長がね。


「団員無視して自分だけ嬉々として魔物に向かっていくので、もう引き留めるのが大変でした。最後は騎士様全員で簀巻きにして逆さづりにしたんですよ」


 夕方グランドギルドに戻ってきたアンシアちゃんは、疲れ切った表情でグッタリと机にうつ伏した。


「それでも訓練ができただけマシなんですよね。お姉さまたちみたいになめた態度取られなかったってだけ」

「まあ、見事にいきなりマウンティングしてきたからな」

「僕のほうもそうですよ。冒険者に教わることはないって言われたし」


 アルもディードリッヒ兄様も同じ目をみたらしい。

 で、完全無視は私だけ。

 しばらくみんなでまったりしていたら、ギルドの二階から騎士団長様たちが降りてきた。

 全員めちゃくちゃ機嫌が悪い。

 そりゃそうだろう。

 依頼しておきながら講師役の冒険者を見下してまともに訓練ができなかったのだから。

 朝から騎士団本部にギルドからガンガン苦情は来るし、訓練に行ったはずの団員は戻ってくるし。

 あの調子ではグランドギルマスから随分と嫌味を言われたんだろう。

 あ、第五騎士団の団長様が顔を腫らしてる。

 先輩団長から一発食らったかな。

 団長様方は私たちの姿を見つけると、近づいてきて全員で頭を下げた。


「本日はうちの団員たちが迷惑をかけた。まことに申し訳ない」

「ああ、まったくだ」


 エイヴァン兄様はチラッと周りを見て返事をする。

 この休憩所にはこうクラスの冒険者が集まっている。

 第五騎士団の担当になった人たちは、めっちゃ機嫌が悪い。

 

「言っておくが今日集められたのは全員が一騎当千の強者だ。それがどういうことか解っているんだろうな」

「・・・それはもちろん。担当になった冒険者には敬意を表せと教えてきた」

「で、教えてきたはずの『団長』が一番にやらかしたがな」


 兄様が顎で私を呼んで第五の前に立たせる。


「随分となめた態度を取ってくれたようだが、こいつはお前より強いぞ」


 えっという顔をするおじ様に、私は笑顔でヒラヒラと手を振ってみせる。


「こいつはルチア姫と同門だからな。力は同じくらいだ。文句があるならこいつに勝ってから言え」

「いつでも待ってまーす」


 何か言いたそうな団長様方にエイヴァン兄様は椅子に座り直して言う。


「俺たちは冒険者だ。依頼があれば受けるだけだ。だが、依頼者に邪魔されてはどうしようもない。本来であれば慰謝料を請求するところだが、グランドギルマスは要求しなかっただろう」

「ああ」

「なら、今日のことは今日のこと。明日からは真面目に訓練を受けるんだな。そして俺たちに仕事をさせろ」


 団長様方は何と言っていいのかわからないのか、そのままそこに立っている。

 邪魔だなあ。

 頭を下げたら帰ればいいのに。

 よし、やるか。

 私はアルの背後にまわり、後ろからギュッと抱きついた。


「アルぅ、私、疲れちゃった。もう帰ってもいいかなあ」

「・・・そうだね、ルー。一日仕事がないって退屈だよね」


 先に念話で知らせておいたから、アルはちゃんと乗ってくれて私の右手を掴んで少し体を右側に傾けて振り返る。

 兄様たちは何を始めたみたいな顔をしたけど、すぐに私の意図に気づいてくれる。


「お夕飯、どうしようか。どこかで食べてく ? 」

「うーん、それもいいけど、ルーの手料理が食べたいな。元気が出るから」

「ホント ? じゃあお買い物して帰ろ。何が食べたい ? 」

「こないだのピーマン。あれ、美味しかったな。それと人参のグラッセも」

 

 一緒に作ろうよ。

 嬉しい。

 じゃあもう帰りましょ。

 見つめ合った二人でキャッキャウフフな雰囲気を出していたら、団長様たちが物凄く居心地悪そうな顔になった。


「二人とも、続きは帰ってからにしろ。心にグサグサ刺さるわ」

「一人身に見せつけるなよ」

「くっ、俺も彼女の手料理が食べたい ! 」

「お前はその前に彼女を見つけろ ! 」

 

 先輩たちの盛り上がりで団長様方も引き上げ時だとわかってくれたようで、私たちに頭を下げて去っていった。

 扉が閉まって馬の蹄の音が完全に離れていったのを確認すると、私はあわててアルから離れてアンシアちゃんの隣に移った。


「ご、ご、ごめんねっ、アル ! あの人たち、早く追い出したくてっ ! 」

「大丈夫、わかってるから。踊りの時と同じ触り方だったし、演技だってすぐわかったよ」


 アルはいつも通りの優しい笑顔を見せてくれる。

 先輩たちはというとあれが演技だったとわかると、なぜか籠に一杯盛られたピーマンを持ってきて、責任取って食べろと言う。

 こっちでもピーマンって食べられない人いるんだね。

 だからいつものピーマン炒めや肉詰めなんかを作っていたら、これもこれもとトマトや人参、ブロッコリーなんかが積み上げられる。

 要するに自分の嫌いだった野菜を食べてみろと。

 どんな嫌がらせですか。


 任せて下さい !

 知ってる限りのお料理を作りますよ。

 その日はみんなに手伝ってもらって、たくさんお野菜料理を作った。

 美味しい美味しいと食べてもらって、今日の嫌な気分が一掃できたと思う。

 

 明日こそ、がんばろう。 

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