第307話 出たがりなおじ様たち

「はっきり言いましょう。この戦いに役立たずはいりません ! 」

「な、なにを根拠にっ ! 」


 服師団長が青筋立てて叫ぶ。

 根拠なんて山のように積み上げられる。


「聞いておられませんでしたか ? やる気もなく現実の見えないお花畑の魔法使いは迷惑だと言っているのです。これなら冒険者ギルドに所属している魔法使いのほうがよほど使えるでしょう」

「栄光ある魔法師団に何たる言いぐさ ! 我らは日々切磋琢磨している ! 」

「・・・これで、ですか ? 」


 私は録画しておいた先程のお茶会を壁に映して見せる。

 副師団長はポカンと大口を開けている。

 そりゃそうでしょう。

 訓練とは名ばかりで魔法のマの字も出ない会話。

 やすんでばかりの団員。

 一体どこに努力している姿が ?


「彼らがこの戦いに出れば、間違いなく命を落とすでしょう。死ぬと解っている人を危ない場所に配置するわけにはいきません。どうぞ、ご納得ください」

「・・・しかし・・・ ! 」

「やめなさい。ルチア姫の仰る通りだ」


 まだ食い下がろうとする副師団長を、師団長が静かに窘める。


「確かに魔法師団は祝典の彩り程度の仕事しかない。この『大崩壊』こそ我らの存在意義を示すべき時。だが、肝心のその時にお役に立てないのも事実だ。ならば魔法以外で少しでも何かしらの仕事をしようじゃないか」

「ご理解いただきありがとうございます」


 私は師団長に軽く頭を下げた。


「ですが、姫。中には優秀な者もおります。彼らには・・・」

「すでに一覧表を作ってございます。ここ数日で立派な方がおいでなのは承知しておりますから」


 そう、魔法師団にはちゃんと真面目に自分の魔力を磨いている人も多くいるのだ。

 その中でも特に優秀な人はピックアップしておいた。

 これからは彼らを討伐組に入れて鍛えていく予定だ。

 もちろん危なくなったらとっとと後ろに下がってもらう。


「師団長殿。魔物との闘いは我ら騎士団にお任せあれ。獅子奮迅の戦働いくさばたらきをご覧にいれよう」

「団長様方、皆様も後方で待機してくださいませね」


 え、なんで ?

 各騎士団長様が拍子抜け、みたいな顔をする。


「皆様には指揮に徹していただきますわ。まさかと思いますけれど、前線に出て戦いたいとか思ってらっしゃいませんわよね ? 」

「・・・」


 図星だったみたい。


「もし皆様が倒れられましたら、全軍の士気が一気に落ちますわよ」

「・・・」

「皆様が出てこられるのは、冒険者も騎士団も、もちろんわたくしと近侍たちも倒れたときですわ。それまではどっしりと構えていらしてくださいね」

「しかし、それでは示しがつきませぬぞ」


 おお、まだわかってくれてない。


「世の中にはお偉いさんは安全なところで命令しているだけなどと揶揄する者もおりましょうが、そのような世迷い言は聞き流してくださいませ。一介の冒険者や兵士より、皆様の方が価値があるに決まっているではありませんか」

「いや、ルチア姫。それはあまりに暴論ではありませんか」


 と言うのは第五騎士団の団長様だ。

 気さくで末端の見習の名前まで覚えていると聞いている。

 不愉快だと言いたそうな顔をしている。


「彼らも私も人間。命の価値は同じでしょう」

「命の話などしておりませんわ。わたくしは存在価値について申し上げております」


 これはネット小説でよく使われるシーン。

 偉い人たちは後ろで隠れているとか、守ってもらっているとか。

 そして危険も顧みず王族が前線に出てくるとか。

 物語としては面白いけれど、実際は王族とか指揮官が前線に出てこられるととてもめんどくさい。

 お偉いさんを守りながら戦うなんて人間同士でも難しいのに、本能むき出しの魔物相手でなんて、どれくらいの人が無傷のままいられるだろう。


「皆様の知識、指導力、戦闘力。ここまで育つのにどれほどのお金がかかったでしょう。ご実家の援助もあったでしょうが、成人されてからは国庫から扶持が出されておりますわね。この戦いで皆様が亡くなられてしまいますと、それらすべてが無駄になってしまうのですが、それはよろしいのでしょうか」

「確かにこの年までかなりの禄を食んでおりますが・・・」


 騎士団長ともなると一般の兵の何倍もの額が支給されているはずだ。

 その差は多分あちら現実世界の比ではないはず。


「かと言って若い者にばかり任せるわけにはいかない。我らも経験では彼らの上。十分戦力になると思うのだが」

「第二騎士団の団長様。お言葉を返させていただきます。魔物相手ということであれば、皆様は冒険者としては『てい』と同等ですわ」

「『てい』・・・。見習の終わったばかりの新人だと言われるか」

「はい。残念ながら」


 彼らが弱いと言っているのではない。

 剣の腕なら高位クラスだろうけれど、魔物と戦うには経験が足らなすぎるのだ。

 だからこそのこの間の訓練見学だったわけなのだが、まだインパクトが足らなかったらしい。

 うーん、最後のウサギとパンダのダンスが不味かったのだろうか。

 あれでただのショーに終わってしまったとか。


「皆様にはなんとしても生き残っていただかなければならないのです」

「それを言うのなら将来のある若者たちにこそ生き延びて欲しい。そう思うのは間違いだと申されるか、ルチア姫」

「いいえ。それこそが正しい先達の想いであると」


 先ほどとは言っていることが違うと会議室がザワザワとする。


わたくしが申し上げたいのは、この戦いが終わった後のことでございます」

「終わった後 ? 」

「人員が減り命令系統すらボロボロになった騎士団を立て直すのはどなた ? 」

「 ?! 」


 私は戦に出たくて仕方がない様子の騎士様の長の皆さんに順番に目をやる。


「あなた方が前線に出れば当然副師団長様も出る。残ったのは何もわからない方々だけ。どれほどの混乱を招くか。そしてこの戦で先輩を後輩を友人を亡くした騎士様はどれほどの悲しみに襲われるか。その時に団長様方が生きておられれば、まだ立ち直る希望が残されるのです。皆様方には苦しみの中にいる若い騎士様を励まし慰め、仕事を与えて王都を復興させるという大切な使命がおありではありませんか。なぜわざわざ討ち死にしに戦場いくさばへとおいでですか」

「・・・ルチア姫には我らが必ず討ち死にするとのお考えなのですか」

「もちろん、そう考えております。このまま何もしなければ、でございますが」


 騎士団長様方はまだ現場に出たいらしく、なにやら話し合っている。

 ここは最後にガツンと言ったほうがいいだろうか。


「スケルシュさん。冒険者ギルドでは合同討伐依頼の時には確か、発破とやらをかけるのでしたわね」

「はい、お嬢様。檄を飛ばすとも申しますね」

「それは物語の通りなのかしら」

「ええ、まあ。大体は合っておりますね」

わたくしにも出来るかしら」

「お試しになりますか ? 」


 団長様方は何が始まるのかと顔を見合わせている。

 私は投稿ネット小説の一説を頭に浮かべて、セリフをまとめた。

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