第300話 まずはじっくりと観察しましょう
努力は裏切らない。
そんなの嘘だ。
裏切らないとしたら、それは努力した分だけだ。
同じ物を目指す人が自分よりもう少し努力したとしたら、それは報われなくても仕方がない。
だから努力に果てはない。
幼い頃から両親に言われていたのは
努力に
最後まで努力しましたか。
心残りはありませんか。
だからあれだけの詠唱呪文を身に着けるには、アンシアちゃんがどれだけの努力をしたのかと思う。
私が彼女に敵わないと思っているのはそこなんだ。
思い付きで適当に魔法を作ってしまう私は、アンシアちゃんや魔法師団の皆さんの足元にも及ばない。
そこに血の滲むような努力がないから。
そのがんばりが報われないなんて、そんなことがあっていいはずがない。
だから、叫んだ。
「あの時の、空に咲かせた赤い花 ! 走りながら出したアンシアちゃん、とてもカッコよかった ! あれをもう一度見せて ! 」
ギルマスは、強い。
兄様たちだって数字持ちになっただけあって、冒険者の中では抜きん出ている。
兄様たちほどではないけれど、私もアルも若手の中ではトップクラスだ。
その四人で対峙しているというのに、まるで子供の様にあしらわれている。
魔法が飛ぶと同時に剣先が迫る。
なのに別の場所から風刃が襲う。
アンシアちゃんをかばいながらだと、どうして対処が遅くなる。
むき出しの顔に熱風があたる。
火傷かと思うとそれがすぐに癒される。
アルが治癒魔法を飛ばしてくれたんだろう。
いっぱいいっぱいの私と違ってアルは冷静だ。
「ギルマスの魔法は
「承知 ! 」
「はい ! 」
衆人観衆の中なので、お嬢様言葉を使わなくてはならないのがめんどくさい。
ギルマスの攻撃は続く。
容赦ない。
だけど、これは最大ではない。
アンシアちゃんに魔法を使わせるために、ある程度の余力を残してある。
訓練と言いながらしっかり指導も入っている。
「これが無量大数の力・・・」
エイヴァン兄様が悔しそうに呟くのが聞こえた。
落ち着け、私。
どうにかしてギルマスの攻撃を減らさないと。
剣は無理だ。
止めるとしたら魔法なんだけれど、止める方法がわからない。
詠唱魔法ならギルマスのやっているように途中で邪魔をすればいい。
じゃなければ口にパンでも突っ込めばしばらくは詠唱ができないはずだ。
では、無詠唱魔法の止め方は ?
自分がどうやって魔法を使っているか思い出す。
・・・思い出せない。
だって、使いたい魔法を思い浮かべてそこに魔力を投入するだけなんだもん。
「何を考えているのかな。魔力がバラバラになっているよ」
しまった。
一瞬ギルマスの魔法から注意がそれてしまった。
ツララのような氷があちこちから襲い掛かる。
それを炎の
戦いながら、魔法を使いながら、ギルマス対策を考えながら。
一度に三つのことなんて難しい !
ゲームやラノベとかのスキル、並列思考が欲しい。
なんて以前愚痴ってたら、皇后陛下とお母様に笑われたっけ。
『並列思考って一度に二つか三つのことをするだけでしょ ?
なら主婦と母親になれば極められるわよ。
朝ごはん作りながら夕食やら買い出しやら家の補修や服の買い足し、思い出したら一度に七つか八つくらいのことは考えて手を動かしてたわ。
専業主婦ならこれくらいで済むけれど、兼業の人はお仕事のことも考えなきゃいけないからさらに大変。
でもこれ、主婦なら普通にみんなやってるから。
割と簡単よ』
でも殿方には難しいかもねと朗らかに笑った皇后陛下、素晴らしいお考えです。
言われてみればほぼ一人暮らしのときは、私も同じようなことをしていたと思いだす。
ならば今やることはたった三つ。
剣をかわす。
魔法を防ぐ。
対処法を考える。
「残念、アンシア。少し間に合わなかったね」
もう少しで完成する詠唱を、ギルマスの剣圧が邪魔をする。
アンシアちゃんが悔しそうに場所移動して詠唱を再開する。
ギルマスの魔法がまた放たれる。
魔力はどこからくるのだろう。
思い出せ。
確かブワァって感じで沸き上がってきた。
どこから ?
全身じゃなかった。
足元・・・でもなかった。
王立魔法学園のテキストには『体を巡る魔力を感じる』のが修行の第一歩だと書かれていた。
巡るのならどこかに一度戻る必要があるわけで、多分そこが魔力の源なんだろう。
ではどこ ?
ギルマスはどこから魔力を放出させてるの ?
「アンシアちゃん、がんばって! 必ず隙を作るから ! 信じて待ってて ! 」
ギルマスがバンバンと魔法を放つから、上手くタイミングが合わない。
落ち着け。
焦るな。
頭を冷やせ。
しっかりとギルマスの魔法を見極めろ。
「良い目になったね。もう少しいけるかな ? 」
ギルマスが使うのはホーミング魔法だけのはずがない。
必ず大きな魔法を使うはずだ。
その瞬間を待つ。
その後アンシアちゃんの詠唱時間が少しずつ長くなってきた。
私たちがギルマスの攻撃をかわすのに慣れてきたのだ。
と、その魔力が先ほどまでのものと明らかに違う膨れ上がり方をした。
「見えた ! そこっ ! 」
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