第301話 神獣も走るよ、走る
「見えたっ ! そこっ ! 」
「見えたって、何が」
兄様たちが何言ってんだコイツって顔をしている。
ギルマスは怪訝な目でこっちを見ているけど、アルはまた素敵なことを思いついたんだねって感じで微笑んでくれている。
うん、アル、私いいこと考えた。
「アンシアちゃん、待たせてごめんなさい ! 」
魔力の壺というか溜めている場所。
私、知ってる。
丹田だ。
臓器ではないけれど、気を練る場所。
あそこが魔力の源。
あそこを押えればギルマスの魔法は止まる。
あ、でもそれだとバレバレになっちゃうから、今使ってる魔力の半分。
いや、三割くらいかな。
気が付かれないようにするには二割程度にしておくのがいいかも。
ごめんなさい、ギルマス。
これもアンシアちゃんのためだから許してください。
私はギルマスの丹田から出る魔力を二割ほど抑える。
これで少しはゆとりができるはずだ。
「よし、いけた ! 」
「だから、何が ! 」
「ナイショ ! 」
スタンドの縁に立って、ギルマスの攻撃に備える。
さっきは氷だった。
次は炎か風のはず。
雷系は見たことはないけれど使えるんじゃないかな。
ギルマスの魔力は二割減にしてある。
どれくらい力を削ぐことが出来ただろうか。
今か今かと待っていたら、ギルマスは途中で魔法の構築を止めてしまった。
「・・・何か面白いことをしたみたいだね」
あれ、早々にばれた ?
「どんな新しい魔法を使ったのかな」
えー、ワタクシナニモシテマセンワヨ。
ピーピーピー。
「今のはもしかして口笛・・・のつもりかな ? 」
「ああ、貴族のご令嬢は口笛なんて吹かないもんな」
うん、夜に笛とか口笛とか吹くと海が荒れるって、船乗りの娘なら覚えておけって言われてるの。
でもほら、こう吹いてみたいときってあるでしょ ?
だからエア口笛してみましたよ。
振り返って今お話ししてた皆さんにニッコリ笑ってみせると、なんか下向いたり顔押えたりしてるけど、なんだろう。
「君は本当に規格外だね。なら、もう少し頑張ってもらおうかな」
あれ、ギルマスの魔力がさっまでよりさらに大きくなった気がする。
「気のせいじゃありません ! 一体何をされたんですか ?! 」
しまったあっ ! ギルマスが本気のちょっと手前を出したっ !
『ごめんなさい、みんな。ギルマスの魔力の出力を二割減にしたんですけど、まだ全力じゃなかったみたいで、やる気スイッチがはいっちゃったらしいです』
『今までのが本気じゃなかったって ?! ルー、藪をつついて蛇を出しちまったのか ! 』
『このっ、余計なことをしやがって ! 』
念話で兄様たちから怒られる。
そんなこと言ったって、まだ余力があると知ってたら、二割じゃなくて五割減にしてたもん。
「じゃあ、去年の続きをしようか」
微笑むギルマスの前に現れたのは、屋敷の避難所で子供たちの相手をしてるはずの白い子竜。
ただしネコくらいの大きさのはずが五メートルほどに膨らんでいる。
『・・・
『ちがっ ! 呼び出されたのだっ ! 先に呼んでくれればそちらの味方だったのに ! 』
『いいわよ。それならこっちだって呼んじゃうから。北、カモーンっ ! 』
ギルマスが巨大な
『呼んだか、娘』
『うん。ちょっと
『ほほう、西の小童か』
ちらっと白竜を見た北は、ブルっと体を震わせるとポンっといつもの大きさに戻る。
『あんな小僧、いつもの身体で十分だ』
『ちょっと待ってよ ! 北のじっちゃん出してくるなんて反則だっ ! 』
え ?
だって
だから北、一択。
「会場の皆さんにお知らせいたします。ただいまルチア姫に召喚されましたのは、先日亡くなりましたピンクウサギのモモの弟分。名前は
会場にアナウンスが流れる。
あ、これ流してるの私です。
殺されてしまったと認識されているモモちゃんとリンリン。
その体と魂を引き受けた北と南を別の個体だと認識させるのに丁度いい。
『娘、これが終わったら名前を呼んでくれるか』
『うーん、まあ、勝ったらいいかな』
この間アルにそろそろ許してあげてもいいんじゃないって言われたし。
いつまでも拗らせていても良いことはないしって自分でも思ってる。
ただ、北と南って呼びやすいのよね。
『ちょっと待ってよ、じっちゃん ! じっちゃんに勝てるわけないじゃないっ ! 』
『安心せい。魔法は使わん。腕だけで勝負してやろう』
『ますます勝てる気がしないっ ! 』
怯える
ギルマスは間一髪で避ける。
北が先制攻撃で顎に一発蹴りを入れた。
『我らが本気を出せばこの大陸が沈む。手加減はする。覚悟せい』
『むりっ、無理っ、ムリいぃぃっ ! 』
物騒な会話は私たちにしか聞こえない。
観客の皆さんには「ギャアギャア」とか「キュイキュイ」と聞こえているはずだ。
『ごめん、英雄 ! 死にたくないから逃げる ! 』
『敵前逃亡とは軟弱者め。躾け直してやる。そこを動くな』
『お前に勝てば娘に名前を呼んでもらえるのだ。大人しく倒させろ』
『いやだぁっ ! 』
二柱は訓練場中をすごいスピードで追いかけっこする。
あちこち飛んだり跳ねたりしながらのチェイスなのに客席がパニックにならないのは、さすが帝国騎士団員の皆さんというところだろう。
このままではらちが明かないとみたアルが、サッと観覧席を駆け上がると正面扉をあけてやる。
『小僧、感謝するっ ! 』
『逃がすかっ ! 往生際が悪いぞ ! 』
アルは二人が外に出たのを確認して、扉を閉めると優雅にフィールドに飛び降りた。
そして私の耳元で「帰ってきたら名前で呼んであげてね」と囁いた。
まあ、アルのお願いならきかなきゃね。
魔法師団のお姉さま方から黄色い声があがったけれど、うん、アルや兄様がカッコいいからだよね。
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