第298話 必要は発明の母・・・だよね ?

なんと、三百話目です。

よく続きました。

お読みいただきありがとうございます。

もうちょっとがんばります。


===========================


「ほう、良く避けたね」


 剣圧だけで訓練場にクレーターを作ったギルマスが、優しい笑顔で近づいてくる。

 私は土魔法で直径五メートルの穴をフラットに戻す。


「魔法の扱いも上手くなった。さすが四方よもの王と言ったところかな」

「・・・恐れ入ります」


 観覧席では魔法師団の皆さんが強張った顔で手をギュッと握っているのが見える。

 アンシアちゃんはまだディードリッヒ兄様に担がれている。

 まだ頭がはっきりしていないようだ。


「アンシア、魔法を使いなさい。みんなもちゃんとフォローしなきゃダメだよ」

「・・・」


 穏やかな声だけど、あれは本気を出していない。

 まだまだトレーニング・モードだ。

 と、ギルマスの周りに百近くの火球が現れた。


「じゃ、そろそろ行こうか」

「クッ ! 」


 高い音がしてディードリッヒ兄様が観覧席の縁に飛ぶ。

 アンシアちゃんを右手で抱えて、左手の小太刀でギルマスの剣を防いだんだ。

 そのままアンシアちゃんを下ろして剣を構えなおす。

 その間に私たちを火球が襲う。

 それは次から次へと補充され、訓練場がギルマスの魔法で包まれていく。

 これ、去年やられたあれだ。

 魔法じゃないと打ち消せない奴。

 そして一気に消さないといつまでも増え続けるって。

 あー、あの悪夢がよみがえる。

 そうだ

 あの時はおばあさんのクッキー食べ損ねたんだよね。

 私があんまり機嫌をなおさないから、なんとバルドリック様が直々におばあさんのお孫さんのところへ行き、レシピをならってご自分で作って持ってきてくれた。

 

「あの時と同じ味にはならないと思いますが・・・」


 ショボンとしたその姿に、私はもう許すしかなかった。

 そして、あの時から、アンシアちゃんのバルドリック様への態度が少しずつ和らいでいったんだっけ。

 なんて、甘酸っぱい思い出はおいといて。

 ギルマスの魔法テクニックは半端ない。

 四方よもの王になってから、私も日々魔法量の増加を感じている。

 もう今なら何でもできそうなくらい。

 これは絶対増長すると思ったから、しばらく大きな魔法を使わないことにしていた。

 この間の水球 ?  あれはちょっと水を出したくらいで、大したことはしていない。

 それよりあの火球対策だ。

 前回は水で消したけど、今日のは数が多すぎる。

 全員でやればなくとかなりそうだけど、兄様たちはアンシアちゃんの詠唱時間をかせぐのに精いっぱいだ。

 そうじゃなくて、一度に水をたくさん出す方法。

 雨でも良いけどその後の整地とか乾燥に手間がかかる。

 もっと効率的に消す方法。


「足元が疎かになっているよ」


 ギルマスの剣が私の足を薙ぎ払う。

 それをバク転で躱す。

 上段からの振り下ろしに風の圧で応える。

 観客席近くで戦っていたので、最前列の人たちが時々小さな悲鳴を上げる。

 主に魔法師団の皆さんだ。

 そして等間隔に配された観戦武官の皆さん。

 あ、観戦武官というのは、戦争する双方の国から許可を取って、その戦いの記録を取る人だ。

 ただ現代では一人で戦いの全容を掴めないくらい大掛かりになっているので、いつの間にか消えてしまったとあちら現実世界の両親から聞いている。

 こちら夢の世界ではまだ有効らしい。

 もっともヴァルル帝国は派遣する側で、他国から送られてくることはない。

『専守防衛』を掲げていることもあるが、一番の理由は金持ち喧嘩せず。

 多少の挑発なんて気にしない。

 十数年前には国境に騎士団が集結する事態もあったらしいが、こちらもあっけなく収束したそうだ。

 ところで、前回の訓練では一名だったけれど、とても記録しきれないと言われて、今回は騎士団と魔法師団から十数名が選ばれている。

 

「早すぎる ! 一体どんな動きなんだ ! 」

「詠唱、お願い、詠唱してっ ! なんの魔法を使ってるのかわからないっ ! 」


 ・・・ごめんなさい。

 でもちょっとだけ本気のギルマス相手に、周囲に気を使ってられる状況じゃないんです。

 と、観戦武官さんの前に記録用の紙が積んであるのが目に入った。

 それを咄嗟に掴んで、風の魔法で切り刻む。

 息を吹きかけて皆さんの為に叫んであげる。


式神しき ! 」


 千切れた紙は水を纏ったヒヨコになる。


「行ってっ ! 」

「ピヨーッ ! 」


 ヒヨコが一斉に火球に向かって飛んでいく。

 ニワトリは飛べないけど、魔法のヒヨコだから良いんだ。

 訓練場一杯に乱舞していた火球は、ピヨコ隊によってあっという間に消滅した。


「ふふ、考えたね。ではこれでどうだい」


 ギルマスの手がフワッと動く。

 今度は粘土玉だ。

 でも大丈夫。

 これも前回経験済みだ。

 

「頂きます !」


 観戦武官さんの紙をまた掴んで千切る。


「行くピヨーッ ! 」


 炎のヒヨコが粘土を素焼きにする。

 

「おかわり ! 」

「どうぞっ ! 」


 伸ばした手にドンっと紙の束が渡される。

 水の龍が襲い掛かってくるが、土の気を纏った巨大ヒヨコが丸呑みする。

 ケプッとを出して満足そうに消えていくそれを、場内は暖かい拍手で見送った。

 あの、パフォーマンスじゃありませんから。


「・・・東雲しののめが好きなんだね」

「はいっ、大好きです ! 」

『僕も好きだよー』


 観覧席に置かれた止まり木の東雲しののめがバサッと翼を広げてアピールする。

 咄嗟に頭に浮かんだのは、アルと一緒にテレビで見たあの映画。

 主演はややこしやの人だ。

 カッコよかったんでマネしてみました。

 その時あきれ返っているギルマスに向かって炎の矢が飛んでいった。

 それをギルマスは軽く切って落とす。


「随分とかかったね、アンシア。それでは戦場では間に合わない。もう少し早く発動させなさい。仲間はいつまでも君を守っていられるわけじゃない」


 ふたたびギルマスが、今度はアンシアちゃんの詠唱を邪魔するように攻撃を仕掛ける。

 兄様たちやアルが防いでいるけれど、ギリギリのところに飛んでくる魔法や剣に、アンシアちゃんの詠唱が止まり発動できない。

 詠唱ははっきりくっきり聞こえるように言わないと発動しない。

 今より早く唱えることができれば。

 私に出来ることはないだろうか。

 ギルマスからアンシアちゃんを守ることではなく、もっと別なこと。 

 私の頭の中に、日常で使われるあれが浮かんだ。


「カジマヤー君、五秒だけ守って」

「承知しました ! 」


 イメージを固める。

 素早く詠唱できるように。

 私の手には四角い機器。

 そのスイッチをポチっと押す。

 お椀を持つように上に向けた手の平の中に、ポワッと光が集まる。

 私はそれをアンシアちゃんに向けて放った。


「 ! 」


 アンシアちゃんの身体を一瞬柔らかい光が包んで消えた。


「アンシアちゃん、魔法、使って ! 」

「お嬢様 ?! 」

「なんでもいいから、早く ! 」


 効いているはずだ。

 必ず出来る。

 アンシアちゃんの口が開いた。


「みんな、避けてっ ! 」


 私の合図で兄様たちが端に避けるのと、ギルマスが爆炎に包まれるのと、どちらも同時に起こった。


「あたしの詠唱・・・発動しちゃった ? 」


 呆然とするアンシアちゃん。

 私は満足で一杯だ。

 これでアンシアちゃんは問題なく魔法が使えるようになったのだから。


「お嬢様、そのドヤ顔は・・・」

「新しい魔法を構築したんだね ? 」


 やっと収まった煙の中から、のギルマスが現れた。


「物の数秒で新魔法を考え付くとは。アンシアが詠唱魔法の天才なら、君は無詠唱魔法の鬼才といったところかな」

「ありがとうございます ! 」

「褒めてあげたいのは山々なんだけどね」


 あれ ? ギルマス変な顔してる ?


「因みになんという魔法なのか、教えてくれるかい ? 」

「はいっ ! 『魔法詠唱十倍速・二十四時間戦えます』です ! 」


 場内がシーンと静まり返った。

 なんで ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る