第241話 ギルド総会とお披露目の儀 再び

 王都についた翌日は、ヴァルル帝国冒険者ギルド総会だ。

 全員で会場である公会堂に向かう。

 その前にグランドギルドに寄ってレベルチェックだ。

 全員ペンダントを渡して見てもらう。


「エイヴァンさん、ディードリッヒさんは『数字持ち』への挑戦権を得ました。アロイスさんは『こう』に昇進です。アンシアさんは『へい』、資格が出来ましてルーさんも『こう』に飛び級になります」

「おおおおっ ! 」


 ホールにいた他の冒険者から驚愕の声が上がる。


「数字持ちって何年、いや何十年ぶりだよ」

「最後のが『無量大数』だろ。『ルーと愉快な仲間たち』、半端ねえな」

「アンシアも仲間だったのか。強いはずだぜ」


 称賛と祝福を浴びているところに、グランドギルマスが職員の皆さんと一緒にやってきた。


「ひさしぶりだな。『ルーと愉快な仲間たち』」


 もう訂正する元気もないので薄ら笑いで挨拶をする。


「ついに数字持ちの誕生か。さすがマルウィン殿に育てられただけはある。恒河沙こうがしゃを獲得するのを楽しみにしているぞ。残りの三人も数字持ちを目指してくれ。決して無理な目標ではないからな」


 グランドギルマスに付き従って公会堂に向かう。

 あちらではギルマスが待っていてくれるはずだ。

 この二年、新人王はヒルデブランドから出ている。

 そして今年の新人王はアンシアちゃんだ。

 祠についての調査、南での活動が評価された結果だ。

 迷子になったあげく山賊の根城に行きついたり、迷子になったあげく遭難した商人を見つけ出したりと、とても依頼達成に貢献したしね。

 剣術武闘會での活躍も偶然ではなく実力であると認められている。

 知らない間にアンシアちゃんは、冒険者としてかなり有名になっていた。


「やあ、ルー。元気そうで安心したよ」


 公会堂についたらギルマスが待っていてくれた。


「お久しぶりです、ギルマス。お会いできて嬉しいです。この冬はお世話になって」

「私で役に立てたならいいんだよ。アルも少しは楽になったかな」


 今年もギルマスはついて来てくれた。

 私が戻る前日にみんなと合流して、私の馬車を渡してくれた。

 その後は去年と同じように城下町の小さな家に移動している。


「はい、こちらではなんとか動けます。あちら現実世界ではまだまだですけれど」

「落ち着いたらしばらくは毎日訓練だね。その体に合わせた動きを身に着けよう」


 以前とは体の大きさも手足の長さも違う。

 元のようには動けない。

 そこまで考えてくれるギルマスはやっぱりすごいと思う。


「ヒルデブランドのギルドは大丈夫なんですか ? 」

「ああ、今年もギルマス候補の研修が入ってね」


 他のギルドと違い、とんでもないことが起きないヒルデブランドは研修には最適だそうだ。

 この季節もご一緒できる。

 安心感しかない。


「ルーの時のような騒ぎは今までなかったからね。基本静かに穏やかに過ごせる街なんだよ、あそこは」

「そんな、私がいたから問題が起きたみたいな言いかたは止めてください、ギルマス」

「・・・お前がいたからにきまってるだろう、ルー」


 エイヴァン兄様のツッコを誰も否定してくれない。

 ひどい。


 去年のような騒ぎも起こらず、キャンセルもなく行われた懇親会。

 南の街のギルマスたちからの称賛と感謝の中、私たち『ルーと素敵な仲間たち (仮)) 』の名声は上がる一方だ。

 ちなみに去年降格された優秀新人たちの八割は冒険者を止めたそうだ。

 やはり信用と言う点で依頼を受けさせてもらえなかったと言う。

 特に女性からの。

 仕方ないよね。

 逆に騒ぎに加わらなかった人と反省した人。

 こちらはかなりいい線にいっているという。 

 あれから一年。

 反省した人たちは年明けでペナルティが消えてやっとていに上がっている。

 ここからがんばってもらいたいものだ。

 それ以外の人の冒険者クラスがへいの人が一番上ということは、私たちがどれだけおかしいかを示している。

 まあ、出会った事例が異常ではあるのだけれど。


「アンシア、新人王おめでとう」

「あ、ギルマス」


 シジル地区のギルマスが声をかけてきた。

 正式な冒険者ギルド支部になったので、総会にも参加を要請されていると連絡はあった。


「落ち着かないね、やはり。こういう晴れやかな場所は苦手だよ。小さな地区でしか活動してこなかったつけかな」

「それを言ったら私だって田舎の街のギルマスにすぎない。年に一度の事と割り切ってしまうのが一番だよ」

「何をおっしゃるのです」


 後ろから割り込んできたのはグランドギルドマスターだ。


「一度はグランドギルマスを務めた方が一介のギルマスなどと。あなたがそうなら、ここにはまともなギルマスは一人もおりませんよ、マルウィン様」

「クレメンス君、君ねえ」

「私にこんな仕事を押し付けて。今年は案内人なんてしてないで、しっかり手伝っていただきますよ。私だって早く引退したいんです」


 グランドギルマス、絡み酒。

 シジル地区のギルマスさんは総会では相手にもされずにいたのだが、この懇親会の後、なぜかあたりがやわらかくなったと言っている。

 グランドギルマスはもちろん、伝説の無量大数むりょうたいすうの英雄マルウィンとも顔なじみ。

 スラムと言われ恐れられていたシジル地区を取りまとめていたのだから、それなりの実力があるに違いないと思われたらしい。

 そう言えば緊急指名依頼を受け取った。

 あれ、これ受けられるかな。



 今年もこの季節がやって来た。

 新成人貴族令嬢のお披露目の儀だ。

 昨年の騒ぎで寄り親から外された家が多く、本来であれば寄り親筋からの紹介のはずがそれがない。

 階級に関係なくまとめての紹介になる。

 よって名前も家名も読み上げられることもなく、黙ってカーテシーをして移動するだけだ。

 ほとんどが元ダルヴィマール家寄子と公爵夫人派と言われた娘を持つ家の出だ。

今年の成人令嬢に罪はないが、なあなあで済ませられることではない。

 貴族であるということは、守らなければならないものもそれなりにあるということだ。

 それを破ってしまった親や姉たちを恨むしかないのだ。

 もちろんこの後の芸披露の儀にも出ることはできない。


「イルマルク辺境伯の娘、テオドシアにございます。成人にあたり皇帝、皇后両陛下にご挨拶申し上げます」


 今年の筆頭成人令嬢が皇帝への挨拶を終え、成人令嬢の列に加わろうとしたとき、突然どこからか幅広い布が飛んできて令嬢を拘束した。


「な、何奴っ ! 」


 何故か大広間の灯が落ち、一画がボオッと明るくなる。


「ごきげんよう、皆様。復讐の場へようこそ」


 黒いローブのフードを目深にかぶった数名がそこにいた。


「過ぐる夏、よくもわたくしの大切な秘密結社『夜の女王のアリア』を壊滅に追い込んでくれました」

「おまえたちは、あのつ !」


 近衛騎士の何人かが、腰の剣に手を当てて走り寄ろうとするが、何かに阻まれるように止まってしまう。


「こ、これはっ ! 」

「魔法かっ ! 」


 ホホホと鈴を転がすような笑い声が響く。


「子飼いの者も連れ去られ、わたくしの手元に残ったのはこの四人だけ。そろそろ新しい子が欲しいと思っていたところ」

「ま、まさか ! 」

「やはり気高い魂を持つ者こそわたくしに相応しい。手始めにこの娘をいただくといたしましょう」


 グルグル巻きにされた辺境伯令嬢がグイっと引き上げられる。


「待て、そのご令嬢をどうするつもりだ ! 」

「ホホホ、拉致、監禁、洗脳は秘密結社の三点セット。明日の朝にはこの者もわたくしの信奉者になっていることでしょう」


 入口がバタバタと騒がしい。

 王宮侍従に導かれて飛び込んできたのは、そばかすだらけの垢ぬけない侍女だった。


「お嬢様、お嬢様が危ない目にあっていると・・・お嬢様 ! 」

「おや、なにやら迷い猫がおりますわね」


 主に駆け寄った侍女はビクッと体を震わせる。


「ちょうどいい。この娘の世話役についておいで。二人でわたくしに末永く仕えるのですよ」

「そんな、ダメよ。逃げて、ハンナ。私は大丈夫。こんな脅しには屈しないわ」

「いやです、お嬢様。お嬢様を置いてどこへ行けばいいんですか。お嬢様のお傍があたしの場所です。どこまでもついてまいります ! 」


 真っ暗だった大謁見の間がパッと明るくなる。

 と同時に、盛大な拍手と称賛の声が上がった。


「いや、見事。素晴らしい主従の絆を見せてもらった」


 ハトが豆鉄砲を食らったように顔をしている令嬢と侍女に、皇帝は立ち上がって拍手を送る。


「これが最後の試練である。今年も良き主、良き召使の姿を目にすることが出来た。みな、この二人に今一度の拍手を ! 」


 黒フードの一味がご令嬢を拘束していた布を取り立たせる。

 そして居並ぶ成人令嬢の列に加わらせる。


「して、今年の悪役は誰か ? 苦しゅうない面をあげよ」


 全身を隠し跪いていた一行が立ち上がり、そのローブを脱いだ。

 

「ル、ルチア姫 ?! 」   

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