第227話 お祭は始まらない

 新しい四方よもの王。

 この大陸の東西南北と絆する存在。


「そんな人、どこにいるのかしら」

「どこで探せばいいんだ。いや、そもそも東西南北がわからないぞ」

「何を言っているのだね。目の前にいるじゃないか」


 ザワザワと相談を始めた私たちに、ギルマスがテーブルの上を指し示す。


「言ったろう、この二人はこの大陸の東と西だと」



 しーちゃんをつまんで水滴の十字の東に置く、

 桑楡そうゆがトコトコと西側に座る。


「すでに西と東と絆している人物がいる。残りは北と南だ」


 すごい。

 そんな人がいるんだ。

 ならその人に協力して、早く新しい四方よもの王様になってもらわないと。


「そうか、そういうことだな。英雄マルウィン」

「おやめください、その呼び方は。今の私はただの地方冒険者ギルドのギルマスです」

「ふっふっ、止めないよ。君には恨みがあるからな」


 絵本の件がまだ続いているらしい。


「しかたありませんね。まあ、陛下のお考えで正しいと思いますよ」

「あ、わかりました、ギルマス。そうだよね、アンシア」

「うん、あたしもわかった、アル」


 なんかお母様や皇后陛下、シジル地区のギルマスまでわかったらしい。

 なにが ?


「みんな、何がわかったんですか ? 私、全然わからないんですけど」

「「「はあぁぁぁっ ??!! 」」」


 兄様たちが額に手を当てて顔を背ける。

 皇后陛下とお母様が扇子の陰でなにか言ってる。

 アルとアンシアちゃんがポンポンと肩を叩いてくる。

 ねえ、なんでみんなして私のことを可哀そうな子みたいに見るの ?


「ルー、君にとってしーちゃんはどういう存在かい ? 」

「お友達です。ひとりぼっちのアルを気遣ってくれた優しい子です」


 しーちゃんではないっとしーちゃんが文句を言っている。

 それを無視してギルマスが続ける。


「それでは桑楡そうゆは ? 」

「アルを助けてくれた恩人です。やっぱり大切なお友達です」

「ほら、そういうことだよ」


 みんながうんうんと納得している。

 私だけが意味が分からずにいる。


「あの、ギルマス。なにがそういうことなんですか。もっとハッキリわかりやすく言って下さい」

「ルー、ここまで言ってわからないかい。西と東と絆した人物。それは君だよ」


 ?

 ?

 ?!

 ええぇぇぇぇぇっ ?!!!


「わた、私ですかっ ?! なんで私なんですかっ ?! ていうか、なんでそれを私が知らないんですかっ ?! 」

「と言われても、本人たちに聞いてみるかい ? 」


 ねえ、とギルマスがしーちゃんたちに言う。


『面白いからよ』

『慌てる姿が見たくてな』


 いやいや。

 しーちゃんはやたらエイヴァン兄様に懐いていたじゃないですか。


おのこは好かん』


 なんじゃそりゃ。


「まあ、その理由で私は絆してもらえなかったんだけれどね」

『お主がおなごであればしていたかもな、しかしそれは結果論にすぎん』


 それは結果論ではなくて、経過論でしょう。

 そもそも最初から男の人と絆したくないんだから、ナントカ論関係ないし。

 大体どうやっていつ絆したんですか。


『ではここにいる全員に聞くが、友人になるとき契約書を書くか ? 』 

『友としてこれはしない。これはするなどと決めてから友人になるか ? 』

『喧嘩別れを契約破棄と言うか ? 』


 そんなバカげた話、確かに聞いたことないけれど。

 第一、友達契約なんて友達って言わないよね。


『マルウィンに勧められたのは確かだが、我はずっとお主を見ていたからな。はっきり言ってやる事成すこと面白い』

『こんなに楽しませてくれる人間は、マルウィン以来ぞ』

『とにかくお主といると、飽きの来ない人生が見えそうだ』

「ギルマスぅ、なんか私、お笑い芸人扱いされてるんですけど」

「あはは、そんな訳あるかもしれないね」 


 ギルマスが楽しそうに笑う。


『つまり、絆とはしようと思って出来ることではないということだ』

『我らが望んでも出来ないこともある。だからこそ特別で大切なものなのだ』

「あ、私と桑楡そうゆの絆は切れていないよ。友達には定数はないからね」


 桑楡そうゆがゴロゴロと喉を鳴らして私の手に顔を擦り付ける。

 しーちゃんは男の人は嫌いと言いながら、エイヴァン兄様の肩に乗る。

 なんだか化かされているような気がしないでもないが、何とかなりそうな様子だ。


「では、ギルマス。祠の件、グランドギルドにも応援をお願いしてもいいですか」


 ほのぼのした雰囲気を壊すように、アンシアちゃんが仕切り直す。


「祠の近くには大型の魔物は近寄れないみたいですし、新人でも街専まちせんでも問題ないのでしょう ? なら人海戦術でとっとと修復しちゃいましょうよ」

「いや、それは皇帝である俺が指示するべきで・・・」

「お姉さまはがんばって早く北と南を落としちゃってくださいね。はい、話はおしまいっ ! 」


 パンっと手を叩くとアンシアちゃんは私の手を取って立たせる。


「あの、ね。アンシアちゃん ? 」

「あそこのクレープ、人気なんですよ。毎年午前中で売り切れちゃうんです ! 」


 アンシアちゃん、あなた、どれだけお祭に行きたいの ?

 アンシアちゃんを見習メイド姿に戻し、私も軽く身なりを整える。


「早くいきましょ・・・」


 元気よく扉をあけたアンシアちゃんだけど、その言葉は尻つぼみになり、一度開けた扉を静かに閉める。


「あの、ギルドのホールにお年寄りが集結しているんですけど」

 


「マルウィン様、お会いしたかった」

「もう一度お目にかかれるなんて」

「もう思い残すことはありません」


 シジル地区のお年寄りが、ギルマスを囲んでいる。

 拝んでいる人もいる。


「ルチア姫、マルウィン殿は冒険者現役の時に、何度もここに来て改善計画を引っ張ってくださっんですよ。古い建物を撤去し、街並みを整え、養鶏場を作り、合議制を教えて下さった。彼らはともに街の為に働いた者たちです」


 シジル地区のギルマスが教えてくれる。

 どう見てもギルマスより三十は年上に見えるおじいさんとおばあさんたちが、子供の様にギルマスの周りで涙を流している。

 ベナンダンティの外見は本人の本質を現しているというけれど、ギルマスの若々しさは一体なんだろう。

 どんな心持であの外見でいられるのか。

 以前、私の外見は私その物だとご老公様が言った。

 もし私が悪い考えを持ってしまったら、この姿は変わってしまうのだろうか。


「お姉さま、行きましょう」


 アンシアちゃんが私の手を引っ張る。

 玄関扉の前ではお父様たちが待っている。

 後ろには兄様たちとアルが控えている。

 私たちはシジル地区のお祭に加わることにした。

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