第147話  出会っちゃったよ、ごめん

 あたしは今日もシジル地区で冒険者見習をやっている。

 お姉さまたちは王都のグランドギルドで活動を始めるそうだ。

 いいなあ。

 あたしも一緒に行きたかったけど、あのエロ爺親子のせいで有名人になってしまっている。

 それにまともな冒険者になってるって、シジル地区のギルドに知られるわけにはいかないのだ。

 

「ここも壊されている。一体どうしたんだ」


 シジル地区の冒険者ギルドでは、急ピッチで祠の修復が行われている。

 直しても直しても気が付くと壊されているのだ。

 きれいさっぱり更地になっているところもあるという。

 そうするとその場所に新しく祠を立てて、その辺の石をお祀りする。

 高価な清酒がどんどん使われている。

 お酒はギルドから配布されるが、こんなにバンバン使っても大丈夫なんだろうか。


「こうなると誰かが組織的に命じているとしか思えないな」

「でも、こんなことして何になるの ? わざわざ壊すなんて、理由がわからないわ」


 ミルズさんとアノーラさんが悔しそうに言う。

 本来は自分たちにあった依頼を選んで受けるのだが、今はギルドで割り振って出来る限り祠の修復に当たる様になっている。

 建具屋さんはその場で組み立てられる祠をたくさん作って、それをいくつか持って祠を回る。

 冒険者たちは大忙しだ。

 

「この丘の上のはこの間修理しましたよね」


 あたしは今日初めてもらった祠の配置地図を見ながら聞いた。

 祠、結構な数ある。

 王都の外をぐるりと取り囲むように、百以上もあった。

 これだけあれば、確かに全員で一致協力して回るしかないだろう。

 なのにその隙をついて壊しまくるって、本当に誰がやっているんだろう。


「そういえば、お嬢様の家庭教師の先生がびっくりしていましたよ」

「あら、なんで ?」

「王都の外に祠があるなんて知らなかったって。宗教学と民間信仰の大発見だっておっしゃって、王宮の図書館に閉じこもっちゃって、お嬢様のお勉強がすすまないってお方様が嘆いていらっしゃいました」

「「アンシアっ ?! 」」


『白い狼』の三人がギョッとして叫ぶ。


「まさか、冒険者ギルドの話はしてないわよね ?!」

「してないですよ。ギルマスからも止められているし。なんでダメなのか知りませんけど」

「それで、どうして祠の話なんかしたんだ」


 ラムジーさんが引きつった顔で聞いてくる。


「あの、お嬢様の生まれたお国にもドウソジンっていう祠があるんだそうです。お花をささげたりお掃除したりして手を合わせるんだって聞いて、シジル地区でも似たような風習があるってお話したんです。あの、ダメでしたか ?」


 先輩たちが真っ青になっている。

 やっぱりバレたらヤバイって知ってるんだ。


「お嬢様はご自分の故郷と同じような風習があるって、とても喜んでいらっしゃいました。お小さい時からお出かけなさるとき、必ず手を合わせてらっしゃったんですって。とても懐かしそうに・・・いえ、お寂しそうでした」

「・・・そうか」


 ミルズさんがあぁと、お姉さまの生い立ちを思い出したのか少し表情を和らげる。


「不思議なものね。海を隔てて全然違う国で、同じようなことをしているなんてね」

「アンシア、今回は良いけれど、あまりシジル地区の内情を外で話してくれるな。わかっていると思うが、この街は外とは色々違うんだ」


 シジル地区はこの街の中で全てが終わっている。

 王都の他の地区と関わることはない。

 あたしは王立魔法学園に通ったけど、それだってものすごく異例なことだった。

 冒険者ギルドにしろ祠の事にしろ、この街には何が隠されているんだろう。

 みんなで丘の上に向かう。

 この間壊されて修復した祠がある場所だ。

 

「あら、誰かいるわ」

「変だな。ここの担当は俺たちのはずだが」


 祠の前に数人が立っているのが見える。

 祠に近づくにつれその姿がはっきりとしてくる。

 

「アンシアちゃん ?」


 やばっ、お姉さまだ !



 丘の下から上がってきた人たちを見て、思わず名前を呼んでしまった。


「アンシア、知り合いか ?」

「え、ええっと、知り合いというか、その・・・」

「知り合いじゃあないが、彼女のことは知っている」


 エイヴァン兄様がずいと前に出る。


「昨日ヒルデブランドから来たエイヴァンだ。王都では今日からの活動になる。よろしく」

「ヒルデブランド・・・そうか。それでアンシアを知っていたのか」

「ヒルデブランドで彼女を知らない奴はいないぞ。有名人だからな。『迷子のアンシア』って」


 なんだそれって顔をしているのは男の人二人と女の人一人。

 アンシアちゃんと一緒ってことはシジル地区の冒険者さんかな。


「あのお、馴れ馴れしく呼んでごめんね。でもあなた、いつも街の中をグルグルしてたから、なんだか友達みたいな気がしちゃって。私、ルーよ。よろしくね」

疾風はやてのルーという。今年の新人王だ。俺はディードリッヒ、こっちはアルだ」


 初対面の顔をして自己紹介する私たち。


「アンシアです。あの、有名な冒険者パーティーですよね。『ルーと素敵な仲間たち ( 仮 ) 』って」

「地元じゃ負け知らずってだけだ。王都じゃ新人だな」


 執事姿の時と真逆の雰囲気で、エイヴァン兄様が手を差し出して握手する。


「ところでエイヴァンさんは何故ここへ ? ここは私たちの持ち場ですけれど」

「アンシアっ !」


 お姉さんはアンシアちゃんを後ろに引っ込める。

 何か知られたくないことがあるらしい。

 多分祠のことだ。


「え、持ち場ってなあに ? 私たち王都のことって良く知らなくて」

「それはですねえ、ほら、こういうところを順番に回ってですねえ」


 アンシアちゃんが大きな紙を広げてみせる。

 王都周辺の地図のようだ。


「アンシア、しまえ。他人に見せるものじゃない」


 アンシアちゃんは不思議そうな顔をして地図をしまう。

 だが、その前にしっかり写真魔法を使わせてもらった。

 止めるのが遅いよ、お兄さん。


「パーティーごとに特別な地図を作るのは常識だったな。ルー、謝るんだ」

「あの、ごめんなさい」

「いや、こっちも教えていなかったからな」


 私とアンシアちゃんは二人でしょぼくれ・・・てる振りをする。


「俺たちはこの辺りに六角大熊猫が出たという噂の確認にきた。もし本当なら被害が出る前に討伐隊を組まねばならん。そちらではそんな噂を聞いていないか ?」

「いや、だが、雪解けからこっち、中型以上の魔物が増えてはいる。しかし六角大熊猫を見たという話はきいていない」


 前にアンシアちゃんが言ってたのと同じだ。

 

「ルー、どうだ。魔物の気配はするか」


 えっと、探してこいってことかな ?

 ヒルデブランドでアンシアちゃんを探した時のように、周りの空気に集中する。


「おい、何をしているんだ」


 男の人が何か言ってる。


「こいつは魔物やらの探し物の魔法が使えるんだ。いま、この付近の魔物を探しているところだ」

「・・・そんな。詠唱無しで・・・そんなことができるの ?」

「ヒルデブランドの冒険者さんたちは、一々詠唱なんて使わないんです。生活魔法と同じくらい簡単に魔法を使うんです」


 アンシアちゃんがシジル地区の皆さんに説明してくれている。

 目を閉じて意識を遠くに広げていく。

 指が自然に一方を指し示する


「あっちから、何か来ます。光は三つ。小さいのが一つ。大きいのが二つ。凄く早い」

「三つ ? 何かわかるか・・・いや、わかったっ !」


 エイヴァン兄様の声に目を開けると・・・。


 巨大なパンダが何かに追われるかのようにこちらに爆走していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る