第146話 出会いと再会とグランドギルドの闇、かな ?

 各ギルドのローカルルールと王都のグランドギルドとの違い。

 ちゃんと覚えておかないと、後々トラブルになるんだそうだ。

 だから地方で新人登録した人たちは、受講することが義務付けられているんだって。

 でもヒルデブランドでのギルマスの徹底した指導のおかげか、違っている部分は全然なかった。

 しっかりメモを取っていたら、


「さすが、ヒルデブランド出は違う」


 と、褒められた。

 大抵の冒険者は右から左だそうだ。

 この辺りを口伝えではなくてテキストみたいにできないかな。

 各地方のローカルルールなんかも一緒に紹介して。

 案内人のお兄さんにそう言ったら


「その手があったか !」


 と、ブンブンと握手された。

 早速私の名前で具申書を出すそうだ。

 別にお兄さんの名前でもいいのにって思うけど


「そういう卑怯な真似はできません」


 と、断られた。

 真面目なんだね。


「やあ、お嬢ちゃん。新人さんだね ?」


 ホールに戻ると、いきなり先輩冒険者のお兄さんたちが話しかけてきた。


「女の子が一人で歩き回るのは感心しないなあ。危ない目にあったらどうするんだ」

「ご心配いただきありがとうございます。でもそこで仲間が待ってますから大丈夫です」


 ニッコリ笑って顔をあげると、アルと兄様たちが女の人たちに囲まれているのが見える。


「おまたせ、アル、兄様たち」


 先行していたモモちゃんがピョンと私の頭に登る。


「エイヴァンさん、エイヴァンさんじゃないですかっ !」


 おしゃべりしていたら、さっき声をかけてきたお兄さんが兄様に話しかけてきた。


「確かに俺はエイヴァンだが。お前は ?」

「ダヴィドです ! 6年前にエノス村で助けていただいた !」

「エノス・・・、おお、あの時の ! でかくなったなあ。全然わからなかったぞ」


 ダヴィドさんが兄様の手を取って頭を深く下げる。


「あの時・・・助けていただいて、村のみんなも元気になって、俺、エイヴァンさんみたいに人助けができる人間になりたくて、冒険者になりました」

「あの時は村全体が頑張ったんじゃないか。あの協力がなければ依頼は達成できなかった。俺の方こそ感謝している」


 昔、なんかあった人らしい。

 涙ぐんでいる。

 そうか、私の知らないエイヴァン兄様を知ってる人がいるんだね。

 私の物語が始まる前、兄様の物語はどう始まったんだろう。

 いつか話してくれるかな。


「ところでエイヴァンさん、こっちのお嬢さんとはどういったお知り合いで ?」

「ああ、俺の妹分だ」


 兄様が私の肩を抱いてお兄さんに向き合わせる。


「俺のパーティーの仲間で、今年の新人王だ。疾風はやてのルーという」

疾風はやての・・・。二代目 ?」

「おい、なんだ、その二代目っていうのは。ギルドに入ってからそればかりだ」


 この人も私の事を二代目と呼ぶ。

 

「二代目って、グランドギルマスが言い始めたのよ」


 真っ赤な唇のボンキュッボンのお姉さまがズィっと出てくる。


「久しぶりね、エイヴァン。見ない間に随分男振りが上がったじゃないの」

「おまえ、もしかしてエルカか。けばくなったな」


 兄様、余計な一言を。


「これは衣装 ! あたしたち、『ギルド・あるある隊』よ !」


 お姉さまが真っ赤になって怒鳴りつける。


『ギルド・あるある隊』。

 数年前から地方から来た若い子が、胡散臭いパーティーに搾取される事件が相次いでいるという。

 依頼金を異様に低く分配されたり、雑仕事を押し付けられたり、果ては他のパーティーに貸し出されたり。

 新人はギルドの常識がわかっていなくて、有り金と装備を巻き上げられて使い捨てられたりすることもあった。

 普通は気づきそうなものだが、そこは新人には悟られないように上手く隠蔽していた。

 パーティーメンバー以外には接触させず、ギルドの常識に一切触れさせない。

 そうやって丸め込んでいき、ギルドが把握した時には、もう使い物にならないくらい疲弊してしまっている。

 そんなことがかなりの数で繰り返された。

 そこでグランドギルマスが採った対策は、取り込まれる前にこちらに取り込んでしまえ。

 トラブルを装って接触、あらかじめ手配してある優良パーティーに引き渡す。

 

「拉致、監禁、洗脳は奴らの常とう手段よ。地方のギルドと違って、王都のグランドギルドにはいろんな奴がくるわ。お勧めしないどころか放り出してしまいたい奴らだっている。違法すれすれでも摘発だってできやしない。だったらあたしたちはせめて最初くらいはまともなパーティーで経験を積ませてあげられるよう、こうやって声をかけているわけよ」


 これで大分被害者が減ったのよと、エルカさんは胸を張った。


「すごい、すごいです ! お姉さま方は体を張って新人冒険者を守っているんですね !」

「え、ええ、そうよ ! 新人の時の恩は新人を守ることで返すわ !」


 その為だったら、受け入れがたい服装やお化粧も我慢する。

 なんて立派な方だろう。


「私もいつかお姉さま方のように、新人冒険者を守れるようになりたいです !」


 肩をトントンと叩かれる。


「感動しているところを悪いが、二代目のことを教えてくれるか」


 エイヴァン兄様が重低音ヴォイスで雰囲気をぶち壊す。


「実のところあたし達も知らないのよ。でも疾風はやてのルー、白銀の魔女の話になるとグランドギルマスはしきりに二代目、二代目って言うのよ。だからここで活動している冒険者にはそれで定着しているの」

「以前に白銀の魔女って呼ばれた冒険者がいたってことか」

「いや、兄さん。どちらかというと『疾風はやて』のほうじゃないですか ?」


 ディードリッヒ兄様が口を挟む。


「グランドギルマスは60・・・だったか ? リックの親父さんと同じくらいだな」

「そうですね。なら同じ人物の事を言っている可能性があります」

「やあ、なんの話だい ?」


 懐かしい声に振り返る。


「ギルマス !」

「おはようございます、ギルマス !」


 いつもの穏やかな笑顔のギルマスがそこに立っていた。

 兄様たちの声も明るくなった。

 やはり私たちはギルマスが大好きだ。

 声を聞いただけで元気になる。

 ギルマスは王都にいる間、グランドギルドで事務のお手伝いをしているという。

 ヒルデブランドの方は、サブギルマスがギルマスへの昇格修行で回しているそうだ。

 

「『疾風はやて』という人を探しているんです。半世紀ほど前に活躍していた人らしいんですが」

「・・・『疾風はやて』ねえ。ちょっとわからないな。ところでこれから出かけるのかい」


 ギルマスはエイヴァン兄様から依頼書を受け取るとすっと目を走らせる。


「六角大熊猫の討伐かい。楽勝だね」

「そうですね」


 まわりの人たちがエッと声をあげる。


「子連れにだけは手を出すんじゃないよ。それとルーは転んでケガをしないこと」

「「はいっ ! 」」


 気を付けて行っておいでとギルマスは案内窓口の向こうに行った。


「ちょっと、あんたのところヒルデブランドのギルマスは鬼なの ? 大型の討伐を四人でやれなんて。おまけに二人は年少組じゃない」

「いや、特に問題はないぞ。アルは去年の新人王でおつクラスだし、ルーは去年の夏に冒険者登録をしたがもうへいだ。それにモモは一角猪なら十匹くらいは軽く倒せる。特に難しい依頼じゃない」


 何なの、その非常識な構成はとエルカさんが呆れた顔をする。


「じゃあ行ってくる。受け付けは五つの鐘までで変わりはないな」


 何か月ぶりかの依頼。

 楽しみ !

 横に並んだアルを見ると、やっぱり嬉しそうに笑っている。

 ずっとお嬢様と侍従の間柄だったから、今日は久しぶりの『私たち』だ。


「アル、行こ」

「うん、行こう、ルー」


 しっかり手を握って兄様たちの後を追う。

 兄様たちとアルがいて、今日から新メンバーのモモちゃんがいる。

 もう、ワクワクが止まらないっ !

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