第121話 ヴァルル帝国冒険者ギルド総会 開幕 !!
その日兄様たちを屋敷に置いて、ナラさんと二人で向かったのは王都の一角。
こぢんまりとした屋敷だ。
ここはギルマスが借りていて、王都にいる間の私たちの活動拠点になるという。
ナラさんはここでお留守番。家事をしながら待っていてくれる。
私は冒険者の姿に変えて、ギルマスと二人でおでかけする。
今日はヴァルル帝国冒険者ギルドの総会だ。
各地の支部からギルドマスターが集まり、優秀な新人を
そしてその中から昨年度一番活躍した者を新人王として表彰する。
ちなみに去年はアルだった。
そして今年は私なんだって。
兄様たちが来ないのは、顔を覚えられないためだと言われました。
「ねえ、あなたが
新人たちの控室で窓の外を見ていると、何人かの年かさの女性が私の前に立っていた。
「
「はじめまして。あの、ここにいてもいいかしら。男の人たちジロジロ見るし触ろうとするし、気持ちが悪いのよ」
そう言えば周りは男性ばかりで、女性の数は少ない。
私を入れても四人。
固まっていたほうがいいだろう。
「もちろんです。私も一人で心細かったんです」
「ありがとう。噂は聞いてるわ。物凄い勢いで昇任したんですってね。女性冒険者の誇りだってうちのギルマスが言ってたわ」
口々に褒めてくれる彼女たちと楽しくおしゃべりしていると、何人かの男たちが近づいてきた。
「よお、お前が
「どうも」
「枕営業でクラスを上げたってなっ !」
男たちがドッと笑った。
「ちょっと ! 何失礼なこと言ってるのよ !」
女の子たちが口々に非難する。
「女が短期間で
「その腕前を見せてもらいたいもんだなあ。呼び出しにはまだ時間がかかりそうだしな」
男たちがジリジリと私に近づく。
女の子たちが私を庇おうと前に出る。
何をしたいのかよくわからないが、これだけは聞いておかなくては。
「あのお、枕営業ってなんですか ?」
「は ?」
「枕を売るんですか ? それとも枕カバー ?」
「・・・」
あ、またなんか可哀そうな子を見る目をしているよ、みんな。
「何だよ、ネンネちゃんかよ」
「なんでこんなガキが新人王なんだよ、腹が立つ」
一生懸命お仕事したからですが、何か ?
男たちの一人が良いことを思いついたとポンっと手を打つ。
「こいつが新人王ってことは、こいつに勝てば俺が新人王ってことになるな」
「ん、そうなるか ?」
「なるわけないじゃない ! 何をバカなことを言ってるのよ !」
「あんたたち、いい加減にしなさいよ ! せっかく優秀新人になれたのよ ! 資格はく奪なんてことになったらどうするのよ !」
女の子たちが口々に抗議してくれるが、男たちの耳には入らないようだ。
「じゃあ呼び出しの前に誰が本当の新人王か決めようか。いいな ?」
「「「おうっ !」」」
いや、良くない。
全然良くない。
って、誰も聞いてないな ?
「逃げましょう ! ここにいたら危ないわっ !」
「早く、こっちへ !」
そんな気のない新人たちがドアの方に誘導しようとしてくれるが、多勢に無勢。仲間の男に取り押さえられてしまう。
「キャッ !」
私の前にいて庇ってくれていた女の子が床に倒れる。
「どけっ ! 邪魔するなっ !」
倒れた子が男に足蹴にされる。
私は慌てて彼女に手を貸して立たせる。
彼女を蹴ったのは兄様たちと同じくらいの年頃の、顔だちも立ち姿も下品な男だった。
成人していれば冒険者にはなれるから、始める年齢に上限はないのだ。
「・・・そんなに新人王になりたいの」
「ああ、そうすれば上のクラスに上がりやすいからな。クラスが上がれば受注できる依頼も増える。金だってたっぷり入る。なりたくない奴はいないぞ」
冗談じゃない。
ヒルデブランドのギルドにはそんな考えの冒険者はいなかった。
街のため、依頼者のためにみんな頑張ってきた。
クラスはそれに付いてくる。
なのに、こいつらは・・・。
「私を怒らせたことを後悔させてあげる」
怒りで頭に血が上っていくのがわかる。
私を倒せば新人王になれる。
そんな考えの奴らは・・・。
◎
「おーい、新人さんたち。出番だぞって、人数少なくないか ?」
「少し席を外しているだけで、すぐに来ますよ」
「そうか ? じゃあ付いてきてくれ」
「はーい」
帝国内の全支部から集まったギルドマスターたち。
彼らは己の育てた自慢の新人の出番を今か今かと待っていた。
これから優秀新人一人一人の成果が発表され、もっとも優秀であると評された一人が新人王になるのだ。
「お待たせしました。昨年度の各ギルド優秀新人です」
司会の紹介で、舞台の上に四人の若い女性と数名の男性が現れる。
一人を除いて、なぜか下を向いて落ち着かな気にしている。
「うちの奴がいないぞ」
「うちのもだ。どうしたんだ」
場内がザワザワとする中、少女の一人が手をフワッと手を動かす。
すると舞台の袖から風が吹き、続いてフワフワと宙に浮いた男たちが現れた。
「なんだ、これは」
ギルマスたちがあっけにとられていると、ヒルデブランドのギルマスが舞台に上がる。
「ルー、君の仕業だね ?」
「はい、ギルマス、その通りです」
「説明してくれるかな ? 」
少女がええっとと口ごもっていると、横にいた娘が声をあげる。
「こいつら、
「
「あたし、こいつに
口々に彼らの狼藉をあばいていく。
各ギルマスたちの顔が青くなる。
「反論はあるかい」
ヒルデブランドのギルマスが声をかけるが、頭の上の新人たちは口をパクパクさせるだけ。
「あ、魔法の詠唱が出来ないよう黙らせてました」
「解いてあげなさい」
少女は渋々という顔で指をスッと動かす。
「嘘です ! 俺はそんなことしてません !」
「信じて下さい ! こいつがいきなり変な魔法使ってきたんです !」
声が出るようになった宙に浮いた男たちが無実を訴える。
フンっと鼻をならした少女は、何かを広げるように両手を伸ばす。
部屋の中に声が響いた。
よお、お前が
枕営業でクラスを上げたってなっ !
女が短期間で
こいつが新人王ってことは、こいつに勝てば俺が新人王ってことになるな。
じゃあ呼び出しの前に誰が本当の新人王か決めようか。いいな ?
突然聞こえてきた自分たちの声に、男たちは顔を引きつらせる。
「・・・また新しい魔法を覚えたようだね」
「ICレコーダーのイメージでやってみました。案外できるもんですね」
すました顔でそういう少女に、あれが噂の
「ところでギルマス、枕営業ってなんですか」
「ちょ、ちょっと、ダメよ、そんなこと男の人に聞いたら !」
女性冒険者たちが慌てて少女を引き離す。
「枕営業っていうのは、嘘の恋人になって過剰に高評価をもらうことだよ」
「 ! 」
ヒルデブランドのギルマスはニコニコしながら説明する。
「世の中にはそういうことが通じる世界もあるけれど、冒険者ギルドではありえないよ。そんなことをすれば実力が伴わないで命を落とすことになるからね」
「そうなんですね。私とギルマスが恋人・・・ないですね。ギルマスと手をつないだりキスしたりって・・・」
少女の顔が急に赤黒くなる。
すると宙に浮いていた男たちが、何かにかきまぜられるかのようにグルグルと回り始めた。
「た、助けてくれっ !」「謝るから止めてくれっ !」「死ぬーっ !」
大渦に巻き込まれたかのように空中で回り続ける男たち。
「ルー、もうそのぐらいで止めてあげなさい」
ギルマスの声に男たちが空からボタボタと落ちてきた。
「すみません。取り乱してしまいました」
「いや、君の怒りのほどがよくわかった」
客席から一人の老人が上がってきた。
「なさけない、これが各ギルド自慢の優秀な新人か」
「グランドギルマス・・・」
帝国内の冒険者ギルドを統べる者、王都グランドギルドのギルドマスター。
「
彼女がまだ
確かまだ冒険者になって半年ほどの筈だ。
異例の昇任だが、先ほどからの魔法をみればさもありなんと納得する。
「変色一角ウサギの群れの単独討伐。暴走一角猪の討伐作戦への多大なる協力。ヒルデブランドの常駐騎士団からも感謝状が来ている」
「恐れ入ります」
少女が胸に手を当てて膝を折って応える。
「優雅な所作じゃ。気品もある。仲間を思う心もある。まこと今年度の新人王にふさわしい。そして嫌な思いをさせたの」
「私はいいです。でも私をかばって蹴飛ばされた人がいます。そしてギルマスを侮辱しました。この二つは許せません」
マグロのように舞台の床で伸びている男たち。
その姿を一瞥してグランドギルマスは大きなため息をつく。
「優秀新人に選ばれて勘違いしたとみえるな。冒険者を止めるもよし、心を入れ替えて続けるもよし。だがその場合は一年間は昇任はなしじゃ。別の支部で新人からやり直すのも禁止する」
「そんな ! せめて半年くらいで !」
自分のところの新人がいる支部から不満が上がる。が、グランドギルマスの一睨みで黙る。
「このお嬢ちゃんの魔法がなかったら、今頃こいつらの餌食になっていたのじゃぞ。本当ならすぐに首を切りたいところじゃが、未熟さを
伸びていた男たちが徐々に目を覚ます。
そして自分たちが会場中から注目されているのに気づく。
「気が付いたようじゃのう。自分たちがなにをしたかわかっておるか」
自分たちを見る冷たい視線に、新人たちはようやく状況を理解する。
「お主らの優秀新人は取り消しじゃ。品位のかけらもない奴らにその栄冠は相応しくない。そしてこう言う馬鹿を育てた各支部にも責任を取ってもらう。覚悟をしておけ」
冒険者ギルド総会は早々に幕を閉じた。数々の行事をすっ飛ばして。
はっきりしているのはルーが名実ともに新人王に相応しいと認められたこと。
その後の懇親会がなくなったこと。
多くの酒場で予定されていた打ち上げがキャンセルされたこと。
そして各支部のギルマスは心に刻む。
『白銀の魔女』
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