第115話 登場人物が増えたよ
屋敷の玄関ホールから続く階段を上る。
「一階はお客様がいらっしゃる場所。わたくしたちの住まいは二階よ。三階は召使たちの中でも上の者がすんでいるわ。ルチアちゃん専属の子たちもそちらに部屋が用意されているはずよ。その他の者たちは近くの宿舎から通っているの」
「ありがとうございます、お母様」
「支度が整ったら誰か呼びに行かせるわ。家の者に紹介しましょう。まずは旅装を解いていらっしゃい」
お方様に言われ、控えていた侍女の一人に案内され、奥の一部屋に向かう。
「かわいい・・・」
私の為に用意されたその部屋は、ヒルデブランドの領主館とは違い、パステル系の淡い色合いでまとめられていた。
大きな窓に掛けられたレースのカーテン。夜用の厚いカーテンだけが臙脂色でフワフワした雰囲気をキリッと引き締める。
だがよく見ると裾の方から白い花の刺繍がグラデーションのように刺されていて、他の色との違和感を感じさせない。
「お待ち申し上げておりました、お嬢様。無事のご帰宅、祝着至極に存じます。私は侍女長のメラニアと申します」
部屋で待ち受けていた年かさの女性がルーに膝を折って礼をする。
「本日からお嬢様のお世話をする者にございます。見習メイド一人では心もとのうございますので。この者が見習いの教育も承ります」
「ナラと申します。領都の出でございます。ルチアお嬢様、よろしくお願い申し上げます」
部屋まで案内してくれたブルネットの女性が挨拶をする。
「専属はこの者と見習の二人になりますが、日替わりで何人かがお近くに侍ることになっております。それでは私はこれにて失礼いたします。ナラ、しっかりお仕えするように」
「お任せください、メラニア様」
メラニアが礼をしてドアがかちゃんと閉められる。
畏まっていた侍女がニカっと笑った。
「はじめまして、ルーちゃん。ナラよ。会いたかったわ」
「やっぱり、ナラさん ! こちらでははじめまして、ですね」
領都出身の侍女、ベナンダンティのナラは先ほどまでのおすまし振りはどこへやら、その辺のコンビニにいる日本女性に姿を変えた。
「もう、なんてかわいいの。ご老公様がご養女にってゴリ押しするわけだわ。若い男の子たちが黙ってないわ。今年の社交界は荒れるわよ」
「あ、そんなのはいいです。めんどくさい」
「でしょうね。ベナンダンティだものね」
ナラさんは私の手をギュッと握ってアハハと笑った。
「あなたの専属、ものすごい倍率だったのよ。やっぱり女ですからね。ドレス選びとかしたい侍女がいっぱいで。大変だったのよ、争奪戦」
「え、私なんかの為に ?」
「なんかじゃないわよ。久しぶりの女の子よ。全然決まらなくて最後は椅子取りゲームで決定したのよ」
侍女の皆さんの椅子取りゲーム。
見てみたかった気がする。
「久しぶりだな、ナラ。元気そうだ」
「そっちもね。なあに、いきなり人相が変わってるじゃない、エイヴァン。どこの執事喫茶のナンバーワンかと思ったわ」
「相変わらずですね、ナラさん。ディードリッヒです。外見変わってますが」
エイヴァン兄様とナラさんが同期。ディードリッヒ兄様がその少し下らしい。
ベナンダンティになってすぐメイドになって王都に派遣されたから、アルもナラさんとは初対面だそうだ。
ネット環境を整えてくれたギルマスに感謝。
「まず部屋の中を案内するわね。ここは特別親しい人だけが入れる応接室。あちらの扉がルーちゃんの居間。反対側がメイドと近侍の控室。その隣が小さなキッチンでお茶のしたくはそこでね。居間の奥が寝室と洗面所。居間の隣が衣装室よ」
ナラさんが扉を一つ一つ開けて教えてくれる。
「あなたたちは三階に部屋があるわ。隠し廊下を使って移動するから、その辺りは先輩たちに教わることになると思うわ。厳しいわよ、ここの侍従教育。ついてこられるかしら」
「最速で終わらせる。遊んでいる暇はない」
まあ頑張ってとナラさんは私の手を引いて衣裳部屋に入る。
「あなたたちの服は控室にあるから着替えてきて。ルーちゃんはこちらでお着換えね」
衣装室には全身が映る三面鏡とヒルデブランドで作ったドレスがズラッとかかっている。
フロラシーさんがデザインしたものも多い。
「ドレスの山が届いたときはメイド全員大騒ぎだったわ。替え襟っていうの ? 取り外し可能のお飾りに大興奮よ。みんなでいろんな組み合わせを考えたの。楽しかったわ」
そういってナラさんが一枚のドレスを選んでくれた。
襟が詰まっていて、白地にピンクの糸で細かく小花が刺繍されたものだ。
袖口はかわいい飾りボタンになっていて、内側にはスナップボタンが隠れている。
「スナップボタンって、
着替えた後は旅用にきつく結い上げていた髪を一旦解き、普段用に軽く結い直してもらう。
お化粧も少し。
「
「できますよ」
「なにが ?」
私は冒険者の袋から
「こ、これはっ ! タ〇グル〇ィー〇ーっ ! あなた、なんて魔法が使えるの ?!」
「こちらで作れないものは取り寄せないように言われてるんですけど、個人的に使うものならいいってギルマスが。でも私が良く知らないものは無理みたいです。パソコンとかスマホはダメでした。スチーム掃除機はよく使ってたので大丈夫でした」
ナラさんはブラシを見つめたまま黙ってしまった。
応接室に戻ったら兄様たちが旅装から普通の執事服に着替えて待っている。
ナラさんは兄様たちの肩を掴むと難しい顔で言った。
「・・・ねえ、エイヴァン。あなたたち、かなり苦労してない ?」
「わかるか、ナラ」
「お取り寄せなんて魔法、知られちゃいけないわ。ベナンダンティ同士でも止めた方がいい。欲をかく奴が必ず出る。専属が私で良かったわ。屋敷にいるベナンダンティは私だけだもん。力になれると思う」
見習の子のこともあるし力を合わせて頑張りましょうと、五人でスクラムを組んで小さく
そして兄様たちは家名をもらったので、専属以外の者がいる場ではそちらで呼んで欲しいと伝える。
「スっ、スケさんとカクさんと風車の・・・プっ ! で、見習の子がお銀って。ご老公様もよく考えたわねぇ」
「頼むから屋敷の内部でばらさないでくれ。恥ずかしいんだ、本当に」
「言わないわよ。でも書庫の管理をしてる人は知ってるはずよ。出会わないことを祈るのね。うーん、じゃあ私の役どころは留守を守るシノさんってところかしら。実働部隊じゃつかえないもんね」
「はーい、私、うっかりさん設定らしいでーす」
「やめてぇっ ! 世直し旅が始まっちゃうじゃないっ !」
呼び出しの人がドアをノックするまで、ナラさんはお腹を抱えて笑い続けた。
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シノさんはスケさんの奥さんです。
『疾風』の読みアンケートも引き続きよろしくお願いいたします。
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