第104話 無理矢理の養女はあきらめ気味
「お帰りなさいませ、お父様だよ」
全ての物がフリーズ。
あーいーうーえー、お父様って誰だっけ ?
そうだ、アルのお父様ね。
でも
誰のことかなー。
「まあ、あなた。びっくりしているじゃないの。ちゃんと順番に説明しないと」
「うん ? ああ、そうだったね。義父上からの依頼でね、君は二週間前にルチア・ダルヴィマールになったんだよ」
・・・ちょっと待て。
私が選んだフルネームはルチア・メタトローナだ。
なんだ、ダルヴィマールって。
えっと、この領地の名前でご領主様のお名前で。
で、なんでそれが私の名前 ?
「手続きにちょっと手間取ってね。だって君、出身国もわからないし、でっちあげるのに苦労したんだ」
「いろいろ設定を考えるのは楽しかったわ。
嬉しそうに笑いあうご領主夫妻。
面白いことになったなみたいな顔のマクシミリアン君。
明後日の方向を向いて無関係を貫こうとするご老公様。
「そういうわけだから、ちゃんと挨拶のし直しだよ。おかえりなさい、からね」
「お帰りなさいませ・・・って、御前、そういうわけだからの『そう』の部分がわかりません !」
「御前ではなくてお父様だよ。だから、君は養子縁組したんだよ、私とね。つまり君は私の養女、娘になったんだ」
サロンに声にならない声が響いた。
◎
ルチア・メタトローナをダルヴィマール侯爵家の養女とすることを認める。
一杯サインとハンコが付いてる偉そうな紙には、難しい言葉を省くとそう書いてあった。
ここにはない提出書類には、私の出身地とか誕生日とか偽造された個人情報が盛りだくさんだったそうだ。
ちなみに私が生まれたのはトヨアシハラノフソウ国らしい。
漢字で書くと豊葦原扶桑国。
どこの日本書紀ですか。
「義父上から君を私の養女にして欲しいと手紙をもらってね。けっこう難しかったんだが、なんとか受け付けてもらえたよ。もう跡継ぎの息子がいることと、皇室に適齢の皇子がおられないことが理由かな」
「出身地は昔この領地に移住してきた人たちの国にしたわ。知っている人もいないし、面倒がないですからね」
渡された書類を見ていた全員がご老公様を睨みつける。
ギルマスが珍しく苦い顔をしている。
「・・・このようなお話は伺っておりませんが」
「しておらんかったからの」
「専属契約の内容は王都での
「親族のほうが社交界には受け入れられやすいからの」
ご老公様はそっぽを向いたまま私たちを見ようともしない。
「やっぱり、そうなのね」
「アンシアちゃん ?」
アンシアちゃんはブルブルと握りしめた拳を震わせる。
「聞いたことがあるんですよ。そこらへんの身内をなくした子供を養子にして、政略結婚で繋ぎを作る貴族がいるって」
「いや、それはない・・・」
「きっと富豪の老人の後妻とか妾とか、そんなとこでしょう。でもっ、そんなことさせないっ !」
アンシアちゃんは足音高く近寄るとご老公様の胸倉掴んでグイっと立たせた。
「お姉さまを政治の駒にしようなんて、やっぱりてめえはくそ爺だったな !」
「ちょっと、おじい様にひどいことしないで !」
「止めないで、お坊ちゃま ! こいつ殺せないっ !」
「キュッキュッキューっ !」 ( 僕も手伝うっ !)
ピンクウサギのモモちゃん参戦って、殺しちゃだめでしょう、殺しちゃ。
アルが慌ててキックかましてるモモちゃんを抱きあげ、兄様たちがアンシアちゃんをご老公様から引きはがしにかかる。
が、なかなかどうして彼女の力は強い。
ご老公様の顔がだんだん赤黒くなってくる。
「はなせ、アンシア。ご老公様が死ぬ !」
「望むところよ、
「さすなっ ! 殺すなっ ! 誤解だからっ ! 間違いなく勘違いだからっ !」
今やサロンは大混乱です、じゃない。
ご領主夫妻はあらあらしかたないわねみたいに平然とお茶をいただいている。
モーリスさんとセシリアさんも我関せずと扉脇に控えている。
なんだ、この平常感は。
とにかく止めないと、マジでご老公様があの世に行っちゃう。
お茶を一口飲んで息を整える。
「アンシアちゃん、待てっ !」
ご老公様の首からパッと手が離れる。
崩れ落ちるご老公様を兄様たちが支えてソファに座らせる。
「お座りっ !」
ペタンと床に座り込む。
冒険者組がホーッと力を抜く。
ご老公様、生きているようだ。
「落ち着きましょう、皆さん。全員座って下さい」
立っていることにこだわっていた皆だったが、とにかく椅子を持ち寄る。
「お伺いしたいことはたくさんありますが、当事者として申し上げます。大変迷惑です」
「お父様の独断専行だったのね。そうじゃないかとは思っていたのよ」
お方様がやっぱりと言った。
だったら一応確認取れよとエイヴァン兄様がつぶやく。
「今までのお話ですが、かなりの無理を通して養子縁組を勝ち取ったものと思われます。ですから、それを今更覆すのは御前にとってもかなりの信用問題となるのでしょう」
「うん、その通りだね」
「でしたらその結果をお受けする以外の選択肢はありません。不本意ではありますが」
できるだけ冷静を装ってお茶を飲む。
頭の中は出来るだけ有利な条件を引き出すため全力回転する。
「王都の不穏分子を炙り出すために必要なのであれば仕方ありません。ですが、私は冒険者です。その活動に制限をかけることはおやめください」
「承知した」
「アンシアちゃん懸念の政略結婚もお断りします」
「お父様の死体は見たくありませんわ。縁談は全て門前払いしましょう」
お方様も了承してくれた。後は、これだな。
「お二人をお父様、お母様とお呼びするのもやぶさかではございません。が !」
「まだ何かあるかね ?」
「ご老公様は、ご老公様のままで」
「お、お、おじい様とは呼んでくれんのか !」
「当たり前じゃないですか。ご自分が何をなさったかご自覚がないんですか。あれほど私に関係することを黙って決めてくれるなとお願いしましたのに。さすがに堪忍袋の緒が切れました。年内のお茶会も無しでお願いします」
人の人生なんだと思ってるんだろう。誰がおじい様なんて呼ぶものですか。
「それでは本日よりよろしくお願い申し上げます。お父様、お母様」
「決して政治利用などしないから、ちゃんと家族になってほしいな。あ、
「嬉しいわ。一緒にお洋服を選びましょうね」
「よろしくね、姉さま」
「はい、マクシミリアン君」
まったくもって不本意甚だしいのだが、生きていく上であきらめるしかないこともある。
これで私が父母と呼ぶ人が三組になった。
さて、明日はどっちだろう。
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