第101話 『隠しちゃお ( は~と )』の魔法と楽しい夜
私の左耳。
ベナンダンティの男性なら白、女性なら赤の小さいピアスが付いている。
当然だが私は赤のピアスだ。
さっきから怒ってるおじいちゃまがドスドスと舞台に上がってくる。
「先ほどまでは無かった。さては我らの目を盗んでシールを張り付けたな」
「違います。ちゃんと最初からついてます・・・痛たたたたたっ !」
おじいちゃまがいきなり私の耳を引っ張った。
「なにするんですかっ ! ギルマスぅ、おじいちゃまがいじめます !」
「誰がおじいちゃまだっ !」
「じゃあ、お姉さんなんですかっ !」
「むむ、おじいちゃんであっとるが・・・なぜピアスがある。先ほどまで無かったのはここにいる全員がみているぞ !」
「
おじいちゃまがパッと手を離した。
「魔法で隠していただと ?」
「そうですよ。ああ、痛かった !」
アルが濡らした布巾を左耳に当ててくれる。
もう、ちぎれたらどうするのよ。
「透明化の魔法など聞いたことがないぞ」
「透明になんてしてません。これは『隠しちゃお ( は~と ) 』って私が作った魔法です。隠しておくだけの魔法です」
「・・・一体なんでそんな魔法を」
なんか武道館にいる全員が私を見てるんですけど。
これは正直に理由を言うしかないのかな。
「あの・・・私の学校、ピアス禁止なんです」
「「「 はあぁぁぁっ ?! 」」」
◎
チュートリアルが終わって魔法解禁になって、私が一番に挑戦したのが証のピアスを隠すことだった。
中等部の時、夏休みの間だけピアスを開けた先輩はすぐにばれた。
いくら
だから、もし
で、ピアスを隠せないかと思って作ったのが『隠しちゃお ( は~と )』。
「その日のうちに
なんか集まった人たちが可哀そうな子を見る目で私を見てる。
武道館の中がシーンとしてる。
「だ、だって、だって、ピアスの穴あけたのバレたら反省文四百字詰め原稿用紙で十枚ですよっ ! 書き終わるまで反省室に閉じ込められて下校させてもらえないんですよっ ! 嫌じゃないですかっ、そんなのっ !」
「だからそんな魔法を作ったらなんで報告しないんだ !
「そんなこと言ったって忘れてたんですもん ! それに兄様たちだって気がつかなかったじゃないですか !」
「最初に確認してるんだから毎日ピアスなんか確かめるかっ !」
「なーんで私が怒られなきゃいけないんですかっ ! ちゃんと攻撃用魔法だって覚えたじゃないですかっ ! 見たでしょう、フィンガービームっ !」
「おお、見たとも、ジャ〇ア〇ト・ロ〇なっ ! あれが見事だったのは認めてやるが、それ以上にお前の考えだす魔法はっ !」
「その辺にしなさい、二人とも。他の人たちが困っている」
ギルマスとアルに肩を叩かれて、エイヴァン兄様と私はハッと会場を見る。
参加者の皆さんはあきれ顔と不憫さと無関係でいたいみたいな変な表情になっている。
「コホン、では新人の紹介とルーの部外者疑惑が晴れたところで、改めて総会を始めよう」
◎
私とエイヴァン兄様の
と言っても冒険者ギルドに所属する者ばかりで、後は引退した人たちだ。
そのあたりの報告と、今年は意識不明で
アルの
まだ検証が足らないということかな。
そのような報告がなされた後、休憩を挟んで親睦会が行われることになった。
ご老公様のゴリ押しとか言いながら、肝心のご本人は総会にも親睦会にも参加しないらしい。
街のトップでベナンダンティの情報を共有しているのは、実は当のベナンダンティにはナイショなんだとか。
なんで私たちが知っていていいのかと聞いたら、「今更じゃないかね」と笑われた。
私たちだけの秘密で口外無用と言われたけど。
で、私の踊りはコッソリ覗いているから頑張れと言われた。
まあ、頑張って踊ったけどね。
大受けだったけどね。
「よかったわよ。ものすごい体幹ね」
「ありがとうございます」
声をかけてくれたのはヤニス洋装店の主任さん。
突貫で衣装を縫ってくれた人だ。
「でもエスメラルダならやっぱり赤と黒じゃないかしら。知ってたら別のデザインにしたのに」
「え、バレエご存知でしたか」
「私、
派遣で洋装店に勤めていたから舞台衣装に興味をもったの、と主任さんは言った。
冒険者ギルド「あふれだした本棚」は、冒険者として依頼を受ける人と、冒険者にならなかったベナンダンティの派遣社員の二種類がいるという。
「知らなかった・・・。私、冒険者一択で選べなかったから」
「ギルマスは冒険者になれるかどうか一目で見分けるわ。ルーちゃんは冒険者で正解よ。ところでこれからも
「年越しのお祭りで踊るように言われてます」
じゃあ、私が衣装作ってあげる。どうせご老公様持ちでしょうしと主任さんが申し出てくれた。
「何を踊るの ?」
「にぎやかなのってあまりレパートリーないんですよね。エスメラルダの他はキトリの一幕と三幕くらいです」
「いいじゃない。三幕のチュチュは
「ありがとうございます。お手数ですけどよろしくお願いします」
フックとスナップと手仕事倍々魔法のお礼よ。あれでずいぶん捗ったわと喜ぶ主任さんと別れてふと見ると、目の前にセシリアさんがいた。
「セシリアさんもベナンダンティだったんですか ?!」
「うふふ、さようでございますよ、お嬢様」
よくよく見ると小ぶりのイヤリングの真ん中に穴が開いていて、証のピアスがそこから覗いている。
「お嬢様もなんて、最初はわかりませんでしたわ。魔法でピアスを隠していらしたんですのね」
「セシリアさん、お嬢様は止めてください。私はただの女子高生です」
そう言うとセシリアさんは首を横に振る。
「
「でも・・・」
「年齢や育ちに関係なく相手を尊重するのは大切ですが、
でも万が一
あちこちで声をかけられる。
知ってる顔も一杯いた。
改めてよろしくと頭を下げる。
踊れの声にもう一度舞台に上がる。
ベナンダンティ年次総会は遅くまでにぎやかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます