第78話 私たちの でぃーっ ! あいっ ! わいっ !
警備隊の寮に一歩踏み入れた途端、私たちはその、ええッと、その、男臭さにたじろいだ。
臭い。
どんな匂いと言われたら答えようがないんだけど、とにかく変な臭いがした。
「窓を開けましょう」
「そうね。全部開けましょう」
幸い頼まれた部屋は全て同じフロアだった。
とにかく換気をしなくっちゃ。
部屋の中は『若い娘さんが見たら赤面する』物を探したのか、空き巣か野盗に荒らされたような有様だ。
どこから手を出してよいか迷ったが、まずはカーテンなどの布類、そして衣類を選別することにした。
アンシアちゃんがカーテンや寝具類の布製品をまとめてくれる。
私は洗濯ばさみに番号をつけ、各部屋の衣類に取りつけていく。誰の物か間違わないためだ。
それをとりあえず大きな袋に詰めて廊下に放置する。
洗濯はあとまわし。後で漬けおき洗いにしよう。
その後は私物と官品の仕分けだ。
「持ち込んでいいのは食器類。任務に支障のない書籍と鍛錬用具、筆記用具。数枚の私服。以上」
「それだとほとんどの物を捨てなきゃならないわよ。個人的に大事にしている物とか思い出の品とかあるんじゃない ?」
営倉から出てきたときに無くなってたらさすがに傷つくと思うけど。
「じゃあ、最終日にドアの前に置いておくのはどうかしら。それなら自分たちでなんとかするでしょう」
「心配するといけないから、毎日の進捗状況を報告してもらおうよ。少しは安心すると思う」
「いいわね。帰るときにお手紙を書きましょう」
アンシアちゃんとの仲は良い方向に向かっていると思う。特に今はチュートリアル中ではないので、このペナルティの進め方についてよく話し合うことが出来ている。
エイヴァン兄様は『最悪のペア』と言うけれど、そんなことはないんじゃないかな。
そりゃ考えなしだったことは認めるけど。
一日目は部屋の中を空にすることに終始した。
二日目は過炭酸ソーダに漬けておいた布類をガンガン洗濯・・・機で回した。
洗濯機と言っても、大きなタライに入れて洗剤と一緒にグルグル回すだけ。・・・魔法で。
アンシアちゃんが目を丸くしていた。
「器用なことするわねえ。そんな魔法の使い方、学校では習わなかったわ」
「うーん、実はどうして使えるのかわからないの。兄様たちの言う魔力の流れっていうのも感じたことないし。あったらいいなって思ったらできたって感じ」
「何、それ。非常識でしょう」
「あはは、そうかもしれない」
二人で手分けして大量の洗濯物を干していく。
さすが過炭酸ソーダ。そして重曹の力を見よ。
全部ピカピカのフワフワだ。
もちろん過炭酸ソーダを使ったのはアンシアちゃんにはナイショ。
洗濯物が乾くまでは部屋の掃除。
私の浮遊魔法で家具を持ち上げ、床や家具の裏側などをピカピカにしていく。
タンスの上は浮かび上がったアンシアちゃんが拭いてくれた。
浮く感覚が楽しいらしく、ついでに天井まできれいにしてくれた。
そして三日目。
私たちは全ての部屋の掃除を終えた。
「さて、ここからが勝負ね」
「壊れたところの修理とかね。服とかも繕いたいわ」
「それもあるけど、ここからがあたしの腕の見せ所なのよ」
アンシアちゃんがまたあの悪だくみの顔になった。
◎
営倉に入れられた日。
わかってる。俺たちは気を抜きすぎた。
遅刻、無断欠勤、勤務中の無断休憩と飲酒。
調子に乗りすぎたんだ。
個別の部屋に入れられる前、隊長が俺たちに言った。
寮の部屋を徹底的に掃除する。
大切なものが無くなっても我慢しろ。
掃除してくれるのは若い娘さんたちだ。
後悔したぜ。
だって、アレだぜ。
男ならよほどの堅物でもない限り女に見られたくない、アー言う物とか、ソー言う物とか隠し持っているもんだ。
それを見られたら・・・。
二日目の朝、手紙が届いた。
今日は部屋の物を撤去しました。
三日目。
今日はカーテンとお洋服を洗いました。穴の開いた靴下がありましたから、後で繕っておきますね。
四日目。
床と天井のお掃除をしました。窓を拭いていたらガラスにヒビを見つけましたから、交換するようお願いしておきます。
五日目と六日目には手紙はなかった。
だが七日目の朝の手紙にはこう書いてあった。
今日でお掃除が終了します。私物はきれいにして廊下に出しておきました。捨てていいと言われたのですが、大切な物もあるかと思いまして。明日の朝には出られますね。お勤めご苦労様でした。
感激した。
俺、もう規則破りなんかしない。真面目に働く。
そして、翌朝。
自室のドアを開けた俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「何じゃごりゃあぁぁぁっ ?」
部屋の隅にあったはずのベッドの向きが変わっている。
いや、別に変っていたっていい。だが、形状変化している。
ペッタンコだった寝具はフワフワになっていて、大きな枕が二つおかれている。
枕にはビラビラした飾りがついている。
そして天井からは薄いカーテンがベッド全体を覆っている。
書き物机は消えて、同じ場所にピンクの大きな鏡の付いた引き出しつきのテーブルがある。
あっちを見てもピンク。
こっちを見てもヒラヒラ。
俺の部屋は女の子の読む絵本に出てくる、お姫様の部屋に変えられてしまっていた。
「その部屋にあるものは私服以外は官品だ。撤去することは許さない」
振り返ると隊長がニヤニヤと崩れ落ちた俺を見ている。
「心配するな。恥ずかしいものは先に片づけておいてやった。女の子たちは見てねえよ。ここから出たかったら一年間まじめに勤務しろ。部屋の変更はその時の勤務評価で考えてやる。がんばれよ」
隊長は俺の肩をポンポンと叩くと他の奴らのところにいった。
思うにあいつらの部屋も似たような状況なんだろう。
俺、もう規則破りなんかしない。真面目に働く。
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