第77話 反省と悪だくみ お主も悪よのう

 ギルマスの執務室にて。

 私とアンシアちゃんは二人並んで正座している。

 正面の机にはギルマス。

 左右には兄様ズ。

 背後にはアル。

 計四組の目に睨まれて、どうにもこうにも逃げ場がみつからない。


「まずは護衛のチュートリアルの終了おめでとうと言っておこう」

「あ、ありがとうございます」

「子供の言葉に騙されず、依頼の再確認を行い実行を成功させたのは君が初めてだ」

「どうも・・・」

「しかし、そのやり方にはいささか問題があったようだね」

「いささか ? 大問題でしょう、ギルマス !」


 腰に手を当てたエイヴァン兄様がギリッと睨む。


「まず何故ロープでグルグル巻きにしたか聞こう」

「え、逃げられないようにだけど・・・」

「派手な魔法で浮き上がらせたのはどうだ」

「だって、重かったんだもん・・・」

「足だけ自由にして歩かせればよかったろうがっ !」


 エイヴァン兄様の低くて良く通る声に、アンシアちゃんはビクッと身をすくませる。


「空中浮揚なんて魔法が知られたらどうなるかわからなかったのか。どうせ便利な魔法くらいの認識しかなかったんだろうが、ギルドには大物運搬の依頼が続々来ているぞ」

「え、嘘」

「それもルー宛じゃなくアンシア宛にな」


 あ、私宛じゃなかったんだ、よかった。


「・・・ルーは何ホッとした顔してんだ。冒険者の袋を当てにした運搬は禁止されているが、その他の魔法での依頼はそうじゃない。アンシア、お前これからは物の運搬しか依頼が来なくなるぞ。ついでに実際に浮かせられるのはルーだ。一生パーティーを組んでごまかすわけにはいかないぞ」

「まあまあ、エイヴァン、そのあたりで・・・」

「だからギルマスは甘いって言ってるんですよ ! ルーだけでも規格外だというのに、アンシアと組んだら最悪のペアだ。今から常識を教え込まないと危険です !」


 規格外だの最悪だの、若い娘を罵るのは止めていただきたいです、エイヴァン兄様。チラッと横を見ると腕組みしたディードリッヒ兄様がやはり渋い顔でこちらを睨んでいる。


「アンシアの取った行動は捕縛だったら問題なかった。だが、護衛としてはダメダメだぞ。護衛対象を拉致してどうする。縛らなくとも帰ろうと言えば素直についてくるはずだったんだ。これはチュートリアルだから、そこでおしまいのはずだったのに。真剣に事にあたっているのは良いが、やり方がめちゃくちゃだ。何故もっとおとなしい方法が取れなかったんだ。護衛対象がプカプカ浮いてご帰宅なんて、前代未聞だぞ」

「だって浮かすしか方法が・・・あっ !」


 アンシアちゃんがポンッと手を叩いた。


「そうよ。寝かせて浮かせたから目立ったのよ ! 立ったままで地面すれすれで浮かせてたら歩いているみたいで目立たなかったと思うわ !」

「アンシアちゃん、天才っ ! そうね、寝かせたままって考えしか浮かばなかったわ」

「うふふ、発想の転換ってやつ ? 」

「今度はそうしましょうよ。次は失敗しないわ !」


「つっ」

「「次があるかあぁぁぁぁっ !!! 」」



 翌日、私とアンシアちゃんは警備隊の寮に来ている。

 ペナルティの為だ。


「ようこそ、男の巣窟へ。警備隊隊長のジリアンだ」

「ルーです」

「アンシアです」


 よろしくお願いしますと礼をする。

 私はいつものオリジナルのルベランス。


「よろしくするのはこちらの方だ。あー、君たちには一週間で5名の部屋を掃除してもらいたい。置いてもいい私物のリストは渡すから、それ以外の物は処分してくれ」


 これが私たちのペナルティ。むさくるしい男どもの部屋を掃除すること。

 若い女の子には耐えられないだろうということらしい。


「いやいや、それだけではないんだ。実はこの五人は規則破りの常習犯でね。今は営倉入りしている。若い男どもだから、そりゃもう色々と隠しているわけで、それを若い女の子に見られるという恥ずかしい思いをしてもらおうと言うわけだ」

「その見られたくないものって」

「そのたぐいのものは先に持ち出してあるから、お嬢さんたちが赤面するような状況にはならないから安心して欲しい」


 私たちが赤面するようなものって何だろう。

 アンシアちゃんはわかっているようで顔を赤くしている。


「あの、お掃除はわかりました。カーテンとか寝具も洗います。でも壊れていたり破れていたりするものはどうしますか。修理とかしていいですか」

「おお、できればお願いしたい。費用は奴らの扶持からだすから遠慮なく請求してくれ」


 そうか、現状確認したら針とか糸とか買いにいこうかな」


「あのお、ちょっといいですか」

「アンシアか。なんだ」

「直すときに、少し手を加えてもいいですか」


 アンシアちゃんは例の物凄く悪いことを考えてる顔をしている。


「手を加える。たとえば ?」

「あたし好みにかえちゃってもいいかしらってことです」

「君好みに ?」

「ええ、あ・た・し・ご・の・み・に」


 アンシアちゃんがニヤアッと笑う。

 隊長さんも何かに気づいたのかこちらも悪者っぽく笑う。


「任せていいかな ?」

「お任せを」

「お主も悪よのお」

「いえいえ、隊長様ほどでは」


 二人はハッハッハと高笑いをした。


 一週間後。

 ようやく営倉から解放された5人はとぼとぼと寮に戻っていく。

 何故だかすれ違う仲間が哀れみの目でみる。

 何人か口を押えて笑いをかみ殺している。

 首をかしげながら自室のドアをあける。

 見慣れたはずの部屋は、目も当てられない状態になっていた。


「なんだ、こりゃぁぁぁぁっ !!」


 寮内のあちこちから叫び声や大爆笑が。

 間抜け顔の同僚を見て、警備兵たちは手を叩いて大笑いをするのだった。

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