第79話 ルーとアンシアの副収入
いつものギルマスの執務室。
「そんなにすごかったんですか、ギルマス」
「ああ、素晴らしい出来栄えだったよ。よく数日であれだけの物をしあげたね」
ふふふ、ギルマスに褒められちゃった。
任された五つの部屋。
私とアンシアちゃんはそれぞれを趣の異なるテーマで仕上げた。
プリンセス風、ロココ調、アンの世界、ビクトリアン風、それにウルトラゴシック調だ。
最後のはともかく後は女の子だったら絶対喜ぶに違いない。
衛兵隊長様は手を叩いて喜び、これ以上の罰はないと太鼓判をくれた。
私たちはいい仕事をした。
「しかし大分お金がかかったんじゃないかい、あれだけのリフォームは」
「そんなことないです。大体は服飾関係のお店の端切れをもらいましたし、正規に買ったのは天蓋の布とか、鏡とかですよ。残りは全部廃品利用です」
「それに本当は減給一割三か月のところをなしにして、その分改装に充てていいって言われてました。その範囲内なら全部使ってよかったんですけど、さすがにそれは可愛そうだってルーが言うから。そうでなければもう少し派手にできたんですけど」
「いやいや、あれで十分だ」
アンシアちゃんの言葉にギルマスはとんでもないという。
「しかし、パッチワークだの刺繍だの、よく間に合ったな。あれは何日もかけて作るものだろう」
「それは私の魔法で・・・と」
しゃべりかけて口を紡ぐ。が、エイヴァン兄様には聞こえてしまったようだ。
「魔法、だと ? おまえの ?」
「そう、凄いのよ、彼女の魔法 ! もう手元が見えないくらい針が進んじゃって。あっというまにしあがったの! 生活魔法とは違う生活の為になる魔法ね。あと、洗濯機魔法もありがたかったわ。私も覚えたい !」
「説明しようか、ルー」
ああ、兄様ズの目が怖い。
「だから、大した魔法じゃないです。タライに入った洗濯物を水をかき回すことによって綺麗にしただけです。水を操れる人なら誰だってできます」
「そうか。で、もう一つの方は ?」
「えっと、普通にやってたら絶対間に合わないと思って、じゃあどうしたらいいかなって考えて、もっと手が早く動けばすぐに完成するかなって思ったら・・・できちゃいました・・・」
「それに全然疲れないの。あれだけ動いたのに、すごいでしょ !」
アンシアちゃんは嬉しそうに報告するけれど、ギルマスと兄様ズはやっちまったなあという顔をする。
「お前なあ、攻撃魔法を覚えろよ ! そんな変な魔法ばかり繰り出しやがって、お前は冒険者なんだぞ! 冒、険、者っ ! これじゃいつまでたってもまともな討伐には出られないぞ !」
「頼むから、まともな魔法を覚えてくれっ ! 攻撃系とか防御系とかっ ! できちゃいましたじゃねーよっ ! 本っ当に頼むから !」
「僕はルーらしくていいと思うけど」
アルの一言は無視された。
そんなこと言ったって、必要もないのにそんな魔法は覚えられないし・・・。
「必要があれば覚えるんだなっ ! 本当だなっ !」
「ギルマス、こいつ一度
「何を言ってるんだね、君たちは。あー、ルーもなんとか攻撃にも転用できるような魔法を覚えなさい。今週はよく頑張った。一日休んで明後日から討伐のチュートリアルに入るように」
「こいつに討伐なんか教えられるんですかねっ !」
兄様ズはフンっと鼻をならしてそっぽを向いた。
◎
「まあ、こんな風になっているのね。これなら私にも出来るかも」
「お母さん、お姫様のお部屋っ ! 私も欲しい !」
「このベッドのカーテンは虫よけにもなりそうね。厚地のものに変えれば冬は暖かく眠れそう」
本日は警備隊宿舎のオープンハウス。
本来ならば、年に一度、隊員たちの家族が日頃会えない子供や兄弟に会いに来る日だ。
だが今年は少し違う。
「家族証をお持ちの方は左の受付にお越し下さい。それ以外の方は右の受付で入場料をお支払いの上、見学の名札を受け取ってお入りください」
「最後尾はこちらでーす。横入りは禁止でーす」
「矢印の順路に従ってお進みください。不要な場所への出入りはご遠慮ください」
何故か入場料を取り一般市民が並んでいる。
「あこぎな商売をしていますね、警備隊長」
「いやあ、お宅のお嬢さんたちがいい仕事をしたって噂がひろまってね。ぜひ見たいという要望が多くてこうなった」
「困りますよ。そうでなくとも目立ちすぎているというのに。健全な新人育成ができませんよ」
ギルマスの渋い顔を警備隊長は無視する。
「まあまあ、商業ギルドにはパッチワークを登録しておいたから、彼女たちには恒久的にお金が入るし、この街の特産にすれば街も市民も潤う。いいことずくめじゃないか」
ルーとアンシアはアンの部屋でご婦人方につかまっている。
「そうですね。今回は時間がなかったのでこんな簡単なものになりましたけど、本来は時間をかけてゆっくり作るものなんです。いろいろな色を集めて絵のように縫う人も多いです」
「あたしも初めてつくったんですけど、こんな風にわざと縫い目を見せたりするそうです」
余った布を継ぎ当てではなく、ちゃんとしたものを作るために使うという今までにない考え方に、奥様方は飛びついた。
飛びついたのは奥様方だけではない。
大手のヤニス洋装店は、余った布を似た色ごとに同じ大きさに揃えて安く売るという考えをルーから聞き、早速捨てるに捨てられない 端切れの在庫を売り出す算段を始めた。
もちろんルーには商業ギルドを通してアイディア料として毎年いくらかのお金が入る。
「この間のピンクウサギといい、今度のパッチワークといい、お宅はいい人材を手に入れたなあ」
「ええ、得難い冒険者ですよ、ある意味でね。ところで警備隊長、当然入場料には二人の取り分も入っているのでしょうね。今日の分は慈善事業ではありませんよ」
「え、や、当たり前じゃないか。彼女たちには感謝しているからな。わははは」
絶対忘れていたな。
規格外と問題児の二人だが、彼女らの正当な権利だけはまもらなければ。
ギルマスの後ろでは、ウルトラゴシックの部屋を眺め、この部屋を割り当てられた警備兵は熟睡できるのだろうかと、兄様ズが深い深いため息をついていた。
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