第65話 頑張るあなたはかっこいい


 アンシアちゃんとの魔法対決の翌日。

 改めて探索のチュートリアルを開始した私たちは、地図を片手に広場の真ん中に立った。


「ここが街の真ん中、道に迷ったらここに戻ればいいわ。教会のある方向が北、冒険者ギルドがあるほうが南。両方の場所を覚えておけば、おのずと東と西もわかるわ」

「わかった、あっちが西ね」

「いえ、あちらは北よ。真ん中に立って左手正面に教会が見えるでしょう」


 私はアンシアちゃんの地図の教会の絵を指さした。


「あと、この地図は上が北だから、それで東西南北を判断してね。門が見えたら北以外のどこかだからね」

「北には門はないの ?」

「北はお代官様とご領主様のお館だから門はないわ。では始めましょうか。ラスさんのおうちを探しましょう」



「なにやら胡散臭い話じゃの。スラム公認の非合法冒険者ギルドか」


 ご老公様、ギルマス、兄様ズの4人がギルマス執務室に集まっている。


「ギルマス面接がないということは魔法紙がないということ。テイムが常識ということは魅了もしくは洗脳、従属の魔法があること、で間違いありませんか、ギルマス」

「そうだね、エイヴァン。アンシアのような子供でも知っているということは、かなり昔から存在しているんだろう」

「王都のグランドギルドはこのことを知っているのですか」


 ディードリッヒが全員にお茶を配ってまわる。なかなかいい香りだ。


「多分、知らない。知っていればとっとと解体させているよ。シジル地区は閉塞していて関わる者のない街だ。アンシアのように外に出ていこうとしなければ、あそこだけで全てが賄えてしまうんだ」

「厄介ですね。アンシアが子供の頃にはもうあったとていうことは、少なくとも10年、しっかり根付いていることから15年以上前からの団体ということでしょう」


 ご老公様はお茶請けをつまむ。ディードリッヒお手製のボックスクッキーだ。


「しかし、そんな危ない団体が長く秘匿されているとは信じられん。騎士団はなにをしておるのか」

「あそこはほぼ自治区のような扱いですから、警吏も手出しは出来ないと聞いています」

「そういえばエイヴァンはは王都にいたことがあったね。シジル地区に行ったことは ?」


 ありますよとカップを皿に戻してエイヴァンは答えた。


「実は魔法学園を追い出されたあと、しばらくシジル地区に下宿していたんです。すぐにこっちに戻ってくるのも恥ずかしかったので」

「そういえば帰ってきたのは一年後だったね」

「はい、スラムと言っても荒れ果てていたのはかなり昔で、今は普通の街と同じです。入り込めないというだけで、アンシアのように王立魔法学園に通う者もいます」


 悪人しか住んでいないなんてことはないんですよ、とエイヴァンは言う。


「ただ、シジル地区に冒険者ギルドがあるとは知りませんでした。もっとも私は最初から冒険者であると言っていましたし、王都のギルドで動いていましたからね。教えないようにしていたのかもしれません。ただ言われてみれば、確かにペットが多かったように思います」

「うぅむ、変な娘が来たと思ったが、こうなるとかえって良い情報をもたらせてくれたのう。もっといろいろ聞きだせないものか」

「まったくです。ルーに聞き出してもらうというのも手ですね」



 そんなことが話し合われているとも知らず、私はひたすらアンシアちゃんに方角を教えていた。

 彼女はどうしても方向が分からないらしい。


「よくブチ切れないなあ、ルーちゃんは」

「俺なら等の昔に見限ってるぜ」


 街の人のあきれ返った声が聞こえてくる。

 時間はもう夕四つ。


「仕方ないじゃない。この街どこ向いてもまっすぐな道ばっかりで区別がつかないのよ。こんな個性のない街なんて卑怯だわ」

「うーん、確かにそう言われてみればそうかも。そうなると道ではなくお店や家を目印にするしかないわね」


 街の広場。今日ここに戻ってくるのは十四回目だ。

 さあ、気を取り直してラスさんのおうちを探すぞと顔をあげると・・・。


「なに、これ」

「なんでこんなの」


 四本の通りの端に、それぞれ東西南北の文字と矢印の書かれた立て札が立っている。

 道の先を見ると、そこにもところどころに札がたっている。


「常々住居表示が必要だと申請はしていたんだ。今日やっと許可がおりたから、一時的に立て札の形でおくことになった」

「市警長・・・」

「態度はともかく、そっちの嬢ちゃんが頑張ってるのは街のみんなも見ている。頑張って早く依頼を終えろよ」


 アンシアちゃんは唇をかむと、市警長に90度の礼をしてから私の手を握る。


「行くよっ ! 」

「ええ、行きましょう !」


 私たちは手をつないで走り出した。




「ラスさん、型の準備はおわりましたよ。次はどうしましょう」

「あとはそこに流すだけさね。火傷しないように気をつけるんだよ」


 アロイスは飴職人になっていた。


「ルー、今日は来るかなあ」

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