第65話 頑張るあなたはかっこいい
アンシアちゃんとの魔法対決の翌日。
改めて探索のチュートリアルを開始した私たちは、地図を片手に広場の真ん中に立った。
「ここが街の真ん中、道に迷ったらここに戻ればいいわ。教会のある方向が北、冒険者ギルドがあるほうが南。両方の場所を覚えておけば、おのずと東と西もわかるわ」
「わかった、あっちが西ね」
「いえ、あちらは北よ。真ん中に立って左手正面に教会が見えるでしょう」
私はアンシアちゃんの地図の教会の絵を指さした。
「あと、この地図は上が北だから、それで東西南北を判断してね。門が見えたら北以外のどこかだからね」
「北には門はないの ?」
「北はお代官様とご領主様のお館だから門はないわ。では始めましょうか。ラスさんのおうちを探しましょう」
◎
「なにやら胡散臭い話じゃの。スラム公認の非合法冒険者ギルドか」
ご老公様、ギルマス、兄様ズの4人がギルマス執務室に集まっている。
「ギルマス面接がないということは魔法紙がないということ。テイムが常識ということは魅了もしくは洗脳、従属の魔法があること、で間違いありませんか、ギルマス」
「そうだね、エイヴァン。アンシアのような子供でも知っているということは、かなり昔から存在しているんだろう」
「王都のグランドギルドはこのことを知っているのですか」
ディードリッヒが全員にお茶を配ってまわる。なかなかいい香りだ。
「多分、知らない。知っていればとっとと解体させているよ。シジル地区は閉塞していて関わる者のない街だ。アンシアのように外に出ていこうとしなければ、あそこだけで全てが賄えてしまうんだ」
「厄介ですね。アンシアが子供の頃にはもうあったとていうことは、少なくとも10年、しっかり根付いていることから15年以上前からの団体ということでしょう」
ご老公様はお茶請けをつまむ。ディードリッヒお手製のボックスクッキーだ。
「しかし、そんな危ない団体が長く秘匿されているとは信じられん。騎士団はなにをしておるのか」
「あそこはほぼ自治区のような扱いですから、警吏も手出しは出来ないと聞いています」
「そういえばエイヴァンはは王都にいたことがあったね。シジル地区に行ったことは ?」
ありますよとカップを皿に戻してエイヴァンは答えた。
「実は魔法学園を追い出されたあと、しばらくシジル地区に下宿していたんです。すぐにこっちに戻ってくるのも恥ずかしかったので」
「そういえば帰ってきたのは一年後だったね」
「はい、スラムと言っても荒れ果てていたのはかなり昔で、今は普通の街と同じです。入り込めないというだけで、アンシアのように王立魔法学園に通う者もいます」
悪人しか住んでいないなんてことはないんですよ、とエイヴァンは言う。
「ただ、シジル地区に冒険者ギルドがあるとは知りませんでした。もっとも私は最初から冒険者であると言っていましたし、王都のギルドで動いていましたからね。教えないようにしていたのかもしれません。ただ言われてみれば、確かにペットが多かったように思います」
「うぅむ、変な娘が来たと思ったが、こうなるとかえって良い情報をもたらせてくれたのう。もっといろいろ聞きだせないものか」
「まったくです。ルーに聞き出してもらうというのも手ですね」
◎
そんなことが話し合われているとも知らず、私はひたすらアンシアちゃんに方角を教えていた。
彼女はどうしても方向が分からないらしい。
「よくブチ切れないなあ、ルーちゃんは」
「俺なら等の昔に見限ってるぜ」
街の人のあきれ返った声が聞こえてくる。
時間はもう夕四つ。
「仕方ないじゃない。この街どこ向いてもまっすぐな道ばっかりで区別がつかないのよ。こんな個性のない街なんて卑怯だわ」
「うーん、確かにそう言われてみればそうかも。そうなると道ではなくお店や家を目印にするしかないわね」
街の広場。今日ここに戻ってくるのは十四回目だ。
さあ、気を取り直してラスさんのおうちを探すぞと顔をあげると・・・。
「なに、これ」
「なんでこんなの」
四本の通りの端に、それぞれ東西南北の文字と矢印の書かれた立て札が立っている。
道の先を見ると、そこにもところどころに札がたっている。
「常々住居表示が必要だと申請はしていたんだ。今日やっと許可がおりたから、一時的に立て札の形でおくことになった」
「市警長・・・」
「態度はともかく、そっちの嬢ちゃんが頑張ってるのは街のみんなも見ている。頑張って早く依頼を終えろよ」
アンシアちゃんは唇をかむと、市警長に90度の礼をしてから私の手を握る。
「行くよっ ! 」
「ええ、行きましょう !」
私たちは手をつないで走り出した。
◎
「ラスさん、型の準備はおわりましたよ。次はどうしましょう」
「あとはそこに流すだけさね。火傷しないように気をつけるんだよ」
アロイスは飴職人になっていた。
「ルー、今日は来るかなあ」
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