第52話 ルーの討伐修行 先生はディードリッヒ兄様


「生活魔法はもう自由に使えるようになったな」

「はい、大丈夫です。火柱も上がらなくなったし、ハイドロジェットもなくなりました」

「ズーバさんが残念がっていたぞ。もう手伝ってもらえないってな」


 生活魔法で大失敗をしでかした私は、しばらく農家のズーバさんのところで修行をしていた。

 なんで城壁の向こうの農家でかっていうと、街中でまた魔法を暴走させたらいけないからだ。

 具体的には火の生活魔法で雑草を焼いたり、水の生活魔法で水撒きをしたり。

 あまり威力のない魔法を出せるように、細やかなコントロールを指導された。

 最初のうちは難しくて失敗もしたが、コツが掴めてくると色々と応用を効かせることが出来るようになった。

 失敗の内容は話したくない。

 ズーバさんがよく見限らなかったと思う。

 魔法の種類は基本は水と火だが、水を動かせるなら他の物も動かせるかも、で、やったら土がボコボコと動かせた。

 プっと吐き出すイメージで土と雑草を分離、草取りがかなりはかどった。

 で、ついでに土の中でドリルが回っているイメージで動かしてみたら、簡単に耕すことができた。

 この際だからと畝うねも作ってみた。

 掃除機のイメージで収穫もしてみた。


 魔法っておもしろい ! 


「普通はせいぜい水撒き程度だぞ。よくもまあそれだけポンポンと新しい魔法を身に着けられるなあ。やっぱりラノベを読んでいるせいか」

「ひどいです、ディードリッヒ兄様。確かに小説と言ったらラノベくらいしか読んでなかったけど、普通の本も読みますよ。紀行ものとか、実用的なものとか。ここに来る前に読んでたのは、日露戦争の時の日本の捕虜収容所を訪ねたロシア人捕虜の奥様の手記です」


 あれは面白かった。

 残念なことに、あれは実話ではなくて、取材したものをより現実性を持たせるために妻が書いた体裁を取ったということだ。

 感動したのに。


「それにラノベラノベって言いますけど、私、出版したものを買ったことないですよ。全部投稿サイトと無料コミックサイトですもの」

「どうせ買いに行く時間がないのと金がもったいないからだろう」

「大当たりです。それに出版を目的に書かれてないから、考え方が自由で目の付け所が違うんです」


 そこがおもしろいんですと力説したが、兄様に軽く流された。


「さて、ていからへいに上がるには魔物の討伐が必要になってくる。どんな魔物がいるか、知ってるだけあげてみろ」

「スライム、一角ウサギ、ゴブリン、オーク、ドラゴン」


 わかった。もういいと兄様が止める。


「まことに残念だが、ゴブリンとオークは存在しない」

「いないんですか」

「いるかもしれないが、人間型の魔物はいまのところ存在が確認されていないんだ。いるのはわかっているのに何百年も目撃されていないドラゴンもな」


 ・・・もったいない。

 せっかくの異世界なのに、定番の魔物がいないなんて。

 それにオーク肉のステーキとか食べてみたかった。

 ラノベだとすごく美味しそうに書かれてるんだもん。


「二足歩行の人間型なんて、気持ち悪くて食えるか。おまけに人間を食ってる設定だろう。さてと、このあたりだとスライム、一角ウサギなどの角系の魔物が多いな。ネズミとか熊とか鹿とかだ。危険な魔物もいるが、そのあたりの依頼は丙へい以上でないと受けられない」

「危険な魔物ってどんなのですか」

「グリフォン、キマイラ、コカトリス、マンティコアなんかいたかな。後はフェンリルとか。だがこんなのは本当に希少種で、精々熊やら狼やらの高位種だな。年に数回も出ないが、こういうのは俺や兄さんたちみたいなこうクラスかおつの上位メンバーが呼び出される。へいだと少し難しいな」


 フェンリル、いるんだあ。うふふふ。


「おい、テイムしてモフモフしようとか考えるなよ。あいつらは獣だからな」

「言葉とか通じないんですか ? 念話とか」

「猫又と同じで相当長く生きていれば可能らしいが、俺は今まで出会ったことがない。それと従属させる魔法はないことになっている。覚えても使うな。失敗すると三倍返しだし、禁忌の類だからな。フェンリルが飼いたいなら、赤ん坊の頃から世話をするこった」


 出会える確率はゼロだがな。それじゃあそろそろ出かけるか、とディードリッヒ兄様が腰を上げた。



 一角ウサギの目撃情報のあった場所へ進んでいく。

 普通一角ウサギは白い毛皮をもっている。しかし討伐依頼の出ているものはピンクだという。


「ピンクを見たら即、逃げるぞ」

「え、やっつけないんですか」

「俺たちがさがしているのは従来の白。討伐依頼の出ているピンクを倒す理由がない。まして集団だぞ。いくら低級とは言え命が危ない」


 一角ウサギは普通個別で行動している。穏やかな性質で、こちらが手を出さない限り襲い掛かってくることはない。

 しかし、ピンクは数十羽。そして一角ウサギは時により集団行動を取ることができる。

 毛皮が変色したときだ。

 何らかの理由で毛の色が変わると、突然狂暴な性格にかわる。

 そして明らかな敵意を持って他の生物に向かっていくのだ。


「一対一なら問題ない。二三羽でもなんとかなる。だが数十羽が一度に突っ込んできてみろ。串刺しにされてお陀仏だ。考えたくないだろう」

「ピンクの集団に串刺し・・・笑えるけどそんな死に方いや」

「今度何十人かの臨時パーティーを作って一度に討伐すると言ってたぞ。俺たちには関係ないけどな」


 目の前を白い塊がのそのそと横切った。


「いたっ ! 一角ウサギ !」

「よし、いけ」


 ウサギが逃げ足が速いので剣では無理。

 ここは軽くレーザービームで一息に・・・と、、一角ウサギは草むらに飛び込んだ。

 しまった。逃げられたと思った瞬間、私の足元に逃げたはずの一角ウサギがドサッと落ちてきた。

 草むらがザワザワ動き、ピンク色の塊が姿を現す。


 ・・・なんか目つきが悪いんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る