第53話 ルーの討伐修行 その2 ピンクの塊は恐ろしい

 私の足元に落ちたスタンダード一角ウサギは、お腹から血を出して絶命していた。

 茂みから出てきたピンクの塊の頭には、赤いシミのついた鋭い角が見える。

 右目はケガをしたのか潰れている。

 目つきがメチャクチャ悪い。色はかわいいのに。


「まずいな。アチラさんは戦う気満々だ。まさかこんな浅いところにいるとはな」

「逃げますか、兄様」

「ああ、そうしたいのはやまやまなんだがな」


 ピンクのボスは不敵な笑みを浮かべて、えっと、別に笑っているわけじゃないんだけど、そうとしか受け取れないような目でこちらを見ている。

 配下のピンキーズたちもニヤニヤしているような雰囲気だ。

 映画やドラマに出てくる場末のチンピラそっくりだ。


「いいか、ここからは別行動だ。お前は左に行け」

「左ですか」

「まっすぐ行けばすぐに街の入り口だ。あの目立つ色だ。城壁の上の警備兵が気づいてくれるはずだ」

「兄様はどうなさるんです」

「俺は走る速さを上げる魔法が使える。捕まらないギリギリの速さで引き付ける。川沿いに走るから、お前は警備兵に助けを求めろ。そしてギルドに召集をかけろ。いいな」

「はい !」

「街の入り口で会おう。1、2、行けっ !」



 街の東側の森。

 俺は走りだすルーの後ろに立ち、突風でピンクの集団を吹き飛ばす。

 妹分がある程度の距離を取ったのを確認し、ピンキーズ・ボスに向かって右手をクイッとやって挑発する。

 BGMはもちろん「燃えよ ! ド〇ゴン」だ。

 ピンクの塊がこちらに注目する。

 数十羽の青い目が俺に注目する。

 ? 青い目 ?

 ウサギの目は赤いはずだ。

 それは普通のウサギも一角も、さらにその上位種もかわらない。

 こいつら変色するのは毛皮だけじゃないのか。

 やつらは前屈姿勢から腰を後ろに引いている。

 来るか。

 と、奴らが一斉に地面を蹴った。

 風で軽く拭き飛ばす。

 体制を立て直すと同時に右手の森の中に走る。

 案の定奴らは着いてくる。すごいスピードだ。

 一角ウサギはこんなに早かったか。

 体全体に早足をかける。

 はじめてこの魔法を使ったときは足だけにかけたので、上半身が付いてこれず死にかけた。

 さすがにベナンダンティになって10年以上。もうそんなヘマはしない。

 森の終わりが見えてきた。

 そろそろこの鬼ごっこを終わらせよう。


「 ?! 」


 先ほどまで俺を追いかけていたウサギどもがふいに消えた。

 見るとピンクの塊が元来た道を猛スピードで戻っていく。

 しまった !

 お取り作戦がバレたか。

 俺は一度森から出て、川の下流に向かって走る。

 間に合ってくれ。

 ルー、俺が行くまで持たせてくれ。



 私を追いかけてくるピンクのウサギはいない。

 ディードリッヒ兄様が引き付けてくれているのだろう。

 森の先が明るくなっている。木の形に覚えがある。

 森の終わりだ。

 急いで応援を呼ぼう。

 ピンクの塊に串刺しにされた兄様は見たくない。

 ピンクの塊・・・串刺し・・・プっ。

 いけない、コミカルな方に想像しちゃった、反省。


 しばらく走ると街の入り口が見えてきた。

 城壁の上に数人の警備兵が並んでいる。

 街の門にも何人かが立っている。

 私は大きく手をふって・・・あちらも手をふっている ?

 なんだか後ろに見ろと言っているようだ。

 振り向いてみると・・・ピンクの塊 ?!

 数十匹のピンク一角ウサギがものすごいスピードで走ってくる。

 先頭は当然あの片目のボスだ。


「ちょっ、ちょっとなにしてるんですかっ !」


 川にかかった入り口前の跳ね橋が音を立てて引き上げられていく。

 そりゃそうだ。あんな危険な魔物を街に入れるわけにはいかない。

 とにかく走る。橋につかまることが出来れば助かる。

 間に合うか ? 

 でも、そうしたらディードリッヒ兄様は ?

 走る足が少しだけ遅くなる。

 その時、橋は完全に上がり、街の門は閉まってしまった。

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