第49話 閑話 ・コーディネートはこーでねーと
ルーがもうすぐ退院する。
それを教えてくれたルーのおばあさんが僕に頼み事をしてきた。
◎
「姉さん、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なあに。珍しいわね、ナオトが頼みなんて」
一人晩酌をしている姉、
「友達のさ、服を見立ててほしいんだ。同い年の女の子」
「ふふーん。彼女 ?」
「まだ友達」
姉はニヤッと笑うと、通勤用のバックから自社カタログを出してテーブルの上に並べる。彼女は服飾系の会社でデザイナーと広報をしている。
「はい、選んで」
「いや、姉さんに選んで欲しいんだけど」
「あったこともない子の服なんていきなり選べないわよ。まずはナオトがその子に着せたい服を選びなさい」
似合いそうな服じゃなくて、着せたい服 ? パラパラとカタログをめくる。
レースとかフリルとか似合いそうだな。
でもあんまりゴテゴテしてないほうがいいような気がする。
小花模様とかよさそうだな。
カタログにどんどん
「ふーん、ロマンチック系が多いわね。その子、可愛い ?」
「めちゃくちゃ可愛い」
「そういう子って自分で似合うものわかってそうな気がするけど、親の趣味で着せられてるとかかしら」
勝手に人の過去を話すのはどうかとは思ったけど、僕は姉にルーのコンプレックスについて説明することにした。
◎
「姉さん、ちょっと落ち着いて !」
「これが落ち着いていられますか ! なんなの、その小学生共はっ ! 女の子の人生狂わせやがって、己はどれほどの顔なんじゃいっ !」
「どう、どう、どう !」
一通りの罵声が終わると、姉はフッと笑って僕の肩を叩いた。
「いい、ナオト。人間はね、どんな美人でもどんな可愛い子でも、心の持ちようで顔が変わっていくのよ。頭蓋骨からの復顔術では美人でも、本当は物凄い顔だったってこともあるの。いい、悪いことを考えている顔は悪い顔になる。悪いことを言う口は曲がった口になる」
「う、うん」
「ブスだ、ブスだと言われ続ければ、どんなに整った顔もブスになっちゃうのよ。このままではその子も本物のブスになるわよ !」
ルーが ? ブスに ? あり得ない !
「姉さん、助けて !」
◎
「でかした、ナオト ! よくぞあんな逸材を見つけてきたわ !」
ルーをヘアサロンに置き去りにして、僕たちは姉が務める会社のアンテナショップにやってきた。
「手足長い、顔小さい、立ち姿バッチリ。皆、我が社の服が最高に似合う子を見つけたわ ! 社割でガンガン買うわよ !」
「ね、姉さん、あの、例の件もよろしく」
「まかせなさい ! それも含めてのコーディネートよ。時間は一時間半。死ぬ気で選ぶわよ !」
カウンターに服が山積みになっていく。頼まれたのは夏物秋物各五着ずつだ。
「姉さん、予算ってものがあるのわかってる ?」
「わかってるわよ。全部買うわけじゃないわ。持ってって本人と合わせてみないとね。ちゃんと予算内でおさめるから。ナオトは荷物持ちよろしく !」
◎
「いやあ、たのしかったあ。もうバッチリのコーディネートよね」
二人が去ったヘアサロンで、
「素晴らしい仕上がりでしたね、店長。傷んだ毛を切っただけなのに、全然別人みたいでしたよ」
お茶請けのクッキーを並べながらアシスタントのスタッフが少し高揚した声で言う。
「元がいいからねえ。まったく、悪ガキのいうこと真に受けて、せっかくのいい時期を無駄に過ごしてしまったのね。もったいない」
「でも、これからは
もちろん、と
「未来の
「後ろ姿だけとか、顔出しNGとかではダメかしらね。にしてもナーちゃんたらベタ惚れじゃない。可愛いって連呼しちゃって」
「今ごろ手くらい握ってるかしら。あ、その袋も一緒に彼女の家に届けてくれる」
スタッフがよけた袋を、着替えと一緒にまとめる。
「それも着換え ?」
「下着。なんかね、前にパニック起こした時に可愛い下着が欲しいって叫んでたんですって。ナオトが真っ赤になって頼んできたのよ。やっぱり可愛い服には可愛い下着が必要よね。ちゃんとした着用方法のメモも入れといたから、さらに見栄えが違うはずよ」
じゃ、そろそろ行くわと
これから店に戻って、スタッフにメグミちゃんの写真を披露するのだ。
秋冬と春は間に合わないが、来年の夏物に今日の成果をぶち込めそうだ。
「テーマはプリンセス・サマーとかどうかなあ」
アイディアがどんどん湧いてくる。
弟よ、絶対にあのコを手放すんじゃないわよ。
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