第44話 Meanwhile in the 現世 一方そのころ現世では ~アロイス、がんばる~

 昔は『ダイヤルまわす』っていうと電話をかけるって意味だったらしい。

 多分、ストップ位置までの時間と戻る時間で数字を確定していたんだろうけれど、よくそれで正しい番号に繋がったなと思う。

 祖父の若いころは、電話がない家もあったらしい。

 そういう人は近くの家からかけさせてもらったり、呼んでもらったりしてたって。

 電話自体が高いお金を払わなければ引けなかったっていうから、とんでもない時代だったのかなって思う。

 そういえば大家さんのところから電話をかけさせてもらうって、どこかのアニメ映画であったなあと、僕は番号をプッシュした。



 いつものように間はざまの部屋で目を覚ました僕は、椅子に座っている女の子に気が付いた。

 やっと来た。


 冒険者は対番、後輩を指導してやっと一人前と認められる。

 僕は甲・乙・丙・こう・おつ・へい・丁・可・不可てい・か・ふかのうちのへいクラスの冒険者だけど、対番を冒険者見習いの不可ふかから正式な冒険者であるにするまでは上のクラスに上がる資格はない。

 資格が出来ても対番がていに上がらないと、昇格は難しい。

 の段階で討伐や解体が出来ずドロップアウトする人も多いからだ。

 大切なのは後進を育てること。

 それが出来てこその上位クラスの冒険者といえる。

 普通はギルマスから後輩を紹介されるのだが、ベナンダンティ限定でいえば、間はざまの部屋での出会いが優先される。

 僕もディー兄さんに出会って対番になってもらった。

 まあ、あまり見つからないとギルマスが適当に紹介するけど。

 とにかく、そんな感じで僕にも対番が出来た。

 びっくりするくらい綺麗な子だった。

 こんな綺麗な子、あちらでもこちらでも見たことがない。

 そして彼女、ルーはいろんな意味で規格外だった。

 まず浅きに流れない。

 やるべきことを見極めて、楽をしようとかズルをしようとか考えない。

 護衛任務では送り迎えでワンセットだけれど、帰りはいらないといって不可ふかを帰してしまうのがお約束になっている。

 僕の時は子供の護衛だったけど、お泊りするから明日の朝に迎えに来てと言われてのやり直しだった。

 彼女も同じように言われたけれど、申し出を固辞してしっかりと送り届けている。

 彼女と遊びたかったご老公様には不評だったけど、僕は責任感とはこういうことかと思った。そして自分が依頼に対してちゃんと向き合ってきたのかと反省した。

 とにかく気持ちがいいくらいまっすぐ前をみている子だった。


 外見はこちらと現世では全然違うことも多い。

 実際僕だって美少年と呼ばれているが、現世では極々ふつうの顔でしかない。

 だから、こちらで物凄い美少女でも、あちらでは平凡な容姿であることもあり得る。

 それでも、僕は彼女に見惚れてしまった。

 チュートリアルを続けているときの真剣な表情や、エイヴァン兄さんにからかわれて口を尖らせてるところ。ちょっとした動き、気づかい。

 顔の造形はどうでもよかった。

 たぶん、ギルマスの言うところの『魂の輝き』って言うんだろう。

 ただただ、全てが僕を引き付けてくる。


 彼女は現世で意識不明の状態にある。

 ギルマスの提案で回復魔法を使える僕は、入院中の彼女を見舞って魔法かけることになった。

 もちろん、効くかどうかわからない。

 でもやってみる価値はある。

 ルーのご家族と接触するために、何度かメールを送り、自宅にも電話をした。

 ルーのご両親は海外に出ているららしい。

 彼女から「両親はえんこうに行ってる」と聞いて、"援交"が頭に浮かんだのがバレて叩かれた。

遠洋航海えんようこうかい ! 略して遠航なの !」

 そんな一部の職業の人たちにしかわからないこと言われても困る。

 とにかく家には誰もいないから、留守録入れてくれればオッケー!

 多分それで連絡とろうとしたって実績はできるから。


 そうして今日、僕はルーの祖父母の家に電話をする。

 呼び出し音が続く。

 留守なのかな。

 付き添いに行ってるのかな。

 5回、6回。

 掛けなおしたほうがいいかな。

 そう思ったとき、電話が繋がった。


「はい、佐藤です」

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