第39話 そして、冒険者の絆・・・プっ!

 ギルマスとご老公様が兄様たちの扱いに本気で困っている。

 美形すぎて侍従として使えないって、どうしろって言うんだろう。

 いや、本当に美形なのよ。

 このまま執事喫茶とやらに出したらあっという間にナンバーワンですよ。


「おい、今なんて言った。執事喫茶で俺たちに何をしろっていうんだ」


 しまった。心の声が駄々洩れになっていた。


「そういう感想が出るとは、まさか執事喫茶に行ったことがあるのか」

「行くわけないじゃないですか。吐き気がするほどブスがもてはやされてもみじめなだけですよ」

「だーかーらーっ! お前は多分ブスじゃないと言ってるだろう!」

「見てもないのに無責任に言わないでよっ!」

「それは僕が確認してくるから。もう少し我慢して」


 私たち四人がワイワイやっている横で、ご老公様たちは困ったように話し込んでいる。


「誤算じゃったの。もっとごつい顔だと思っておった」

「髭のせいで顔が1.5倍にが見えていましたからね」

「私たちも唖然としましたのよ。素顔が分かってからはもうこれでもかと磨き上げましたわ」


 侍女頭のセシリアさんは良い仕事をしましたわと微笑む。


「ですが、それが裏目にでるとは」

「うーむ、どういった身分で王都にいかせるか、この半年でよく考えねばの。そういえばギルマス」

「なんでしょう、ご老公様」

「例の、眠らないペナンダンティのことじゃが、いくつか記録が見つかった」


 ご老公様は筆頭執事のモーリスから書き込まれた紙の束を受け取る。


「歴代領主の業務日誌のようなもんじゃが、何件か、いや、かなりの数が記録されておる」

「かなりの数・・・ですか」

「年老いたベナンダンティがほとんどじゃが、少数の若者もおった」


 年寄がだんだん眠れなくなってくる。それが短ければ数日、長いと数年続く。

 そして、唐突に姿を消してしまうのだ。


「・・・わかってきましたよ。つまりあちらでは亡くなっていたということですね」

「多分、そうなんじゃろう」


  ギルマスは受け取った書類に目を通すと、トントンと揃えてモーリスに返す。


「ルーの場合は打ちどころが悪くて眠っているだけですが、今まで多くのベナンダンティがこのような形で生涯を終えていたのでしょう。そしてそろそろ私の番だ」

「何をおっしゃるのです、ギルマス!」


 セシリアがとんでもないと首を振る。


「まだまだお元気でいて下さらないと困ります。ギルマスの場所を守れる者はまだおりませんわ」

「だが、私はもうずいぶん長く生きてきたのだよ。そろそろお迎えが来てもおかしくない。次のギルマスが決まらないのは、私が後進を上手く育てられなかったからだよ。人は誰しもいつかはこの世に別れを告げるんだ」


 でも、それは今じゃない。


「今は、新しい仲間の成長をみまもろうじゃないか、そうだろう」

「・・・はい・・・」


 小さな声で返事をするセシリアの左耳には赤いピアスが小さく光っていた。



「兄貴・・・申し訳ないです。勝手なことをしやした」

「・・・もういい」


 翌日、ハイディさんの酒場。

 そこに私たち四人と兄様たちのパーティーメンバーが集まっている。

 私がチュートリアルを始めて以来、兄様たちは私の問題に集中してくれていた。

 しかし、そのせいでパーティーメンバーは依頼を受けることができず、稼ぎがゼロという日々が続く。

 そこでさすがのメンバーも背に腹は代えられぬと共同作業をすることにした。

 今まではかなり高い報酬の依頼を受けることが出来ていた。

 それは兄様たちがこうというトップクラスの冒険者だったからだ。

 しかしリーダーはトップクラスでも、残りは真ん中あたりのクラスのものばかり。

 人数で押してなんとか依頼をこなす。

 そしてここ数日でなんとか連携も取れるようになり、すこしづつだがパーティーとしての体裁も整ってきた。

 だが、それは両リーダーに無断で行ったこと。

 全員が怒りの鉄槌を覚悟した。


「申し訳ないのは俺たちの方だ。妹分の為とはいえ、可愛いお前たちをほったらかしにしてしまった。責任あるリーダーの取る行動ではなかった。すまなかった」

「兄さんの言う通りだ。悪いのは俺たちだ。ゆるしてくれ」


 エイヴァン兄様とディードリッヒ兄様が頭を下げる。

 元メンバーたちは慌ててそれを止める。


「だが正直に言うと、俺は嬉しい」


 エイヴァン兄様が二ッと笑う。


「お前たちが自分たちだけでここまでやれるとは思わなかった。俺はお前たちを見くびっていた。俺がいなくても、お前たちはやっていける。成長できる。これからもっとクラスを上げられる」

「俺も自分がいないとだめだと思っていた。お前たちを引っ張っているつもりで、実は成長を邪魔していたんだ。上に立つものとして、してはいけないことだった」


 ディードリッヒ兄様も少し照れたような笑顔を浮かべる。


「これからは対等な冒険者仲間だ。もう兄貴なんて呼ばなくていいぞ」

「そんな! 兄貴は永遠に俺たちの兄貴っス! 

「見捨てないでくだせぇ! パーティーは離れても、兄貴は俺たちのリーダーでさぁ!」


 男たちはおんおん泣きながら兄様たちにすがっていく。

 そんな元舎弟たちを兄様たちはよしよしと慰める。

 酒場の中は阿鼻叫喚・・・いや、感動の嵐が・・・吹き荒れる。


「ねえ、アル、これってすごく、なんていうか、清水の次郎長一家みたいなノリ?」

「たとえが古すぎない? ていうか、その年でそれを知ってるルーがすごいよ」

「曾祖母がすきでねえ。よく一緒に歌ってたのよ」

「あ、それ、僕も同じ。祖父が好きでいろんな映画を見せられた」


 酒場のカウンターでは女将のハイディさんと見物に来たディフネさんがバッカじゃないのとグラスを酌み交わしている。


 その日、ヒルデブランドに新しい冒険者パーティーが生まれた。

 パーティー名は『雀のお宿』。

 初心忘るべからずとの気持ちから酒場の女将たちがつけたうんちくある名前だった。

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